子どもの力を引き出す家族と多職種間の連携

子どもの力を引き出す家族と多職種間の連携

2013.12.18 update.

村瀬有紀子 イメージ

村瀬有紀子

2008年5月米国カリフォルニア州にあるミルズ大学大学院教育学部Child Life in Hospitals and Community Health Centers修士課程修了。同年Certified Child Life Specialist資格取得。帰国後横須賀市立うわまち病院勤務を経て、2010年より東京医科歯科大学附属病院小児科にてCLSとして勤務。体が固いのが悩みの種で、かなえたい夢のひとつは180度開脚。ヨガやピラティスで身体をほぐす毎日です。病棟では心のストレッチをお手伝いできればと思いながら活動しています。

CLSの役割の一つは子どもが病院で医療を受ける時に寄り添い、個々の子どもの“乗り越える力”を発揮できるようにお手伝いすることだと考えています。入院してくる子どもにとって病院は怖いこと、不安なこと、寂しいことがたくさんある場所です。心が固まってしまうと、自分にとって困難に思えることに立ち向かう気持ちも萎えてしまいます。 

 

そこで、CLSは遊びなどを介して子どもとコミュニケーションをとり、気持ちを和らげ、医療への理解を助けます。また、安心して感情を出し、自分の思いを表現できる場をつくるように配慮します。そのような関わりの中で子どもは“自分なら大丈夫。できるかもしれない”と自己肯定感を持ち、“いやだけど、やらなきゃいけないんだったらやるよ”と主体性を発揮し、処置後に“自分は頑張った”と達成感を感じます。このプロセスを繰り返すことで彼らが本来持っている“乗り越える力”が強いものになっていくような気がします。

 

また、この力を引き出す時に欠かせないのは、家族と関わっている多職種間でその子に対して共通した目標や視点を持ち、いろいろな制限や制約がある中でもその子にとって最善のことは何かを一緒に考えていく姿勢だと思います。立場や専門性が違う中、それぞれの役割が上手くかみ合った時、子どもは周囲のおとなに理解されている、温かい励ましを受けていると感じ、より大きな力を出していけるのではないでしょうか。

 

家族と多職種間の連携

 

ある時、成人病棟に入院している幼稚園に通う年頃のお子さんへの介入依頼がありました。事情があって中心静脈カテーテルが入れられないため、採血や点滴の差し替えが頻繁にあります。それに対するご本人の苦痛が強く、恐怖心や不安も大きいことを主治医が心配されていました。ご両親もお子さんが、医師に手を合わせながら“お願いだから注射しないで”と嫌がる様子に胸を痛めていました。個室を訪問してご家族やお子さんご本人と話をすると、押さえつけられるのがいやなこと、その子は自分のタイミングで注射をしてほしいと思っていることがわかりました。私からそのことを主治医に伝えると、処置をする時に余裕のあるスケジュールを考えてくれ、実際の処置時も押さえつけず、その子の怖いという気持ちや不満を医療スタッフと私がじっくり傾聴しました。そうすると、次第に自分から「10数える間だったら我慢できるからやる」と自分なりの対処方法を考え、それを私たちが応援する形で処置を終えることができました。また、押さえつけないこと、時間の余裕は必要だが一旦納得すれば治療を受け入れられるという情報を成人病棟のスタッフが共有し、継続していくことで、徐々に処置にかかる時間が短くなり、CLSが不在でも処置ができるように変化していきました。 

 

このお子さんの治療が進み、放射線治療を受けることになりました。最初は鎮静をしていたのですが、点滴の差し替えが頻繁になってきたこと、鎮静薬は「電気みたいにビリビリするからいやだ」と怖がっていたこと、鎮静の前後で食事がとれないことなどがその子の苦痛になっていました。そこで鎮静なしの放射線治療を試してみることになり、再度CLSに医師とご家族から介入の依頼がありました。

 

プリパレーションを行い、放射線室の見学をすると、その子にとって一番の苦痛は安心感を与えてくれるお母さんがすぐそばにいないことだということを教えてくれました。放射線室の技師さんと相談して、コントロール室のマイクを通じてお母さんが治療の間話しかけてくれることをお子さんに提案すると、「起きてやってみる」と少し興味を持ってくれました。実際の照射前に一旦お部屋にもどり再び放射線室に向かう途中、そのお子さんは医師が念のためにと準備した鎮静セットをみて「起きてやれるのに」と不満顔でした。しかしながら、本番になると怖い気持ちの方が強くなり、結局はご本人の希望でその日は鎮静して治療を行いました。

