ピアサポートの大切さ

ピアサポートの大切さ

2013.8.16 update.

村瀬有紀子 イメージ

村瀬有紀子

2008年5月米国カリフォルニア州にあるミルズ大学大学院教育学部Child Life in Hospitals and Community Health Centers修士課程修了。同年Certified Child Life Specialist資格取得。帰国後横須賀市立うわまち病院勤務を経て、2010年より東京医科歯科大学附属病院小児科にてCLSとして勤務。体が固いのが悩みの種で、かなえたい夢のひとつは180度開脚。ヨガやピラティスで身体をほぐす毎日です。病棟では心のストレッチをお手伝いできればと思いながら活動しています。

チャイルド・ライフ・スペシャリストは子ども達が入院生活や治療の中で未体験のことやストレスを感じることに対し、子ども達自身がその子なりに対処していけるようにお手伝いします。これは処置や治療に関することのみを対象にするわけではなく、入院生活を通じて子どもがストレスを感じるような状況の変化が起こる時に子どもがそれを受け止めていけるようなサポートを行います。

 

子ども達にとって最もストレスが高い時期の一つは病気の診断がついて入院生活が始まるときです。今までと大きく環境や生活が変わります。いわば病院への強制的な引っ越しです。普通の引っ越しと違って、家族と過ごす時間は減るし、今までのような学校生活は送れないし、好きな所にはいけないし、食べたいものも食べられないし、痛いし、気持ち悪いし、だるいし、やりたくなくてもやらなきゃいけないことは増えるし、“最悪”と言いたくなるような環境の変化です。

 

入院初期の子ども達から笑顔が消えてしまったり、無口になったり、保護者経由でしかおとなと口をきかなかったり、遊びにも集中できなかったり、あらゆることに拒否が増えていく状況をみていると、新しい環境に適応するために子ども達が必死に頑張っているということが伺えます。 そんなこども達にとって、“自分は一人ではない”と感じることはとても大切で、安心感をもたらすことだと思います。同じような体験を同じ時期にしている仲間の存在は子ども達にとって心強く特別な存在です。入院中は様々な制限があるため、CLSが仲介役となって仲間作りができるような場の設定を行うこともあります。

 

私が働いている病院では長期入院の子ども達は治療のスケジュールで感染に気を付けなければいけない時期が異なるため、部屋が違うとお互い知り合う機会が限られています。また、勉強も訪問学級という個別指導なので子ども達が定期的に集団で集まることもありません。私が今の病院で働き始めた時に驚いた事の一つは病棟が狭いにも関わらず部屋が違う子のことをお互いに知らないことでした。そこで医師の確認をとりながら、感染に気を付けなければいけない子ども達が集まれる時間を“遊びの時間”として平日の午前中に設ける事にしました。こうやって集える時間と場所を設定することで子ども同士が顔見知りになり、自然に話をし、関係性を築いていきます。

 

“え、みんな同じ病気なの?”これは、その遊びの時間に小学生の女の子が驚いた口調で言っていた言葉です。その子は学校の友達と離れて一人だけ違う状況にいることに孤独感を感じていました。“学校の友達は私と同じ経験をしたことがないから、きっと私の気持ちなんてわからないのが寂しい。”と話をしていました。母親がなぐさめても、“ママだって私と同じ経験をしたことがないんだから私の気持ちなんてわかるわけないでしょ”と言っています。遊びの時間では子ども達同士で自然に病気や治療の話が出てきます。その会話の中でその子は同年代の他の子も同じ病気で似たような治療をしていることを知り、ホッとしたような表情をしていました。そして、他の子に対して急に親近感を増したようにもみえました。治療の副作用で似たような外見になったり、同じ薬を飲んでいたりするので同じタイプの病気なのが言われなくてもわかるのではないかとおとなは思いがちなのですが、子ども達同士の会話の中であたらめて口に出して確認することがとても大切だとその時感じました。しかしながら、子ども達は自分が安心できる場所でないと治療や病気の話をしません。その為、この“遊びの時間”のように参加者同士が顔見知りになり、同じ時間を共有しながら築かれる関係性の中で安心感を持てるような場所つくりがCLSの役割の一つだと思います。

 

