新型インフルエンザのワクチン製造態勢整備

新型インフルエンザのワクチン製造態勢整備

2012.12.07 update.

宇田川廣美 イメージ

宇田川廣美

東京警察病院看護専門学校卒業後、臨床看護、フリーナース、看護系人材紹介所勤務を経て、フリーライターに。医療・看護系雑誌を中心に執筆活動を行う。現在の関心事は、介護職の専門性と看護と介護の連携について。「看護と介護の強い連携で、日本の医療も社会も、きっと、ずっと良くなる!」と思っている。

パンデミックワクチンの迅速生産を目指して

 

政府は新型インフルエンザ流行に備えていくつかの事業を展開しています。1つは「細胞培養法開発事業」です。従来の鶏卵培養法で全国民分のワクチンを生産するには1年半から2年かかるのを、細胞培養法の開発によって生産期間を約半年に短縮するというもの。その他に、従来の鶏卵培養法での生産能力強化、第3世代ワクチンの開発推進事業などがあり、その予算は1019億円です。

 

今回、事業撤退が報じられたのは、細胞培養法事業に参加していた阪大微生物病研究会で、この会社には2013年度中に細胞培養法によって半年間で2500万人分のワクチンを製造する体制を整備することを目標に、240億円の助成金が給付されていました。しかし、製造するワクチンの性能が、基準に満たない見通しとなったことで撤退に至ったのです。同社は240億円の助成金を国に全額返還し、今後は独自に新型インフルエンザワクチンの開発を続けることを明言しています。

 

この撤退は、「もっとお金と時間をかけて確実な開発研究がしたい。助成金を返還して、国に縛られずに当社独自のワクチンを開発します」、といった宣言のように受け取れました。1つの薬を作るには約10年の歳月と300億円以上の費用がかかるといわれています。それに比べると今回の事業は、2011年の業者募集から2013年度中までの約2年間という短い時間、そして通常よりも低い額の助成金です。わかっていたこととはいえ、この点だけ見ても決してしてよい研究条件とは思えません。

 

過密スケジュールでワクチンの安全性は担保できるか?

 

次の新型インフルエンザはいつ発生するか、確実に発生するのか、しないのか、ほとんど予測がつきません。それでも不測の事態が起こったらすぐにワクチンが作れるように、ワクチン製造環境を整備することが今回の事業目的です。

 

2009年の新型インフルエンザ流行の際には、国産ワクチン5400万人分、輸入ワクチン9900万人分、計1126億円分のワクチンをかき集め、結局、使われないまま破棄されたと聞きます。しかも、当時、新型とされていたワクチンには新型インフルエンザ(A/H1N1)のウィルスに加え、A香港型やB型のウィルスも検出され、2011年には季節性インフルエンザと異なる特別な事情は確認されなかったとして、季節性インフルエンザとして扱われるようになりました。「なーんだ」とか、「もったいない」と思います。それでも、新たな新型インフルエンザが発生する可能性は高く存在しています。

 

厚生労働省の資料によると、新型インフルエンザが発生したときには、人口の4分の1が感染し、17万人から64万人が死に至るとされています(表)。その時が来たら迅速にワクチンを製造し、対応していくことはパンデミックを予防するためにも重要です。

 

2009年の「新型インフルエンザ」には国も国民も踊らされた感がありますが、備えは重要です。既に免疫ができている人、妊産婦や持病のためにワクチン接種ができない人などがいて、国民全員がワクチン接種を行うとは限りません。しかし、国として全国民に行き渡る数を準備することは必要なことと思います。それによって無駄が出たとしても、それは許容範囲内でないでしょうか。

 

今回の研究事業の詳細を調べていないので何ともいえませんが、この撤退劇には、目標達成のための期日設定や研究開発方法、助成金以外の国の支援体制など、研究開発に伴う諸条件が大きく影響しているように感じます。かつての事業仕分けで「2位じゃいけないんですか」と言って無駄を切り捨てた政治家がいましたが、生命の安全を守るにためには無駄とも思える余裕が必要なのではないだろうか、などと感じました。

 

表 国の被害想定

 

感染者

人口の4分の1である3200万人

受診者

医療機関を受診する患者数は最大で2500万人

入院患者

53万人から200万人

死亡者

17万人から64万人

 

【参考HP】

●厚生労働省 政策レポート「鳥インフルエンザと新型インフルエンザ」

 http://www.mhlw.go.jp/seisaku/01.html

 http://www.mhlw.go.jp/seisaku/02.html

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