第13回 IVRは一期一会?(解説)

第13回 IVRは一期一会?(解説)

2018.2.09 update.

IVR看護研究会

 2000年に発足し、安全安楽かつ効果的に患者がIVRを受けられるようにIVR看護のあり方を検討する場です。放射線科における看護の臨床実践能力を高めるため専門知識や技術の習得、研鑽をめざし、チーム医療における看護師の役割を追究し、また、IVR看護師の専門性を確立するため、継続して学習する場、人的交流の場を提供することを目的としています。

 発足まもなくから開催している研究会(セミナー)は、今年3月で第17回を迎えました。第18回は2018年3月10日開催予定です。

公式webサイト:http://www.ivr-nurse.jp/

Face book @ivrnurse2016

 

Aさんの置かれていた状況

 

今回、F看護師がIVRで担当した患者Aさんは、膵がんで手術適応なしと言われています。膵臓は後腹膜に位置していることから、がんが発生しても症状が出にくく、早期の発見は簡単ではありません。膵がんで手術適応がなしの場合、病期はステージⅢまたはステージⅣにあたります。

膵がんの病期別5年相対生存率1は、ステージⅠでは41.2%ですが、ステージⅢで6.1%、ステージⅣで1.4%となります。データは平均的でかつ確率として推測されるもので誰しもがこの値にあてはまるものではありませんが、手術をするつもりでいたのに手術はできないと聞かされたAさんの心理状態はどうだったのでしょうか?

悪いニュースを知らされたがん患者に起こる一般的な心の反応から考えてみます。Aさんは入室した時から看護師と目を合わせないまま治療を受けていました。がんの告知を受けた患者さんは、「もうだめだ、死ぬだろうか」という不安や恐怖、「もう生きていても何も良いことはない」という絶望感や無力感、「困った、どうしたらいいんだろう」という困惑や混乱などの気持ちの変化が現れます。

減黄のためIVR室に来たAさんは、黄疸により膵がんが発見されたと考えられ、告知後まもない状況だったと判断できます。また、手術ができない状況であり、病期も進行した状態であること、つまり5年相対生存率も低い状況であることが考えられます。これらから、Aさんに関わっていくためには、初めてのIVR だから不安が強いという判断では足りないということがわかります。もしかすると、がん告知を受け予後を考え、死が間近に迫っているように感じていたかもしれません。

しかし、このような心理状態のAさんがとった「目を合わせて話してくれない」という状況で、しかも短時間のIVRの場合、私たち看護師も戸惑うことが多くそのまま終わってしまうこともしばしばあるのではないかと思います。そこで、あらためてAさんがとった行動について考えてみたいと思います。

 

患者さんに今、何が起きているのか考える

 

がん患者の場合、がんに罹患したことによる身体的苦痛、死への不安、社会的役割の喪失などにより、不安・孤独・絶望などの苦悩を抱えると言われています。これらによりストレスが増強し、そのことが無意識下の防御規制を動員させることになり、理解困難・対応困難な態度・行動になります。防御規制は自分の精神を守ろうとして無意識下で働く反応なため、患者自身もなぜそのような態度をとるのかわからないのです。ここでは、正常な場合でもみられるような、ストレスによる心理的影響から考えてみたいと思います。

一般的に、ストレスによる心理的影響としては、次の4つの変化が生じると言われています。

1.  生産性の低下:集中力の低下、能率が悪くなり仕事がうまくいかなくなる

2.  学習能力の低下:記憶力が低下し、新しいことが頭に入らなくなる

3.  楽しむ感情の減少:悲観的になる、気持ちが沈み生活を楽しめなくなる

4.  対人関係力の低下:思いやりがなくなる、人間関係がうまくいかなくなる

 

今回、F看護師が担当したAさんは、話しかけても「目を合わせない」患者さんでした。4つのストレスの心理的影響のうち、「4.対人関係力の低下」が、IVR 室で目に見えた変化だったと考えます。

対人関係力の低下を来した状態の患者さんは、その人らしさが変化している状況です。ただ単に、ちょっと面倒な患者さん、どうせ1回しか会わないし、などと思うのではなく、こんな時こそメンタルケアのスイッチを入れる必要があります。「この患者さんに何が起きているのだろう」「どのように対応したらよいか」と考えられるようになることが、メンタルケアの第一歩と言えます。

また、Aさんのようにその人らしさが変化していることに気がつけるようになるには、この人がどんな人なのか、今どんな状況なのかを知る必要があります。看護は、あらゆる年代の個人・家族・集団・地域社会を対象とし、対象が本来持つ自然治癒力を発揮しやすい環境を整え、健康の保持増進、疾病の予防、健康の回復、苦痛の緩和を行い、生涯を通して、その人らしく生が全うすることができるよう身体的・精神的・社会的に支援することを目的としています1F看護師は、IVRを受けるAさんを身体・精神・社会的側面から捉えてケアを行なっていく必要があったのです。

 

 

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患者さんのその人らしさを知る

 次に、この場面での看護師の役割について、パトリシア・ベナーが示した「看護実践の7つの領域と31の能力」の中から、「領域1.援助役割(8項目)」をもとに考えてみたいと思います。

 

<援助役割>

 1) 癒しの関係:雰囲気作りをして癒しへの意欲を高める

 2) 痛みやひどい衰弱に直面した際、安楽にし、その人らしさを保つ

 3) 存在する:患者とともにいる

 4) 患者が自分自身の回復の過程に参加し、コントロールすることを最大にする

 5) 痛みの種類を見極め、適切な対処方法を選んで痛みの管理やコントロールを行う

 6) 触れることを通して安楽をもたらし、コミュニケーションを図る

 7) 患者の家族に、情緒的なサポートと情報提供的サポートを行う

 8) 情緒的・発達的な変化を通して患者を導く:新しい選択肢を提供し、古いものを破棄すること(方向づけ、指導、介入)

 

 Aさんの場合、あいさつや声かけに対して術中も目を合わさない、涙を流している状況でした。このような状況で私たち看護師が果たす役割は、「3)患者とともにいること」「5)手技に伴い術中に生じる痛みの管理やコントロールを行うこと」「6)適宜、患者さんにタッチングを行いながら安楽をもたらし、コミュニケーションをとる姿勢を示すこと」ではないかと考えられます。

また、8項目の中にはありませんが、看護が途切れないよう病棟看護師に状況をしっかりと伝えていくことも必要です。今回Aさんは、継続した看護が行われていたからこそ、治療を前向きに捉えることができたのではないでしょうか。

IVRは一期一会。そんな時もあれば継続して患者さんに関わることもできます。だからこそ、患者さんが今どんな状況に置かれているのか、患者さんはどんな生き方や考え方をしているのかなど、その人らしさを知り、患者さんに寄り添った看護の提供が必要なのだと思います。

(IVR看護研究会  浅井望美)

 

 

[引用文献] 

1) 日本看護協会:看護に関わる主要な用語の解説―概念的定義・歴史的変遷・社会的文脈.日本看護協会,2007

[参考文献]

1) 膵臓がん基礎知識,国立がん研究センター がん情報サービス――一般の方へ

https://ganjoho.jp[2018.01.10アクセス]

2)川名典子:がん患者のメンタルケア.南江堂,2014

3)城ヶ端初子監修:難しいなんて言わせない! 誰でも分かる看護理論.医学芸術社,2005

 

 

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