ニジノカナタニ 第8話

ニジノカナタニ 第8話

2012.11.26 update.

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前回までのあらすじ

 カエルの看護師ナンシーのもとに神のつかいマンジーが現れた。看護研究や論文チェックの知恵を伝授され、マンジーに対するナンシーの信頼は自然に深まっていった。そんなとき、親友のマリアからSOSメールが……。
 「ニジノカナタニ」第8話は、新人指導で行き詰まっているマリアのお話しの続編です。

教育担当者はつらいよ (その3)

 

「色んな新人がいるからさ……きっと、マリアのプリセプティの彼も少しずつは成長すると思う。いろいろ大変だろうけど、マリアらしくマイペースでやっていくのが一番だと思うよ。」

 

なんの解決方法も見つからなくって、そう言うのがやっとだった。

「ナンシーありがとう。話を聞いてもらったら、なんか元気が出たような気がするよ。」

全然役に立たない私に、マリアはそう言ってくれた。

明らかに無理して、そして私に気をつかってそう言ってくれるマリアがすごく気の毒だと思った。

 

 

その夜は、それからは仕事の話はしないで晩御飯を食べてマリアと別れた。

マリアの受け持ちプリセプティをどうすればいいのか、結局ナンシーは何もアドバイスすることはできなかった。

でも、心配だったから、また来週ご飯食べようねって約束もした。私にできることは、マリアの気分転換ぐらいしかないと思ったから。

 

それにしても、他人事とは思えない。最近はほんとうに個性的でびっくりするような新人たちがやってくる。年齢や経験といった世代の差もあるだろうが、考え方や価値観のようなものが理解できない人も少なくない。

今までは、看護学校を卒業して新卒で入ってくる新人たちは年齢や教育背景もだいたい同じだったように思う。正しくは、考えていることや価値観が同じだということにしておいても、お互いがなんとかうまくやってこられたというだけかもしれないが。

 

しかしここ数年での変化は激しい。看護とは全く畑違いの領域から、看護学校に入って看護師になった人たちも格段に増えた。指導をしても、『はい!わかりました』ってすぐさま動く新人ばかりじゃない。自分よりう~んと年上の新人を指導しなければいけない場合、こっちも指導しにくいし年上の新人はなかなか素直に聞き入れてくれないこともある。まあ、確かに、年下の先輩からダメ出しされたら、今までの経験だってあるんだから、自分の考えやこだわりをやたら気にしたりもしたくなるかもね。

でも、最近は新卒新人でも『どうしてですか?』といちいち聞いてきたりする。しかもメモを取るでもなく、いろいろと説明しても「ふ~ん」でおしまい。こっちとしてはびっくりだ。まずはやってみるのが当たり前じゃない? 先輩に説明させるならメモぐらい取れば? あんたたち新人なんだからさあ!

 

説明して納得してもらう。新人看護師に対する指導や教育ても、それがとても大切だってことは、いろんなところで聞かされているし私だって知っている。でも、頭で分かっていてもどうしても気持ちは納得できないからスッキリしない。

『そうじゃないでしょ!おかしいでしょ?』って言うもう一人の私が、ひきつった笑顔で新人と話している私を気の毒そうに眺めている感じだ。

 

そんなことを考えてながら、今日もマンジーからのリクエストの夕食メニュー、クリームシチューを作っていたら、

 

「いやっ!焦げる!焦げるじゃないー? いややわー!」

 

マンジーの悲鳴が聞こえた。

 

「あっ!」

「ちょっと焦げてしもたんちゃう?」

「ギリギリセーフ。大丈夫です。今日はチキンときのこのクリームシチューなので、ちょっと香ばしい感じになってOKです。」

「よかったわああ。」

マンジーはリビングで鼻歌をうたいながら雑誌をパラパラめくっている。

 

「それにしてもホントにクリームシチュー好きですよねえ。飽きませんか?」

「あははは。何か月間か食べ続けたかて、何万年も生きている私にとっては、ごくごくわずかな時間なんよ。うふ。」

 

あまりに世俗的で、いつも神様ってことを忘れてしまうが、マンジーは知恵の神様なのだ。

「あ、そうなんですね。寿命が桁違いなんだ。」

「そうなんよ。それにこんなおいしいものがあるところにばっかりいかれへんから、ルンルンよ。ひどいところやと、何百年も何も食べられへんこともあるんよ。」

「え!そうだったんですか? 意外です!美味しいものめぐりの旅みたいなことしているのかと思っていました。」

「そういうもんやで、人間はどうしても勝手なことを思ってしまうんよね。直接聞けば分かることも、勝手に解釈して余計にややこしゅうすることもある。」

「……。」

なんだか、マンジーにはすべてのことが分かっているような気がする。

 

「新人の指導もそういうところがあるなあ。そやろ?」

「えっ?」

「ずっと気になってるんやろ? マリアのこと。」

「分かってたんですか?」

「ナンシーちゃん。私を誰だと思てるんですか? 神様でございます!」

「あ……そうでした。あまりにも身近なもので……つい。」

「まあよろし。あのねえ、気になってるなら相談しいや!」

マンジーはつっけんどんな言い方をする。でも、本当に私のことを良く見てくれているのがわかる。

「ありがとうございます。」 ちょっとじんとして、わざとあっさりお礼を言った。

威張ってて食い意地張ってるけど、やっぱり、神様なんだなぁ。

 

 

「マリアが指導している新人さんのことです。」

新人といっても若い女性看護師ではなく、介護職としての経験のある男性看護師であること、過緊張タイプで業務が追加されるとこれまでやっていたことを忘れてしまうことなど、マリアから聞いた、新人の困ったところを説明した。

 

「手がかりはそこにない。回り道でも意外な一面を探すことやな。」

「はっ? そこって?」

「マリアは、うまくいかないところを必死で何とか直そうとしてるやろ? でも、今うまくいってないところに、うまくいくヒントなんかないで!

全体をよーく見ることや。特に、回り道のように思えても、その新人の意外な一面を探す!直した方がいい欠点をほじくりかえしても、そこは脱出の糸口にはならへんで!」

「ええ~? 意外な一面なんてそう簡単には……。難しいですよ。」

「ええか、意外な一面は近づかんと見えんし、どうやったらそれが見えるかは自分で考えなあかん。自分らでなんとかせんとな。人を育てるのはやっぱ現場やからね。」

 

「そりゃそうですけど……。」

スッキリと納得できる答えではなかったが、これまでのマンジーのアドバイスでいろいろと助けられてきたので、ここは信じてマリアにもメールするだけメールしてみよう。

ナンシーはマリアにメールすることにした。

 

「私の先輩で、研究とかいろいろなことですごくいいアドバイスくれる人に相談してみたんだ。そうしたら、その先輩が、

『回り道のように思えても、その新人の意外な一面を探すことがきっかけになる。直した方がいい欠点をほじくりかえしても、そこは脱出の糸口にはならない。意外な一面は近づかないと見えないよ。どうやったらそれが見えるかはしっかり考えてみて!きっと道は開けるから頑張って!』って言ってる。参考になるといいんだけど……ナンシー」

 

マンジーが神様っていうのは、シャレにならないから隠しておこう。

ちょっとでもマリアがいい感じになれるきっかけに役に立つといいなあ。

 

 

次回につづく

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