1-3 「病院から在宅へ」は本当に現実的か?

1-3 「病院から在宅へ」は本当に現実的か?

2013.3.11 update.

なんと! 雑誌での連載をウェブでも読める!

『訪問看護と介護』2013年2月号から、作家の田口ランディさんの連載「地域のなかの看取り図」が始まりました。父母・義父母の死に、それぞれ「病院」「ホスピス」「在宅」で立ち合い看取ってきた田口さんは今、「老い」について、「死」について、そして「看取り」について何を感じているのか? 本誌掲載に1か月遅れて、かんかん!にも特別分載します。毎月第1-3月曜日にUP予定。いちはやく全部読みたい方はゼヒに本誌で!

→田口ランディさんについてはコチラ
→イラストレーターは安藤みちこさんブログも

→『訪問看護と看護』関連記事
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前回1−2からつづく)

 

「家」で看取るということ

 家で看取るのがいいのか、病院で看取るのがいいかは、それぞれのご家庭の事情によって違います。どちらが良い悪いはないように思います。ただ、国の方針が「在宅」へと舵を切っているわけですから、これから家で看取りをするご家族が増えていくでしょう。
 私は、家で看取る……というのは、「地域」で看取ることだと思っています。
 介護から看護、そして看取りまでの間、家は完全に地域の人たちに開かれていくのです。つねに誰かが出入りするようになります。ケアマネジャーさん、介護士さん、看護師さん、お医者さん……。ベッドのレンタル会社の人、訪問入浴の人、いやもう本当に、すごい数の人が出入りするし、その人たちの助けを借りなければ、とても家で看取ることなんてできないのです。
 ですから、自宅に人を上げるのが苦手な方は、最初はとても抵抗を感じるでしょう。家の中が散らかっているとか、流しやトイレが汚いとか、もうそんなことを気にしている場合ではなくなっていきます。家が地域に開かれていくのです。女の人……つまり、その家の主婦に多大な負担がかかります。老人介護を抱えたら、よほど家族が団結しないと仕事も続けられない情況になります。
 小説家という自由業であっても、夫と協力してやっと乗り切ったという感じでした。さらに臨終が近くなると、お別れのためにいろんな人がやって来ます。親戚もそうですし、ご近所で仲のよかった人、昔のご友人方。そういう方が、とっかえひっかえ訪れてきます。とてもありがたいことですし、来ていただいたらお茶の一杯でも差し上げたい。みなさん様子を知りたがりますから、経過を説明し……そうして半日が過ぎてしまいます。
 夕方には、また看護師さんが顔を出してくれ、それから家族の夕食づくり。夜は沿い寝をして、そして朝になると介護士さんがやってきます。もう1日があっという間でめまぐるしく、生活のリズムをつくるまでにかなりストレスを感じます。
 私は高度経済成長期に生まれ、あまり親戚づきあいなどに興味もない世代でしたから、家にいつも他人が出入りしている情況は初めてでした。とても気を使いましたし、落ち着きませんでした。
 でも、人間というのは実に環境適応力があり、いつしかその情況を受け入れて慣れていくのです。受け入れて慣れてしまわないことには、つらくてたまらないのです。もともと近所づきあいもよく、地域の人たちとなにかと交わっているようなご家族なら、たぶん在宅看取りも楽でしょう。
 そうでない人たち、できればひっそりと暮らしていたい、あまり交友関係を広めたくない……というご家族は、大変だと思います。でも、在宅介護・看護をするのであれば、変わらざるえませんし、もし変われないとご家族の負担がとても大きくなってしまうと思うのです。
 それまでの「ライフスタイル」を変える……。まず、このことを、在宅介護・看護は私たち家族に強いてきたのでした。正直に言えば、最初は本当に嫌でした。職業柄、なるべく静かな環境を保ちたいわけです。でも、そんなことを言ってもいられません。
 自分の家の内部を他人に見られる……、これも嫌なものです。とくに水まわりとか押し入れ、冷蔵庫とか……。まあ、ふだんから掃除をしていればいいのですが、あ、便座の裏が汚れていた……とか、ほんとうに細かいことがストレスになります。そこを開き直り、自分の弱みやダメな部分もさらけ出すようになると楽になります。
 まさに、在宅介護・看護は私にとって、自分の弱みを受け入れる“人生修行”のようなものでありました。
 

(連載第1回了☞第2回につづく)

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訪問看護と介護

いよいよ高まる在宅医療・地域ケアのニーズに応える、訪問看護・介護の質・量ともの向上を目指す月刊誌です。「特集」は現場のニーズが高いテーマを、日々の実践に役立つモノから経営的な視点まで。「巻頭インタビュー」「特別記事」では、広い視野・新たな視点を提供。「研究・調査/実践・事例報告」の他、現場発の声を多く掲載。職種の壁を越えた執筆陣で、“他職種連携”を育みます。楽しく役立つ「連載」も充実。

2月号の特集は「住まいで医療も最期まで――いろんなかたちの『24時間』」。在宅・地域ケアに求められる「24時間対応」へのさまざまな取り組み方と、定期巡回・随時対応型サービスやサ高住での試みも。

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