【第5回】難病施設の採算――政策医療の意外な現実

【第5回】難病施設の採算――政策医療の意外な現実

2013.4.26 update.

伊藤佳世子(いとう かよこ/右)×大山良子(おおやまりょうこ/左)  イメージ

伊藤佳世子(いとう かよこ/右)×大山良子(おおやまりょうこ/左)

いとう かよこ:千葉県千葉市在住。法律事務所勤務後、国立病院機構の介護職員として勤務。2008年りべるたす株式会社設立、代表取締役(在宅障害福祉サービス事業所管理者)。介護福祉士・社会福祉士・相談支援専門員。千葉大学大学院人文社会科学研究科博士前期課程修了,立命館大学大学院先端総合学術研究科博士後期課程在籍中。第47回NHK障害福祉賞第2部門(障害のある人とともに歩んでいる人)優秀賞受賞。 「りべるたす」ホームページはこちらから

おおやま りょうこ:千葉県千葉市在住。本連載のイラストレーター。 2009年特定非営利活動法人リターンホーム設立、代表理事(長期療養者へのエンパワメントを行うための研修事業等)。SMA(脊髄性筋萎縮症)療養のため、1978年大和田小学校から下志津病院隣接の四街道養護学校転入。1983年同小学部卒。86年同中学部卒。89年同高等部卒。 「リターンホーム」ホームページはこちらから

【第4回】こちらから

  

 1960年代から、難病政策は筋ジストロフィー(筋ジス)以外でも始まっています。近年でも2010年頃から新たに難病施策の見直しのための検討が開始され、2013年1月31日に、難病対策委員会「難病対策の改革について(提言)」公表されました。

 1969年に自民党の医療基本問題調査会が出した国民医療対策大綱では「公共的社会的に対処すべきことが望ましい疾病については、思い切って公費負担を実施せよ」と述べています。1971年には厚生省に難病対策プロジェクトチームが設けられ、そして、1972年10月「難病対策要綱」が策定されています。

 

今後の特定疾患対策の基本的方向(1)特定疾患対策の重点的かつ効果的な施策の充実と推進を図るため、①稀少性、②原因不明、③効果的な治療方法未確立、④生活面への長期にわたる支障(長期療養を必要とする)、という4 要素に基づき対象疾患として取り上げる範囲を明確にすることが必要である。

公衆衛生審議会成人病難病対策部会難病対策専門委員会最終報告(平成7 年12 月27 日)

 

 更に、1993年3月に行われた「特定疾患対策懇談会特定疾患治療研究事業に関する対象疾患検討部会報告」、2002年8月の「厚生科学審議会疾病対策部会難病対策委員会今後の難病対策の在り方について中間報告」で“特定疾患”、いわゆる難病の対策について細かく示されることになります。

 筋ジスについてはここでいう“特定疾患”に入っていません。すでに組織的に独自の研究がなされていたからです。しかし、筋ジスは“難病”の定義には当てはまるのです。このことがALSなど他の難病との対処の違いを複雑にしている一因でもあります。

 

国立病院機構は「政策医療」のために生まれた

 
 前回で触れたように、ひとまず水上勉氏たちの活動の影響からか、筋ジスも親の会の運動により収容施設ができることとなりました。「親の願い」というものがまずは聞き遂げられたのです。

 筋ジス病棟の患者は、当初小学生と中学生が8割。予後が悪いとされるデュシェンヌ型が大部分で制度がスタートしたのでしたが、1975年以降は、デュシェンヌ型以外の患者の入院が始まりました。現在は成人患者の割合が半数を超え、病型もデュシェンヌ型の患者が半数を割ります。

参考―黒田憲二:生活指導・教育, あゆみ編集委員会編『国立療養所における重心・筋ジス病棟のあゆみ』(第一法規出版,1993年)187-191頁

 これは重症者が在宅に帰ったから、だけでなく、長期療養患者が成人化したともいえます。その後、2006年4月より障害者自立支援法が施行され、筋ジス病棟は療養介護指定を受けた福祉施設となり、措置から契約へ入院システムが変更しています。長期療養については、18歳未満は児童福祉法による契約入院へ、18歳以上は障害者自立支援法における療養介護による契約入院となりました。

