ニジノカナタニ 第5話

ニジノカナタニ 第5話

2012.8.09 update.

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前回までのあらすじ

カエルの看護師ナンシーのもとに神のつかいマンジーが現れた。看護研究計画に苦悩していたナンシーはマンジーの言葉に目覚め、研究という形にとらわれない、実践での新たな看護方法の活用のプロセスをまとめることにして、何とか乗り切った。「ニジノカナタニ」第5話は、その後日談です。

論文とたたかう


マンジーのアドバイスにより、看護研究計画書の発表会を大成功のうちに終えることができたナンシーは、モチベーションも高まっていた。

 

山ほど論文を抱えて帰宅したナンシー。そこにお腹を空かせたマンジーが現れる。

 

「ごっつい量の資料やねぇ……勉強熱心だこと」
「ちゃかさないでください。けっこう気合入ってるんです。いろんな文献を読んで、もっと良い方法がないか検討しなくちゃ」

 

ナンシーは、さっそく論文の一つを手にとって丁寧に読み始める。
マンジーは、ナンシーの姿を遠目で見ながら、ここのところお気に入りの骨盤ストレッチをしている。

 

「あのねぇ……」
「あとにしてください」

 

マンジーの問いかけにも、ナンシーは冷たい対応。熱心に論文と格闘するナンシーにマンジーもだまって引き下がる。しかし、しばらくすると……。

 

「ねえええ お腹すかへんか? クリームシチュー食べたいのぉぉぉぉぉぉ」
「はいはい。この論文読んだらね」

 

マンジーはナンシーの側に寄っていって、論文を覗き込む。

 

「えぇ……? まさか自分、最初から全部読んでんの?」
「当たり前じゃないですか。論文なんですからしっかり読んで内容を理解しないとダメでしょ」

 

ナンシーは疑う余地もなく、答えるが、マンジーはあきれ顔だ。

 

「そんなん、日が暮れてしまうわ……もっと、ちゃっちゃっって早く読めへんの?」
「あのねぇ……論文を読むって時間が掛かるものなんだから。お腹が空いたからって、邪魔しないで下さいよ」

 

いきなり、マンジーはナンシーが読んでいる論文を奪い取った。

 

「うわっ!何するんですか!」

マンジーは「ふんふん」と頷きながら、ペラペラと論文を流し読みして言った。
「これはダメ!使えない!」

 

あっけにとられているナンシーにお構いなく、論文を次々に読んでいく。
「これもボツ!……これはいいね♪」
「どうしてそんなこと分かるんですか? ちゃんと読みもしないでいい加減なこと言うのは良くないです!」
ナンシーのクレームを無視して、マンジーは、机の上に論文をどんどん仕分けしていく。そのマンジーの集中力に、ナンシーは「ひょっとして、ちゃんと理解してるのかも……」と驚きを隠せない。

 

マンジーは大きく息を吐いて、机の上の論文の山を指さした。

 

「こっちの論文は、まあまあ使えそう。でも、こっちのは読む価値無し!」
「ひょぇぇぇぇぇ」

 

確かに、マンジーが使えそうという論文は、ナンシーが崇拝している研究者が書いている論文でもあるし、読む価値無いという論文は、ナンシーも「とりあえず&一応」複写してみただけの論文がほとんどであった。

 

「どうして、こんなに早く論文を読めたんですか?」

 

ナンシーは素直な疑問をマンジーにぶつけてみた。

 

「あんたが、遅すぎんねん」

 

そして、マンジーは身を乗り出して続けた。

 

「論文を早く読むコツを教えたろか?」

 

ナンシーは頷きながら目を輝かせた。

 

「まず、論文は全部読む必要ないねん。そんなことしとったら、いくら時間があっても足らへんやろ? ましてや、全部読んだ後に、使えない論文やったら、がっかりや。せやから、使える論文だけ読むようにせんとあかん。」
「いやあの……お言葉ですが、全部読まなきゃ使える論文かどうかわからないのでは?」

「そやから、コツがあんねんって」

 

マンジーは一つの論文を開いて、ひれで指しながら説明を始めた。

 

「まず、全体を眺めて論文の構成をつかむんよ。もちろん、タイトルは頭に入ってるから言いたいことはわかるわな。で、最初にどこを見る?」

 

ナンシーはこれには自信があった。

 

「それは、概要(アブストラクト)です。ここで要旨がわかります」

 

マンジーはすかさず切り返す。

 

「あきまへんな」

 

