気持ちを共有する

気持ちを共有する

2013.6.11 update.

村瀬有紀子 イメージ

村瀬有紀子

2008年5月米国カリフォルニア州にあるミルズ大学大学院教育学部Child Life in Hospitals and Community Health Centers修士課程修了。同年Certified Child Life Specialist資格取得。帰国後横須賀市立うわまち病院勤務を経て、2010年より東京医科歯科大学附属病院小児科にてCLSとして勤務。体が固いのが悩みの種で、かなえたい夢のひとつは180度開脚。ヨガやピラティスで身体をほぐす毎日です。病棟では心のストレッチをお手伝いできればと思いながら活動しています。

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みなさんこんにちは。東京医科歯科大学附属病院小児科勤務の村瀬有紀子です。この連載も私で6人目となり、他の方々と内容が重複するところがあるかもしれませんがご容赦いただき、しばらくの間お付き合いください。

 

子どもたちは遊ぶことが大好きです。お家にいても、病院にいても遊びたいという気持ちは変わりません。子どもたちはおもちゃがあってもなくても遊べるし、相手が大人でも子どもでも一緒に楽しめる人ならたいていの場合は大歓迎です。CLSは遊びを通じて子どもたちと関わることが多くあります。そんな遊びが子どもたちにとっていろいろな意味があるのかもしれないと思い始めたのは、日本の病院でボランティアとして子どもたちと関わっていた時でした。

 

ボランティアでの出来事

 

その頃私はCLSになるためにアメリカの大学院の出願準備をしていました。私が志望していた大学院では入学までに病院で100時間以上のボランティアを終了していることという条件がありました。 私はCLSという職業を知ってから出願まであまり時間がなかったので、100時間を稼ぐためにいくつかの病院をかけもちでボランティアをしていました。

 

ボランティアへの依頼内容も各病院で様々で、ある病院では病棟スタッフから関わって欲しいと言われたお子さんのベッドサイドで時間を過ごしていました。 ある時、私自身がまだ病院という環境に慣れてない時期に個室に入っているお子さんについて下さいとお願いされました。入院されてまだ間もないんですと言う説明をうけながらスタッフと一緒にお部屋にいくと、年中さん位のお子さんがベッドの中に入ってお布団をあごの下までしっかり引き上げて硬い表情をしています。案内してくれた人が出て行って個室のドアが閉まりました。部屋の中で二人っきりになると個室の中がシーンとしてとても静かなのと対照的にドアの外のざわざわした感じが私自身とても気になりだしました。 今だったら、廊下で何をやっているのかなんとなく見当がつくのですが、当時はほとんどわからず、その子と2人の病室で、外から聞こえてくるピーピーいう音はなんだろう、とかガラガラいう音は何が通ったのか、外で話してるのは誰なんだろうと考えていました。しばらくして、ふとベッドの中にいるこの子ももしかしたら私と同じように思っているのかもしれない、こんな風に一人でベッドにいて、いろんな音がきこえてきたら不安だろうなぁという考えが頭に浮かんできました。その子に、“外からいろんな音聞こえてくるけどなんだろうね。わかんないねぇ。”と話しかけながらベッド周りにあったおもちゃや本を使って遊ぼうよと働きかけると、最初はお互いぎこちなかったのですが、次第にお子さんの表情が緩んできてベッドから起き上がって遊び始めました。この時、遊びを媒介にして誰かがそばにいてくれるという安心感が不安をやわらげる役目をするのだということをぼんやり感じていました。

 

子どもと気持ちを共有する

 

子どもと気持ちを共有することでストレスを軽減できるのかな、と感じた経験は別の機会にもありました。あるお子さんと一緒にベッドサイドでおままごとをしていると、注射によばれていってしまいました。帰ってきた時は半べそで、注射された箇所を私にみせながら、“ここチックンしたの”と一生懸命話してきます。 それに対して、“○○くん痛かったの。えらかったね”、と何回か同じ会話を繰り返していると自然に中断していた遊びに戻っていきました。子どもがストレスを受けた状況に沿い、その子の気持ちを汲み取り認めることで、子どもは気持ちを切り替えて遊びという日常に戻っていけるのだと思います。

 

またある時、幼稚園の年長さんくらいのお子さんとベッドサイドで遊んでいると、電車を使ったごっこ遊びが始まりました。子ども役の電車のおもちゃがいろんな駅を通って家に戻ると、他の家族がお買い物にいっている間お留守番していなきゃいけないと言われ、その子は悲しくて泣いているというのが、その子の作ったストーリーでした。セリフもそれを言うタイミングも決まっていて、“今、エーンって泣いて”、“一緒に行きたいって言って”など細かい指示がその子から出てきます。そのストーリーをその子の指示通り何回か繰り返してその日の遊びは終わりになりました。私はボランティアなのでその子の病名やどんな治療をしているのか、ご家族の状況についてはわかりません。ただ、その子にとって何か意味のある遊びなんだろうなと思い記憶に残っていました。 その遊びをいま振り返ってみると、きっとその子は治療の合間に家に外泊で帰っていたけれど、治療中で人混みの中には連れていってもらうことができず、家族がスーパーに買い物に行くのを羨ましいなぁと思っていた気持ちを遊びの中で表現していたのではないかなと思います。

 

また別の機会に、あるお子さんが自分のもっていたおもちゃのお医者さんごっこセットで遊び始めました。注射器のおもちゃを手慣れた様子で扱いながら、“これから○○をします”と私の耳慣れない単語を使って遊んでいます。 私がその単語を聞き取れないことに苛立った様子をみせたので近くにいるお母さんが、“ヘパフラ(ヘパリンフラッシュの略)って言ってるんですよ”と教えてくれたのですが、当時の私には何のことやらさっぱりわかりませんでした。それでも、その子の手つきを見ながら妙にプロっぽいと感心していたことを覚えています。現在CLSとして病棟で子ども達と一緒にお医者さんごっこをしていると、子ども達がお医者さんや看護師さんの手つきを正確に再現し、何度も同じ処置を繰り返す遊びを頻繁に目にします。子ども達は自分が受けている処置をごっこ遊びで再現し、自分の体験を自分なりに学び、消化しています。この時のお子さんもそれと同様のことを行っていたのではないでしょうか。

 

CLSになってわかったこと

 

その後留学してCLSになる勉強をし、ボランティアの時に経験した子ども達の遊びの意味を自分なりに理解できるようになってきました。遊びを通じて子ども達は不安やストレスを軽減し、自分の気持ちを表現し、自分の体験を学んでいきます。子ども達にとって遊びは心の元気を保って成長していくために必要です。ただ、病院は大切な治療を行う場であるので、遊びが最優先ということにはなりません。CLSとして私の役目の一つは、医療スタッフと調整をとりながら、子ども達が遊びに集中し、没頭できる時間と空間を作り出していくことだと思っています。またそれ以上に重要なのは、目の前の子どもとの遊びに自分自身が集中して、子どもが感じていること、考えていることをくみ取りながら、気持ちを共有し、理解して、それに対応していくというプロセスではないかと思います。子どもと一緒に集中して遊べるとお互い満足感が高くなります。日々、やらなきゃいけないことや、こなさなきゃいけないことで私自身の気持ちがざわついてしまうことも多いのですが、少しでも質のいい遊びの時間を増やしていけたらと思いながら活動しています。

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