2-1 ペコロスさんの智恵--「問題」という言葉の追放

2-1 ペコロスさんの智恵--「問題」という言葉の追放

2013.3.25 update.

なんと! 雑誌での連載をウェブでも読める!

『訪問看護と介護』2013年2月号から、作家の田口ランディさんの連載「地域のなかの看取り図」が始まりました。父母・義父母の死に、それぞれ「病院」「ホスピス」「在宅」で立ち合い看取ってきた田口さんは今、「老い」について、「死」について、そして「看取り」について何を感じているのか? 本誌掲載に1か月遅れて、かんかん!にも特別分載します。毎月第1-3月曜日にUP予定。いちはやく全部読みたい方はゼヒに本誌で!

→田口ランディさんについてはコチラ
→イラストレーターは安藤みちこさんブログも

→『訪問看護と看護』関連記事
懸賞論文募集中!(テーマ:胃ろうをつけた“あの人”のこと。賞金10万円)
【対談】「病院の世紀」から「地域包括ケア」の時代へ(猪飼周平さん×太田秀樹さん)を無料で特別公開中!

1−3からつづく)

 

2012年11月、NHK教育テレビの「みつえとゆういち 親子で紡ぐ“認知症”漫画」という特集番組に出演しました。いま『ペコロスの母に会いに行く』(西日本新聞社、2012年6月)という漫画が静かなブームになっています。主人公のペコロスという独身壮年男性と認知症のお母さんの日常を描いた作品です。「介護はしんどいばかりじゃない……」。作品に溢れる叙情やユーモア、ペーソスが、「認知症介護」を新たな視点から捉え直していることで、読者の共感を呼んでいます。

 

天井から見下ろしてみる

 実は私は、この漫画の作者である岡野雄一さんと以前から友人でした。岡野さんは、いま長崎に住んでいます。知り合ったのは、毎年8月9日の原爆投下日に開催される「長崎水辺の森の音楽祭」でした。若者が中心となって、原爆で亡くなった方の慰霊のためにひたすら音楽を演奏する……という、集客を度外視したこの音楽祭に、県内外からたくさんのミュージシャンが参加します。岡野さんは、シンガーソングライターとしてこの音楽祭に出演していました。
 長崎弁の彼の歌を聴いたとき、「あ、この人の歌には何かある……」と思ったのです。特別な何か……、訴えるものがありました。それで、会場で岡野さんに声をかけ、いろんなおしゃべりをしました。
 「実は、漫画を描いているんです」。そう言って岡野さんがくれたのは、いわゆるミニコミ誌。簡易に綴じただけの冊子でした。知り合いのカフェで細々と売ってもらっているそうです。読んでみると、その漫画も何かが違う。この人には才能があるんだ……と、感じました。表現者としての才能です。
 それからは、長崎に行くたびに会ってお酒を飲んでは、介護話に花を咲かせました。その岡野さんの漫画が、編集者の目に触れて単行本になるや大ヒットし始めたのです。映画化もされて、今夏には封切り予定です。
 岡野さんと、私の共通点は「家族の問題を描いて飯のタネにしている」ということです。二人とも酒乱の父親の家庭に育ち、子どもの頃は男親の横暴に苦労してきました。そして、五十を過ぎた頃から親の介護の問題に取り組みます。
 家族の介護を手記として書く人は、わりと多いです。それは、どちらからと言えば「苦労話」です。もちろん読んだ人は「たいへんだったね」と共感してくれます。
 でも、岡野さんの作品は、そういう「介護体験記」ではないのです。だから、広く一般の読者もつかんでヒットし、映画化(今夏公開予定)もされるのでしょう。普通の体験記と、岡野さんの漫画は、いったいどこが違うのか……?。たぶん「視点」だと思います。
 体験を作品化するためには、ものすごく突き放した視点が必要となります。もちろん人間だから、親や兄弟が苦しんだり、死にそうになったり、錯乱したりしていたら、一緒になってあわてます。だけど、どこかに、もう一人の自分がいて、いつも天井あたりからじっと全体を見下ろしているのです。本当は悲惨な場面なのに、心が急に冷めてしまって、状況がなんだかとてもばかばかしく……ユーモラスに感じてしまう。感情的になっているときに、すうっと自分から幽体離脱してしまい、「何やってんだろう……」と、あっけらかんと他人事になってしまう、あの感じです。
 この視点がないと、ひたすら自分の体験を垂れ流すことになり、作品というよりは「体験記」になってしまいます。体験そのものを描いていたのでは、作品にはなりません。体験をどう捉え直すか……というのが作家の力量になるのです。
 岡野さんは、認知症が悪化していくお母さんを男やもめで面倒をみていたわけで、不安だろうし、葛藤や苦労もたくさんあったと思います。でも、それを苦労として描いていないのです。認知症のお母さんの言動を、おもしろがっている。そして、自分も含めて非日常的な状況を笑ってしまえる客観性をもち続けているんですね。実はこれが、介護や看護の現場には、とても大事なことではないかと思えます。
 

(2−2へつづく)

訪問看護と介護 イメージ

訪問看護と介護

いよいよ高まる在宅医療・地域ケアのニーズに応える、訪問看護・介護の質・量ともの向上を目指す月刊誌です。「特集」は現場のニーズが高いテーマを、日々の実践に役立つモノから経営的な視点まで。「巻頭インタビュー」「特別記事」では、広い視野・新たな視点を提供。「研究・調査/実践・事例報告」の他、現場発の声を多く掲載。職種の壁を越えた執筆陣で、“他職種連携”を育みます。楽しく役立つ「連載」も充実。

3月号の特集は「あれから2年 災害対策の「変えた」「変わった」」。「これまでのマニュアルでは役に立たなかった」とも言われる東日本大震災の経験を経て、今「災害対策」はどう変わったのか? どう変えてきたのか? 岩手・宮城・福島・茨城各県から現場訪問看護師にご報告いただきました。

詳細はこちら

トラックバック

http://igs-kankan.com/mt/mt-tb.cgi/724

コメント

このページのトップへ