リサイズ0422国立病院_1~1.jpg

 

 国立療養所も1994年から国立病院機構へ変わっていきます。

 

国立療養所から国立病院機構に至る歴史 

1945年12月 国立療養所は傷痍軍人療養所(53施設)を引き継ぎ発足

1947年4月 日本医療団の結核療養施設(93施設)を移管し、国立療養所として運営。

1968年4月 国立ハンセン病療養所を除く、国立療養所を特別会計へ移行

1985年3月 国立病院・国立療養所の再編成・合理化の基本指針を策定し閣議に報告「国立病院の果たすべき役割(政策医療)の明確化と施設の類型化」

1987年9月 国立病院等の再編成に伴う特別措置に関する法律の制定(10月公布)

1996年5月 国立病院等の再編成に伴う特別措置に関する法律の一部を改正

 11月 国立病院・療養所の再編成・合理化の基本方針を一部改定、閣議に報告

 12月 行政改革プログラム閣議決定(現業等の整理合理化「国立病院・療養所」)

1998年6月 中央省庁等改革基本法において、「国の医療政策として行うこととされてきた医療について、真に国として担うべきものに特化」、「高度専門医療センター等を除き独立行政法人に移行すべく検討」と規定 

1999年3月 国立病院・療養所の再編成計画の見直しを公表  

    4月 中央省庁等改革の方針(中央省庁等改革推進本部決定)において、「平成16年度に独立行政法人化」を決定

2000年12月 行政改革大綱(閣議決定)において、「各施設毎に区分経理する単一の独立行政法人に移行すること」を決定

2002年12月 第155回臨時国会において、「独立行政法人国立病院機構法」が成立

2004年4月 国立高度専門医療センター及び国立ハンセン病療養所を除く全国154カ所の国立病院・国立療養所について、独立行政法人に移行。東京都目黒区に本部を設置

 全国を6地域(北海道東北、関東信越、東海北陸、近畿、中国四国、九州)に分け、各地域にブロック事務所を設置

 

 国立病院は、軍の傷痍軍人療養所や日本医療団の結核療養所などを引き継ぐかたちで始まっています。

 厚生省(現・厚生労働省)は、1986年1月に、国立病院・療養所の再編成全体計画を発表しました。これは、10年をめどに、ハンセン病療養所13施設を除く239施設のうち74施設を統合、移譲、再編成しようというものでした。

 結局これは長引くわけですが、1980年代から1990年代に国立の病院の設備が老朽化していることなどが問題となり始めます。この頃の厚生省の政策のことは「(国立病院)立ち枯れ作戦」と呼ばれました。その議論は1999年2月4日の衆議院予算委員会でなされています。予算配分や人事配置を厚生労働省が計画的に減らしていたとされ、それにより施設の雨漏りや、病棟閉鎖、医師が派遣されないなどの事態が生じたとして、2000年頃からそうした報道がいくつか流れました。

 2004年に、国立病院は独立行政法人国立病院機構に移行します。

 5年後の2009年には各病院が存続するのかどうかという判断を受けるためでした。

 

中央省庁等改革基本法第38条「独立行政法人の運営に係る制度の基本は、次に掲げるものとする。 一  所管大臣は、三年以上五年以下の期間を定め、当該期間において当該独立行政法人が達成すべき業務運営の効率化、国民に対して提供するサービス等の質の向上、財務内容の改善その他の業務運営に関する目標(次号において「中期目標」と言う。)を設定するものとすること。

 

 当時は(現在もそうですが)、国家公務員の総人件費抑制を目的に、総定員数の抑制が求められていたのですが、国立病院・療養所においてもそうした努力が当然に求められた結果の独法化だったでしょう。不明瞭な会計や“天下り”などの問題もあり、国立病院の改革は必要であったと思われます。

