第9回 社会の中で生きる患者(解説)

第9回 社会の中で生きる患者(解説)

2017.11.21 update.

IVR看護研究会

 2000年に発足し、安全安楽かつ効果的に患者がIVRを受けられるようにIVR看護のあり方を検討する場です。放射線科における看護の臨床実践能力を高めるため専門知識や技術の習得、研鑽をめざし、チーム医療における看護師の役割を追究し、また、IVR看護師の専門性を確立するため、継続して学習する場、人的交流の場を提供することを目的としています。

 発足まもなくから開催している研究会(セミナー)は、今年3月で第17回を迎えました。第18回は2018年3月10日開催予定です。

公式webサイト:http://www.ivr-nurse.jp/

Face book @ivrnurse2016

 

ナラティブに基づいた医療(物語りと対話に基づく医療)

 

 今回は準備が整い、検査が始まる前の数分をナラティブに基づいた医療として振り返っていきます。

 NBM(Narrative Based Medicine)とは、患者が語る「病気になった理由」「経緯」「症状」「病気についてどのように考えているか」といった物語から、患者が抱える問題を全人的(身体面だけでなく、精神や心理状態、社会的立場などを含むあらゆる要素から)に把握し、治療方法を考える医療のことをいいます。患者と医療従事者が対話を通じて良い関係性を作り、双方が満足のいく治療を行うことを目的としています。

 NBMが必要な理由として、1つには、人にはそれぞれ個別の歴史があり価値観があるので、それを尊重することが大切なためです。患者はその個別の語りに耳を傾けてもらうことで医療者への信頼につながり、結果としてより良い医療へとつながります。 

 2つ目は、患者は「語り」を聞き届けてくれる相手を得ることにより、その経験に新たな意味づけをし、価値を見出すことができるからです。患者は「病む」ことを人生の基盤を揺り動かす「世界の崩壊」に等しい経験と感じるとも言われています。しかし、そんな経験を自分にとって必要で有意義な経験であると位置づけることで、治療・療養を生活に組み込み前向きに捉えることができます。

 3つ目は、医療者と患者の関係を良好に保つためです。医療者の世界と患者の日常生活の世界は別々で、同じ時間に同じ場所で語り合うことがないため、その両者がともに関わることができる「ことば」が必要です。それがNBMなのです。

 NBMの考え方は、従来の医療が科学的根拠(エビデンス)に基づく診断・治療を重視してきた結果、良い医療を行っても患者の満足度が上がらず、医療従事者もやりがいや達成感を持ちづらかったというジレンマから起こった考え方です。一方通行の押しつけではなく、双方向ということが重要です。

 

NBM~IVRバージョン~

 

 IVR室はゆっくり座る空間もなく、常に動きながら患者と話す場面が多くあります。そのため、検査に関する特記事項がない場合はマニュアル通りに準備をしていきます。

 今回、D看護師は患者へ挨拶をした時に表情が硬いことに気づき、何か変だなと感じ取りながらも、いつも通りに検査準備を進めていきました。しかし、D看護師は患者の様子が気になり、さらに声をかけました。病棟で過ごす以上に慣れないIVR室という環境の中で、初めて出会う数分間で患者が自分の思いを語ってくれたのはなぜでしょうか?

 ベナーは「患者の微妙な変化を察知できるのは看護師の気づかいによるものであり、気づかいこそが人間の熟練した実践にとって必須条件である。自分を心から気づかってくれる人がいることを患者自身が感じることは、病気からの回復意欲をもつことができる」1)と言っています。

 今回は患者の様子が気になり声をかけたことで、質問や思いを引き出すことができましたが、検査を早く進めなくてはいけないと思う中、「大丈夫ですよ」の一言で返していると、患者はそれ以上何も話せなくなっていたでしょう。しかし、患者が今、何を感じているのか。そう感じる理由は何であるのかとD看護師が気にかけることで、この短い会話の中に、患者は自分のことに寄り添ってくれている安心を感じ取り、自分の思いを語り始めていきました。

 私たち看護師は職業柄、先読みしながら多くの仕事を機械的にこなしていくため、患者の複雑な心境でさえ一括りに判断しがちです。しかし、人の心情ほど複雑なものはなく、読み間違えてしまうことも多くあります。

 患者への気遣いとは、患者の心を先読みすることではなく、寄り添うこと。そして、その確実な方法は、患者に問いかけることです。患者は、今は自分のための時間だと感じとり、安心し、それが信頼へとつながることでしょう。もちろん患者が何も話さないこともあるでしょう。それも1つの答えなので、そのまま受け止めていくことが大事です。柳田は「一生懸命わかろうとしてくれている人がそばにいるという、そのことが大事なので、そんなに深い苦悩の中にいる患者のことを全部わかった気になってしまったら、かえって傲慢に見えてしまう」2)と述べています。

 会話の中でよく使いがちな「大丈夫ですよ」の一言よりも、看護師が真剣に話を聞いてくれる姿に、わかることではなく、わかろうとしてくれるその姿に、患者さんは安心を感じ取ることができます。くり返しますが、患者さんにとって病気になることは、「世界の崩壊」に等しい人生の基盤を揺り動かされるほどの出来事です。今までできていたことができなくなる、先の人生を考えられなくなる、自分の人生がそこで終わってしまう不安に駆られます。

 しかし、自分に携わる看護師が信頼できる看護師だと、「自分が心配していることを話してもいいのだ」と思えるようになり、一方通行の医療ではなく双方向の信頼の医療へと変わり、患者さんの生きる力を呼び起こすことができるでしょう。

 

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 今まで、何気なく準備をしていた穿刺部位。準備する側においては些細に思えることも、今回のように寿司職人という手を使う職業の方にとっての穿刺部位の検討は、これから先の人生を変えてしまうかもしれない大事な選択の1つとなります。

 看護師として当然、専門技術は大切ですが、その行動の中に「心がこもっているかどうか」、患者の気持ちを、わかるのではなくわかろうとする看護師の姿に患者の生きる力を呼び起こすことができるのでしょう。

 

***

 

 この寿司職人Mさんの検査ですが、穿刺部位は左手に変更し、安心して検査を終えることができました。退室する際、MさんからD看護師に声を掛けていただきました。「右手ありがとな」と。

 では、最後に謎かけでしめくくりたいと思います。

 整いました。

 IVR看護師とかけまして、気功師と解きます。その心は、「どちらも気づかい(・・・・)上手でしょう」

 

(IVR看護研究会 丸山陽子)

 

 

[引用・参考文献]

1)   パトリシア・ベナー編著,早野真佐子訳:エキスパートナースとの対話―ベナー看護論・ナラティブス・看護倫理,照林社,29,2004.

2)柳田邦夫・陣田泰子・佐藤紀子編集:その先の看護を変える気づき―学び続けるナースたち.医学書院,15,2011.

3) 看護roo!「看護用語辞典ナースpedia」

https://www.kango-roo.com/ [2017.11.14アクセス]

 

 

 

 

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