同じ病気だとわかると子ども達同士で情報交換や治療に関するアドバイスをお互いにしています。長期入院をする必要はないのですが、日常生活の中で常に酸素と特別な薬を使う必要のある病気の子ども達がたまたま同じ時期に入院してきました。同年代だったこともあり2人を会わせること、その時に同じ病気であると2人に伝えることなどを保護者と相談して計画しました。2人とも他人と打ち解けて話をするまでに時間がかかる性格も共通しています。医療スタッフの中には人見知りな子達だからお互い口をきかないのではないかという意見もあったのですが、日常生活の中では絶対に出会わない自分と同じ病気の子が他にもいるのを知ることに意味があるのではないかと思い2人を誘いました。遊び始めてしばらくして、私から2人とも同じ病気で同じような治療をしていることを伝えると、2人の会話が急に活発になりました。“学校に行く時はどうしてるの?”“体育はやってる?”“薬をつくるのは誰がしてるの?”など話が尽きません。夕食後もその子達から就寝時間まで2人で遊びたいというリクエストがあり、看護師さんに見守られながら一緒に遊んだそうです。翌日その話をきき、急速に仲良くなったことに私も少し驚いたのですが、おとなと同じように自分の体験を共有する仲間を子どもも必要としているのだと思いました。このように子ども達が情報交換や治療に関するアドバイスをしている間、CLSは皆の会話の中で、誤解している点はないか、他の子の話を聞いてかえって不安になってしまってないかについて見守りながら確認しています。そして必要であれば、子ども達に直接医療スタッフに確認してみるように促したり、CLSから医療スタッフに話をしてもらうようなフォローをしています。

 

個室にいると仲間との交流が心の支えになります。入院中、長期間個室ですごした中学生がいました。部屋からでられず体調も優れない日が続いています。小さい子達をとても可愛がっていたので、ある時2人で相談し、みんなが喜んでくれるような折り紙屋さんを開店することにしました。個室の外の壁にその子が作った折り紙の作品と注文票を貼りだしました。そうすると子ども達やその保護者、医療スタッフが手紙付で折り紙を注文してくれます。今まで持て余していた時間が他人に喜んでもらえるものをつくる時間となり、注文票と一緒に届けられるメッセージに励まされている様子でした。そのやりとりを通じて個室にいるけれど自分は一人ではない、人とつながっているという感覚を持てたのではないかと思います。

 

お互いが支えあっているのは幼児たちも同じで、一緒に遊ぶうちに関係性ができ、お互いのことを思いやる気持ちを表現しています。夜中に2歳の子が気持ち悪くて泣いてしまったことがありました。隣のベッドでそれを聞いていた4歳の子が、遊びの時間の時に私のところに来て、“○○ちゃん、気持ち悪いって泣いてたんだけど、大丈夫かな?”と心配そうに聞いてきます。私が“後で○○ちゃんもくるから昨日の夜のこときいてみれば?”と伝えました。2歳の女の子が部屋にくると4歳の子が“きのう気持ち悪いっていってたけど、大丈夫?”と尋ねます。2歳の子が“昨日ね、気持ち悪かったの”と答えると、4歳児が、“昨日気持ち悪いっていってたから心配してたの”と伝えていました。幼児なのでそれ以上会話は続かないのですが心配している気持ちは十分伝わっていたと思います。また、幼児部屋の一人が先に退院するとき、同室の2歳児が寂しくて大泣きしながら、“行かないでー”と見送っていました。隣でそれを聞いていた別の2歳児がお母さんに抱っこされながら、泣いてる子に向かって“僕がいるよ”と慰めています。幼児はまだまだ言葉や感情を上手く表現できない部分も多いので、子ども達が相手のことを思っている気持ちをくみ取り、相手に伝えていくお手伝いをしたいと考えています。

 

子ども達が集団で集まる場を設ける事でご家族が気持ちを助けられることもあります。子ども達が集まると自然に口喧嘩が始まります。その様子をみていたお母さんが、“学校に行ってたら友達と喧嘩をするのが普通ですよね。入院していても子どもが同年代の子どもと普通の付き合いができているのが嬉しい。”と言っていたこともありました。また子ども達が遊んでいる間に付添いで一緒に来ているご家族同士が情報交換をしたり、近況を伝えて励まし合っており、おとな達も同じ状況にいる人と話をすることで気持ちを慰められています。このように、自分の子どもも入院はしているけれども普通の生活を送っていると実感すること、自分たちが抱えている悩みは自分だけのものではなく他の人も同じであることを知ることで安心感を得られるのではないでしょうか。

 

子ども達やご家族同士の支え合いや気持ちの共有は孤独感を軽減し、入院生活を乗り越えていく強さを与えてくれます。CLSは入院生活の中で生じる不安やストレスを完全に取り除くことはできませんが、それを抱えながらも困難なことを乗り越えていける強さを子どもが発揮できるようなサポートをしていきたいと考えています。その手段の一つとして間接的ですが、今回ご紹介したような仲間作りのお手伝いがあるのではないかと思います。困難な状況の中でも自分だけが特別な環境にいるのではない、気持ちを共有できる仲間がいると実感できることが少しでも助けになればと願っています。

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