 

翌日からの照射についてご両親と主治医と私で相談していると、お父さんから、“この子がここまで頑張れるとは正直思わなかった。本人の自尊心を尊重して、明日も挑戦させてあげたい”というご希望がありました。それを受けて主治医も、“明日は本番と全く同じ設定でリハーサルする時間を予約します。それで練習してみて下さい。”と言って、放射線室の予約をしてくれました。

 

翌日、お子さん、お母さん、私の3人で練習のために放射線室に行きました。練習途中でお子さんが怖くなってしまいやめたくなった時、放射線室の技師さんが、「練習する準備が整ったら教えてね」、と休憩時間をとる配慮をしてくれました。3人で廊下の長椅子に座っていると、お母さんがその子に、この治療は絶対にしなければいけないこと、起きてやったらその子が楽しみにしているお散歩をしながら病室まで帰れることを励ましながらも真剣な表情で話をされました。お子さんご本人も起きてやる方がいいとはわかっていても、なかなか怖い気持ちがぬぐえないようでした。私からは照射時間の30秒を感じてもらう為に、時計の秒針をみせながら一緒に数を数えると、20数えるうちに30秒が過ぎました。それから3人でおとなの患者さんの放射線室への出入りを眺めて、「みんなすぐ出てくるね、あっという間だね」という話を一緒にしながら照射時間が短いことを観察してもらいました。しばらく沈黙があった後、お子さんが「20数える間だったら我慢できる」と気持ちを固め、無事練習で成功することができました。

 

一旦時間をおいて行われた本番でも、「起きてやる」と自分で言い、多少の葛藤はみられたものの、動かず照射を受けることができました。終わった直後、お子さんがとても誇らしげな笑顔で満足そうにした表情が印象的でした。病棟で心配して待っていてくれた看護師さん達が次々に褒めにきてくれてそのお子さんは達成感を感じているようにみえました。それ以降は徐々に葛藤する時間が減っていき、途中からはスムーズに治療を受け、全ての照射を終えることができました。

 

このお子さんのケースでは、恐怖や不安を感じている子どもの苦痛を、治療に伴う仕方のないこととして捉えず、どうにかして和らげたいという共通の思いをみんなが持っていました。ご本人の、挑戦したいけど怖い、という葛藤を見守り、ご両親の思いに寄り添い、それぞれの立場や役割でそれを支え、応援していくことにより、お子さん自身の気持ちが安心して治療を受けられるように変化していったのではないかと思います。

 

家族と多職種間で連携して子どもを支えていくことでその子は大きな力を発揮していけます。CLSもその医療チームの一員ですが、その役割をどうやって他の職種に伝えていくのかについて私は今も試行錯誤の毎日です。CLSの役割の一つは、子どもやご家族とのコミュニケーションを通じて彼らの希望や思いをくみ取り、それを医療者と共有し、子どもにとって医療を受けいれやすい説明や工夫を考えることです。また、子ども達の感情の表出を受け止め、情緒面でサポートを行います。子どもの情緒面のサポートなど言葉で明確に説明しにくく、一緒に仕事をしていく経験の中で理解してもらっていることも多々あります。

 

CLSは日本ではまだまだ数も少なく、医師や看護師などと違い職種のイメージが確立していません。私も日々できていないことがたくさんあるのを痛感しているなかで、周囲の人が私を通じてCLSという職種を体験し、理解することに不安と責任を感じながら活動しています。それを感じながらも、子どもや家族、他職種との日々の関わりの中で、相手にとって今必要なことは何か、その中で自分ができることは何か、医療チームの中でそれをどうやって実践するのかを考えながら、CLSの役割を日本の中で育む努力を続けていきたいと思っています。

 

連載のおわりに

 

連載「CLSのオシゴト。」も今回で最後となります。日本では認知度が低いCLSについてじっくり紹介できる連載という機会を設けて頂いた医学書院に感謝申し上げます。また、大切な仲間たちと一緒にいろいろな側面からCLSのことを考えていけたのも自分自身が勉強になる大切な機会となりました。この連載を読んでいただいた方々に、よりCLSのことを理解して頂ければ嬉しいです。また、子ども達やご家族と皆様の関わりの中で何かヒントになること、お役にたてる内容があればいいなと思います。今まで読んで頂きありがとうございました。

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