第11回 おいてきぼりの家族(解説)

第11回 おいてきぼりの家族(解説)

2017.12.15 update.

IVR看護研究会

 2000年に発足し、安全安楽かつ効果的に患者がIVRを受けられるようにIVR看護のあり方を検討する場です。放射線科における看護の臨床実践能力を高めるため専門知識や技術の習得、研鑽をめざし、チーム医療における看護師の役割を追究し、また、IVR看護師の専門性を確立するため、継続して学習する場、人的交流の場を提供することを目的としています。

 発足間もなくから開催している研究会(セミナー)は、3月16日に第19回を迎えました。記念すべき第20回は、2020年3月7日に開催予定です!


公式webサイト:http://www.ivr-nurse.jp/
Face book @ivrnurse2016

 

家族は何を求めているか

 家族のニーズには一般的に、以下のようなものがあります1

①   質問に対し、率直な回答を得ること

②   患者の容態が悪くなる要因について説明を受けること

③   患者の経過、最終的な状態、回復のチャンスについて説明を受けること

④   患者の容態が変化した時には、自宅まで連絡をもらうこと

⑤   理解しやすい説明を受けること

⑥   1日に1回は情報を受け取ること

⑦   希望を持つこと

⑧   病院職員の患者に対するケアを信頼すること

⑨   患者が最高のケアを受けているという保証をくり返し得ること

⑩   何度でも患者と面会すること

 

 家族は、出来事に対する予測や準備がないうえ、患者の情報が十分に得ることができません。「詳しいことは検査をしてみなければわからない」と説明されることが多く、いったい患者に何が起こったのかさえ家族には理解することが困難な場合も多いです。ましてやそのまま緊急治療が行われた場合などは、家族の待ち時間は数時間に及ぶことがあります。患者の状況に関する情報が得られないことは、家族の不安や恐怖をいっそうかき立て情緒的危機を強める結果を招きやすいと言えます。鉄谷らの研究2では、予定していた手術終了時間を1時間超えると、家族の不安は急激に増強していました。このことからも、今後家族への術中訪問のタイミングは考えていかなければなりません。

 

情報提供として

 

 救急医療においては、短期間で生命的予後が決定されるため、患者や家族が受ける精神的衝撃が特に強く、精神的動揺に対する医療者の早急な介入が必要になります。そこで上述した家族のニーズを踏まえると、緊急の場でできることとは、次の2点です。

 

①   現状においてわかっていることを知らせる

②   現在行われている救命への努力を伝えることで、生命予後に関する不安に応える

 

 家族は、医療者が伝えたと思っていた内容が実際にほとんど頭に入っていなかったり、理解はできても心理的にそれを受け入れることができずにいたり、あるいは日々変化する情報が未消化なまま混乱して大きな誤解が生じている場合も少なくありません。

 

では実際、IVRの場では具体的に何ができるでしょう?

 

 IVR看護師のその日のリーダーが、検査開始後30分から1時間経過したらIVR室から病棟へ情報を発信したり、家族が来院しているかしていないかの確認を取るなどの「家族への配慮」ができるでしょう。特に緊急時は、家族をに対応する部署が明確ではなく、家族は帰室病棟さえ決まっていないこともあります。そのような時はIVR看護師から積極的に関わっていき、病棟看護師と情報交換を行い、その情報を家族に提供していくことが必要です。

 その情報提供の例を、上記の2点から具体的に示してみます。

 

①   現状においてわかっていることを知らせる

  「右冠動脈の造影を終えて、これから左の冠動脈の撮影に入るところです」

  「有意狭窄があったため、これからPCI治療に入ります」

②   現在行われている救命への努力を伝えることで、生命予後に関する不安に応える

 「冠動脈造影の診断の結果、有意狭窄がありました。これから人工心肺装置を回しながらPCI治療を進めていきます」

  「狭い血管の治療に入ります。また治療後はCICU(心臓疾患集中治療室)で管理していきます」

 

家族や病棟スタッフは、このような情報提供を望んでいることでしょう。

 さらに検査や治療時間の延長時などに、外回りのIVR看護師か、手術に直接関わりのある医師から、患者さんが今いる現場の情報提供が行われるのが望ましでしょう。

 それが困難な状況では、家族が待機している場所(救急室や帰室病棟待合室)を担当する看護師スタッフと連携し、途中経過についての「言葉かけ」をしてもらうよう協力を得ることが大切です。

 実際、10分以内の短い時間でも、術中訪問の内容や、進行状況、治療時間延長の理由、終了時間などに関するものや、ねぎらいなどの言葉かけや会話は、待機している家族にとっては、緊張の中で、安心につながるのではないでしょうか。

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 著書の中で渡辺は、一度の病状説明で重大な結果を結論として伝えるのではなく、不確かなことは不確かなまま、その都度現状を伝え、プロセスを詳細に話すことは、家族の心の準備につながる、と述べています1

 IVR看護師にも「家族待機への対応」が求められると、業務量が増えるという問題が出てくるかもしれません。しかし介入時期やその援助によって、家族の不安が軽減し、満足感や安心を得られるような、家族側のニードに沿った全人的看護援助を行うことが望ましいと考えます。

 看護援助の実施者や内容は、施設によってそれぞれ違いがありますが、術中訪問などの用語や形式にとらわれず、看護者自ら必要性を感じ取ったことが工夫され充足される、そんな状況に応じた対応が今後も求められるでしょう。

 

まとめ

 今回のテーマにはIVR看護師として家族をおいてきぼりにしないために、また家族へのケアができないジレンマを解消するために、「術中の情報提供」を挙げました。     

情報を提供することが、IVR看護師として家族を支援できないもやもやを解決できるのではないかと考え、答えを出しました。

実際、IVR看護師は病棟のようにずっと患者さんには関わることはできません。だからこそ、情報の提供という看護が必要なんじゃないかと、それがIVR看護師の役目なのではないかと思いました。

 

(IVR看護研究会 本間美智子)

<おわり>

 

[参考文献]

1)鈴木和子,渡辺裕子:家族看護学 理想と実践 第4版.日本看護協会出版会,238,2012.

2)鉄谷祥子,横川咲子,中島亜紀、ほか:手術を待つ家族への援助―術前・術中訪問を行って.第37回日本看護学会論文集 看護総合,56-58,2006.

 

 

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