 以下に、2002年の厚生労働委員会での質疑を抜粋します。 

リサイズ0422国会質~1.jpg

第155国会議事録 衆議員 厚生労働委員会- 8号

釘宮委員の質疑は平成14年11月22日、武山委員の質疑は11月20日のもの

武山百合子委員 「…それで、財務諸表ですけれども、今までほとんどなかった、その反省に立っていますでしょうか」

木村義雄副大臣 「独法化後は毎年財務諸表を公表する予定でございます」

武山百合子委員 「やはり反省の意味も込めて、なぜ今までなかったんですか」

 木村義雄副大臣 「…私も、なぜなかったんだろうな、このように思っております」「基本的には、やはり経理の仕方と言うのが、企業会計と言うのといわゆる官庁の予算制度と言うのと大きな違いがあったわけですね。特に、国立病院は特別会計でやってきたわけであります」

 武山百合子委員 「国民の税金をやはり使うわけですから、民間よりももっとそう言う財務諸表と言うものは出すべきだったんだと思います、過去の時点で。それを、血と汗の国民の税金を、本当に国民の税金をないがしろにしてきたと言う大きな反省がなければ、次のこれからのステップも、中身のあやふやな、本当に柱のぐらぐらした、そう言う独立行政法人になると思うんですよね」

 

2003年までの国立病院・療養所では、財務諸表がほとんどありませんでした。

 独立行政法人国立病院機構法第3条「国民の健康に重大な影響のある疾病に関する医療その他の医療であって、国の医療政策として機構が担うべきもの」とうたっていることからもその公益性は感じるのですが。

 

 2002年11月22日の厚生労働委員会での五島正規委員の質問を抜粋します。

 

  「政策医療と言うのはその時代時代において当然変わってくるわけでしょうが、ここで問題なのは、国営において、あるいは今回もこの独法と言う、税も払わない、そしてさまざまな形でもって逆に税からそこに投入しなければならないその医療は何なのかと言うことだろうと思います」

 「不採算であっても地域に必要な,公益性の高い医療サービス」、すなわち地域の「政策医療」を担わされたのは,当然のごとく地域の国立病院や自治体病院でした。

 しかしながら、その一方で、本当に政策医療(例えば筋ジス等の長期収容政策)が不採算部門であったのかどうか、そして今も不採算部門なのかは検証してみる必要があります。

 

 筋ジストロフィー病棟の意外な採算性

 

 ここからは政策医療の代表的な筋ジス病棟の収支について探ってみます。

 筋ジス病棟は赤字なのか――実際に不採算なのかを調べてみました。

 先に述べたように、2006年10月より、国立病院機構の筋ジス病棟は日中は障害者自立支援法上の指定療養介護の福祉施設となりました。ここから、筋ジス病棟の診療報酬制度は変わりはじめるのです。厚生労働省の発表した診療報酬から筋ジス病棟は特殊疾患病棟入院料(旧 特殊疾患療養病棟入院料)1・2又は特殊疾患入院施設管理加算を算定する病棟となっています。

 参考―中央社会保険医療協議会「入院医療の評価のあり方について」2007年11月7日

 

 では、「特殊疾患療養病棟等1は主として長期にわたり療養が必要な重度の肢体不自由児(者) 、脊髄損傷等の重度障害者、重度の意識障害者、筋ジス患者または神経難病患者が入院するための病棟である」としています。

 そこでは、「障害の程度だけではなく、医療の内容から本来対象とすべき疾患を明確にする等、現在の基準の在り方を見直してはどうか」と言う論点で締めくくられています。

 この診療報酬では重度の障害者で、介護量の多さなどは対象になりません。よって、重度の障害者ではあるが介護量が少ない人たちを多く入れれば、人員配置が少ないままで高い入院料を確保できるしくみになっています。