ナンシーは目が「?」になっていた。

 

「最初に見るのは、まず、参考文献やね」
「は? 参考文献って……あの最後に載ってるやつですか?」
「そう。その参考文献よ。どれほどしっかりした論文なのか、つまりどんな理論を前提に書かれた論文なのかは、その論文の参考文献を見ることで立ち位置が鮮明に分かるのよ」
「論文の立ち位置……」
「だから、しょーもない雑誌の記事とかが参考文献に入っているようでは、まず、読む価値無いわな。辞書なんかが参考文献にあるようなら、そんなんは、もう論文とは呼ばれへんわ。すぐ次にいかな」
「なるほど……」
目から鱗が落ちたとはこのことで、ナンシーは、大きく頷いた。

 

「で、これは読んでも良さそうやと思った論文は、次に、何を見たらええと思う?」

 

ナンシーは、自信なさげにおずおずと「結論ですか?」と答えてみた。

 

「まあ、外れではないな。でも、ちょっと違う。論文全体を見て一目見て、目立ってるものって何やろね?」

 

ナンシーは、論文に描かれているグラフを指さした。

 

「そう。図が大事なんや。その論文で一番言いたいことは図や表になってる場合が多いわな。そやから、図はしっかり見んとあかんわ」

 

ナンシーも頷きながら「この数値が大事ですね?」とマンジーの様子を伺った。

 

「ところがちゃうねん。数値の前に、見るべきところがあるんよ。このグラフやったら、縦軸と横軸に何を取っているかってことよ。著者が一番比較したいものがここに現されているんよ。つまり、ここまで見ただけで、この論文が、どんな傾向の議論をしたいのかとか、ここで何を比較して事実を示したいのかが見えてくるわな」

 

いちいちもっともな説明にナンシーも感心する。

 

「どうや。本文を全く読まんでも、ここまでわかるんよ」

 

なるほど、この段階では、文章らしい文章はタイトルぐらいしか読んでないから、慣れれば、かなり早く論文を読みこなせると、ナンシーは思いを巡らせた。

 

「これで、使えるとわかったら、しっかり読めばいいんですね?」
「まだや」
「他にもコツがある……ってことですよね? 教えて下さい!」
「次に、見出しや小見出しをピッピッピッと見てみ」
「あ……」
「そやろ? 論文全体の主張が見えてきませんか?」
「はい」
「ここで初めて文字を読むんよ。一番大事そうな部分――その論文で言いたいことや、新たな知見――これを読めばOKやね」

 

ナンシーは、なんとなく、わかったような気になった。

 

「他にはポイント無いんですか?」
「そやね、太字になってたりカギ括弧で括られた言葉はキーワードっちゅうやつや。これは、大事に見とかんといかんね」
「あ……これとかこれとか……」

 

ナンシーは論文の中に書かれているキーワードを指さし、ふんふんとうなずく。さらに、マンジーは使える論文を並べて参考文献に示されている一つの論文を指さした。

 

「これ読んだ?」
「いえ、まだです」
「これ読んだ方がいいわ」
「どうしてタイトルだけでわかるんですか?」
「見てみ。ここにある論文は、みんな同じこの論文を参考文献にあげてるやろ?」

 

ナンシーは、マンジーが使える論文として分類した、論文を次々に見比べて頷いた。

 

「これはな、このテーマで議論するんやったら、前提として『これだけは知っとかなあかん』っちゅう、大事な論文やねん。まあ、常識として知っておかなあきまへんなっちゅうことやし、きっとええ事が書いてあるはずや。」
「なるほど。単に早く読めるだけでなく、大事なことも見落とさないで済みますね」
「そうや、順番に論文をぜーんぶ読んでても、ここに気づかんかったら意味ないわな。
それと、逆に考えたら、今の見方は、そのまま論文を書く場合にも使えるんよ」
「読むと書くとは違うのでは?」
「しっかり参考文献をしらべて、論旨や何を測るかを明確にして、論理的に図示するとか、全部、逆に見ると良い論文を書けるっちゅうことや」
「なるほど……そういうやり方があるんだ。奥が深いって良くわかりました。」

 

というところで、マンジーのお腹もギュルギュルとなり出した。

 

「あ、急いでクリームシチューをつくりますね。いろいろ分かったら、うれしくてお腹もすいてきました。」
「そういうこっちゃ」

 

ナンシーが台所に向かった時、携帯電話に一通のメールが届いた。


つづく

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