ニジノカナタニ 第6話

ニジノカナタニ 第6話

2012.9.25 update.

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前回までのあらすじ

カエルの看護師ナンシーのもとに神のつかいマンジーが現れた。看護研究をマンジーのアドバイスで何とか乗り切ったナンシーは、さらに目からうろこの論文チェックの方法をマンジーに伝授され、徐々に信頼を深めていった。そんなとき、一通のメールが……。
「ニジノカナタニ」第6話は、新人教育にまつわる新たなエピソードの始まりです。

教育担当者はつらいよ


看護研究の発表会以来、マンジーに一目置くようになっていたナンシーであったが、文献チェックのコツを教えてもらってからは、いっそう尊敬するようになっていた。

 

相変わらず仕事は忙しい。やらなければならないことも次々と降りかかってくる。でも、そのすべてをできなければダメだ!という考えにとらわれることは少なくなった気がしていた。
できない!時間がない!と、いつもキリキリするのでなく、限られた選択肢の中から何を選ぶのか、どこに力を入れてどこで力を抜くのかを考えるようになった。

 

ま、実際はそんなにうまくできないけど(笑)。

 

それでも、考え方のクセみたいなものが変わると、何だか毎日の仕事も今までとは違ったように思える。マンジーのこと、今まではかなり怪しいと思っていたけれど、かなりご利益のあるありがたーい神様なのかもしれない。少なくとも私にはあっているみたい。ナンシーは最近とみにそう考えるようになってきていた。

 

そんなこんなのある夜。マンジーはいつものクリームシチューをごきげんな様子で食べきった。
「あの……いつもクリームシチューって嫌にならないですか?」
「全然!クリームシチュー、最高!!」
……やっぱり神様らしい立派なところは、普段は全くと言っていいほど見えない。

 

そんなナンシーの携帯に1通のメールが届いた。
看護学生時代、一番、仲の良かったマリアからだ。

 

《ナンシーあたしもう無理。どうしたらいいかわからないよ。》

 

……って、 え――っ!! ひょええええ、どうしたのー?

 

努力家で我慢強いマリアがこんなメール送ってくるなんて、よっぽどだ。とにかく、会って話したほうがいいよね。

 

《どうしたの? 大丈夫? とにかく電話するから。》

と慌ててメールに返信して、すぐにマリアに電話した。

 

「大丈夫? とにかく顔を見て話したいから! 今どこ? わかった、うん。私も明日休みだから、遅くても平気だよ。了解!気をつけてね。」

 

耳をダンボにしたマンジーがそそくさと寄ってきて興味津々に尋ねてきた。
「どないしたん? えらい慌てて。」

 

ナンシーは落ち着いて説明を始める。
「学生のときからの大親友なんですけど、《ナンシーあたしもう無理。》ってメールが来たので慌てて電話したんです。その落ち込み方が尋常じゃなくって……かなりやばい感じです。とにかく心配だから、この後、22時にケロケロバイパスのファミレスで待ち合わせしました。」

 

マンジーも身を乗り出して聞いている。

 

「彼女、あ……マリアっていいますが、今年の4月から、病院の新人看護師の教育責任者をやってるんです。4月になる前から、かなりプレッシャーを感じていたみたいだったから、『マリアの良さを生かして、無理しないでやっていくのが一番だよ』って話したんです。その時は、『そうだよね。できることから少しずつだよね』って言ってたんですけど……。」

 

マンジーは大きくうなずいた。

「ものすごーく、ありがちなパターンやね。」
「やっぱり、そう思います?」
「めちゃめちゃ、そう思うわ。」
「どうしているのか気にはなっていたんですが、私も看護研究でかなり忙しくて、連絡できてなかったんです。一緒にがんばろうとは言ってたんですけど……。」
「便りがないのが、良い便りっていうさかいな。しばらくぶりに来たメールは気ぃつけなあかんわな。」
「う―――ん。マリアってすごい真面目なんで、そこが災いして、まずい状況になってしまうタイプかも……なので、心配なんです。」
「新人看護師への指導っちゅーのも、あまりに生真面目にやると、結果的に度を越して、本人めちゃめちゃ頑張った割に効果は出んかもしれんなあ……。」

看護研究のときには結構共感できたマンジーの言葉が、今日はなんだかえらく引っかかる。
マリアの切羽詰まった声が、頭に残ってやたらに気になっているせいなのかもしれない。

 

「あの、お言葉を返すようですが、今の新人はコミュニケーション能力も低いし、看護技術も実習で経験できることなんかものすごく限られてるから、何から何まで現場で教えてあげないといけないんですよ。現場は、膨大な業務を抱えながら新人を指導してるんですから、ホントに大変な負荷なんです。」
「そやね、めっちゃ大変やわね。」

 

マンジーの素っ気ない返事に、ナンシーは正直、カチンと来た。
「その言い方なんか冷たくないですか?」
マンジーは悪くないけれど、ついつい言葉がとげとげしくなるときがある。

 

現場で必死でやっている当事者に向かって、周りの人間が簡単に言うセリフがある。それは、『無理しなくていいのよ』という言葉。こんなに大変なのにどうやって無理せずに新人指導ができるというんだろう? そんなセリフをマンジーからナンシーは、少し冷静にマリアのことを説明しようと試みる。

 

「マリア、ホントにいい人なんですよ。患者さんにも後輩にも、ものすごーく誠実に対応するんです。」
「そうやね。一生懸命は悪いことやないけどね。その結果が悪いってことはある。言うてるだけなんよ。」
「そんなこと言ったって、できない新人をほめながらやっていかないといけないから、一生懸命にやるのは仕方ないんですよ。」

 

ナンシーは、どうしてマンジーがわかってくれないのだろうかと苛立ち始めた。すると、マンジーは穏やかに答える。
「やり方を工夫せなあかんって言うてるだけや。」
「へっ?」
ナンシーは意味がつかめない。

 

「無理したらあかんとでも言われる思ったん? そんなことあらへんやろ? 新人に仕事を教えるなんて、とにかく手間がかかって大変なんやから、無理せんとできへんで! そやから、やっても無駄な無理はしたらあかんのや。」

ナンシーは、マンジーの言うことが今ひとつ理解できない。
「はあ……。」
「それからナンシー。その『仕方ない』って言い方、看護研究の時と同じとちゃう?」
「あっ!!」

ナンシーはマンジーの指摘にハッとなった。
 

しばらくの沈黙の後……

 

「とにかくマリアに会って話を聞いてきます。話を聞いたら、そんなに大したことでないかもしれないし。」
「深刻でない人は、夜中に《もう無理!》ってメールはせんやろね。」

 

ナンシーはマンジーが適当に答えているのではないことに気がついた。神妙なナンシーにマンジーは言葉を続けた。

「ナンシー……あんたはきっとマリアの力になってあげられるわ。気ぃつけていっておいで。」

 

どうも、マンジーには考えがあるらしい。ここは素直に動いてみようとナンシーは腰を上げる。
「はい。行ってきます。」


マリアとの待ち合わせ場所に向かいながらナンシーは考えていた。やらなきゃ『仕方ない』って……たしかに看護研究の時と同じだ。新人指導も、もしかしたら根本的に考え方を変えることになるのかも……そんな予感がしていた。

つづく

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