 この療養介護病棟は、入院基本料を医療費から得つつ、日中は生活支援員の人件費として障害福祉サービスの介護給付費が得られるという二階建て構造となっています。

 更に、なぜか障害者自立支援法の療養介護には、ケアする人数を実数より多くカウントする経過措置がありました。病院での人員配置上、生活支援員として正看護師を配置した場合、正看護師1人当たり生活支援員1.5人とみなして算定できるしくみです。

 

厚生労働大臣が定める施設基準 告示551号平成18年9月29日

「生活支援員として看護師を配置している場合にあっては、平成二十一年九月三十日までの間、看護師以外の生活支援員の員数と生活支援員として配置されている看護師の員数に一・五を乗じて得た数の合計数とする。」

2:1の看護職員配置を満たした上で、生活支援員として看護師を配置している場合にあっては、その看護師の数を1.5人と計算できるものである

 

 この取扱いは暫定的なもので、2012年3月まで延長された上で終了しているのですが、介助が多く人員が必要な病棟であるにもかかわらず、人員が少ないまま存続できる仕組みがあったのです。

 障害者自立支援法に対応することになった国立病院機構福岡病院西間三馨院長(当時)の見解を紹介します。

 

「重心・筋ジスの赤字転落→旧国療病院の一般医療のカバー不能→一般医療の消滅=後方支援医療の消失→旧国療病院の大幅な赤字→組織から脱落→機構の政策医療(錦の御旗)の喪失→機構の存在理由の著減→独法としての評価低下→民間へ」

   西間三馨 「重症心身障害の療養介護事業」『医療』Vol.61 No.3 (176),2007.

 

 西間氏は重心(重症心身障害児・者)・筋ジスの病棟の黒字が、旧国療病院の一般医療の収入をカバーしていると書いています。政策医療と呼ばれる筋ジスはどうやら黒字であり、それ以外の療養所の一般病棟が赤字で、その補填をしているらしく描写されています。また、国立病院機構南九州病院福永秀敏院長(当時)の言も紹介します。

 

 「筋ジス病棟は、人の問題が3年間の移行措置(前述の、看護師1人を生活支援員1.5人とみなして算定できる経過措置の話をしていると思われる)でどうにか従前と変わらない収益をあげていますが、患者数の減はじわじわと進行していきそうです(中略)病院経営も大変になりそうです。旧療養所型の病院では、重心・筋ジスの収益を他の部分の赤字の穴埋めにしてきたわけですが、今後は次第にそのような手法は取れなくなります」

  福永秀敏『NHO神経内科協議会通信』NO.5,2007.2

 

 両氏はそろって、「重心と筋ジス病棟の収益を、他の部分の赤字に当てている」と明言しているのです。

 なお、国立病院機構の会計方法は企業会計となっています。

 

独立行政法人国立病院機構会計規程第2条2

「原則として企業会計原則によるものとし、具体的には、法律、省令及び業務方法書の規定による個別の定めが優先し、次いで「独立行政法人会計基準」が適用され、最後に「企業会計の基準」が適用される。」

 これらからも、筋ジス病棟の収益は国立病院機構の赤字補填になっているように読めます。

 

難病患者が国立病院の赤字を補填!?

 

 政策医療の中心である筋ジス病棟と重症心身障害児・者病棟は税金も払わず、黒字です。したがって、国立病院機構で、筋ジス病棟と重症心身障害児・者病棟を持っている施設の経常収支比率は高く出ます。

 

【経常収支比率】 平成23年度国立病院機構 財務諸表から
 1位   鈴鹿病院 (一般病棟36、筋ジス120、重心120) 118.2%
 2位   熊本医療センター(一般500、精神50) 117.3%     
 3位   釜石病院(一般病棟100、重心80) 114.6%
 4位   香川小児(小児等290、重心210) 114.6%
 5位   柳井病院(一般200、重心80) 114.4%
 6位   八戸病院(一般50、重心88) 114.4%
 7位   八雲病院(重心120、筋ジス120) 114.3%
 8位   あきた病院(一般・結核100、重心160、筋ジス80) 113.7%
 9位   医王病院(小児・神経110、筋ジス100、重心100) 113.4%
 10位 菊池病院(精神167、重心80) 113.3%
 11位 富山病院(一般・結核140、重心160) 112.5%


 国立病院機構各病院の財務諸表 から計算すると、ベスト10に入っている病院は1か所を除き筋ジス・重心のどちらかの病棟が必ずあり、一般病棟との比率も筋ジス重心病棟の割合が高い病院ばかりです。

 平成23年度の143の国立病院機構の総経常収支比率トップは鈴鹿病院(経常収支率118.2%)です。また、障害者自立支援法導入前の国立病院機構の財務諸表からのデータでも、2005年4月から2006年1月までの医業収支率についても全国1位が鈴鹿病院(126.3%)でした。

  収支比率がよい病院のほとんどが、重心・筋ジス病棟の割合の高いところばかりなのです。

 赤字だから政策医療かと思っていましたが、そうではないようです。

 平成20年10月23日、国立病院機構本部において、「旧療養型病院の活性化方策に関する検討会 重症心身障害・筋ジストロフィー部会」が開催されました。その資料の中で、筋ジス病棟については「平成21年9月に、看護師による生活支援員1.5換算の経過措置が終るが、療養介護サービス費I(2:1)を習得するとした場合、全施設で162.2人(7.4億)の増員が必要となるが、それでも依然として58億円の収支差のプラスを維持できる見込み」があると書かれています。当時は、65億程度の収支差があったのでしょうか。

 国立病院機構南京都病院宮野前健副院長(当時) が、病院の会計方法についての課題を報告しています。

 

「これまで措置収入は名目上診療報酬に組み込まれており、本来の使用目的に充分活用されていなかった。平成18年10月より一部を除き措置収入に変わり福祉の給付金となったが、その経理上の取り扱いは旧来のままである。この給付金の目的は日中活動等の利用者支援の費用でありサービス提供に対する対価である。病院機構として社会から納得の得られる対応が望まれる。また公法人立施設には従来措置費の使途に関して外部監査が実施されており、今後国立病院機構に対しても同様な対応がなされると考えられる。このため経理上も給付金の取り扱いには留意が必要である」

宮野前健「国立病院機構重心病棟におけるサービス提供について」『障害保健福祉総合研究事業平成18年度総括研究報告書』(31-32),2006.

 

 宮野前氏がここに書いているように、筋ジス・重心病棟での給付金は利用者支援のサービスに対する対価です。それは、最も人手を必要とする重度障害のある方の、人手さえあれば叶うはずの、手厚い介護や多くの経験を積むために使うものであるはずなのです。

 筋ジスは身体機能の低下と、喪失感をもつ病気です。歩行ができたのがやがてできなくなり、車いすになっていくのです。床を這って動けたのがベッドで寝たままになってしまうのです。呼吸機能が低下すれば、人工呼吸器をつけることになります。食べ物を口からとれなくなれば、胃ろうチューブなどから栄養を摂るようになるのです。

 身体機能の低下は現在の医学では止めることができません。しかし、障害が重くなる喪失感は、誰かがその患者の機能低下を補う支援を増やせば、感じなくて済むのです。そうすれば、いわばこの病気の宿命とでもいうべき、身体機能の低下とそれに伴う喪失感の二重苦と戦うだけの人生から脱することができるのです。

 患者がこの二重苦から逃れるための具体的な方策は“支援量を増やす”、そのための人材を増やすことしかないのです。

 しかし、大きな病院や施設で集合的になればなるほど、その人の個性に合わせた個別の給付というものはまったく見えなくなっていってしまうのが、今ここにある現実だとわかってきました。

  どうして、政策医療となっている重心・筋ジスがほかの医療の赤字補てんをしなくてはならないのでしょう。本来であれば、“二階建て”で得ている手厚い報酬は、その病棟に入院している重度の障害を持つ方々が快適に暮らせるよう使い途を限定すべきではないでしょうか。

 

つづく

*「おうちにかえろう 30年暮らした病院から地域に帰ったふたりの歩き方」は,

  隔週で連載予定です*

 

補記――読者の質問に答えて(2013.5.14)
 

児童福祉法の児童福祉施設の設備及び運営に関する基準、第21条に「5  看護師の数は、乳児及び満二歳に満たない幼児おおむね一・七人につき一人以上、満二歳以上満三歳に満たない幼児おおむね二人につき一人以上、満三歳以上の幼児おおむね四人につき一人以上(これらの合計数が七人未満であるときは、七人以上)とする。 」とあります。

年齢分布も異なるでしょうから単純比較は難しいかも知れませんが、こうした医療施設以外の健常児の基準と比べていかがでしょうか?

・・・・・・

A 伊藤佳世子

児童福祉施設の設備及び運営に関する基準の第七章第四十二条を参考に計算してみました。

児童養護施設の人員配置基準は一番手厚い乳児でも1.7:1となります。

療養介護では、支援員4:1+看護師2:1だと4:3(1.3:1)で近い数字になります。

 しかし、人員配置で重要なのは配置の一番少ない時間帯がどのくらいの比率で配置されていて、それが何時間くらいあるのかが重要だと思います。それは各病院での考え方で人員の配置をされていると思います。

 例えば、筋ジス病棟のように40人の病棟で3分の2以上が人工呼吸器装着者のようなケースで夜間の一番少ない配置の時間帯が3~4人となるような病院もありますが、それでは一人で10人以上の患者をケアする状態になります。その配置が果たして安全が担保できるかということに危惧を感じています。そこへの制度的な縛りはありません。

第七章 児童養護施設

第四十二条  児童養護施設には、児童指導員、嘱託医、保育士、個別対応職員、家庭支援専門相談員、栄養士及び調理員並びに乳児が入所している施設にあつては看護師を置かなければならない。ただし、児童四十人以下を入所させる施設にあつては栄養士を、調理業務の全部を委託する施設にあつては調理員を置かないことができる。

2  家庭支援専門相談員は、社会福祉士若しくは精神保健福祉士の資格を有する者、児童養護施設において児童の指導に五年以上従事した者又は法第十三条第二項 各号のいずれかに該当する者でなければならない。

3  心理療法を行う必要があると認められる児童十人以上に心理療法を行う場合には、心理療法担当職員を置かなければならない。

4  心理療法担当職員は、学校教育法 の規定による大学の学部で、心理学を専修する学科若しくはこれに相当する課程を修めて卒業した者であつて、個人及び集団心理療法の技術を有するもの又はこれと同等以上の能力を有すると認められる者でなければならない。

5  実習設備を設けて職業指導を行う場合には、職業指導員を置かなければならない。

6  児童指導員及び保育士の総数は、通じて、満三歳に満たない幼児おおむね二人につき一人以上、満三歳以上の幼児おおむね四人につき一人以上、少年おおむね六人につき一人以上とする。ただし、児童四十五人以下を入所させる施設にあつては、更に一人以上を加えるものとする。

7  看護師の数は、乳児おおむね一・七人につき一人以上とする。ただし、一人を下ることはできない。 

 

■医学書院にはこんな雑誌があります■

月刊『病院』2013年4月号(Vol.72 No.4) イメージ

月刊『病院』2013年4月号(Vol.72 No.4)

特集 リビングウィルを考える――人生の最期をどこでどのように迎えるかは,現在も大きなテーマである.また,尊厳死は医療だけではなく,多くの分野にまたがる問題として捉えられてきた.本特集では,リビングウィルや尊厳死,さらに看取りの体制を整え,患者や家族をいかにサポートしていくかについて,医学,法律,宗教などの視点から考える.

詳細はこちら

このページのトップへ