かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-
2011.9.29 update.
2001年3月に広島大学大学院博士課程前期修了。同年8月からアメリカのIllinois State University大学院でChild Lifeを学ぶ。2004年にCertified Child Life Specialistとなり、2005年3月から広島大学病院で勤務。2007年からは週末の1日に県立広島病院でも勤務している。留学中からアメリカのテレビ番組にハマり、今も平日の夜や休日に自宅でアメリカのドラマやリアリティショーを見るのが楽しみ。今、もっともハマっているのは「Glee」。「注射」が怖く、痛みに弱いチャイルド・ライフ・スペシャリストです。
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今回は、県立広島病院でのわたしの活動についてお話ししたいと思います。
県立広島病院(以下、県病院)は地域の基幹病院で小児病棟は39床あり、そのうちの4床はHCUです。ここには、小児科の子どもたちだけでなく、小児外科、新生児科、歯科、など、診療科にかかわらず多くの子どもたちが入院してきます。
県病院では、急性期の疾患で2、3日~1週間の短期入院の子どもの割合が多いですが、慢性疾患などで2,3カ月~1年の長期にわたって入院する子どもや、入退院を頻繁に繰り返す子どももいます。ここの小児病棟には、0歳の赤ちゃんもいれば、20歳を過ぎたいわゆるキャリーオーバーの方が小児科や小児外科の患者として入院されることもあり、年齢層が幅広いという特徴があります。
県病院では週に1度、土曜日に勤務しています。退院や外泊する子どもが多く、何となく静かな感じの土曜日もあれば、お見舞いの方がたくさん来てにぎやかになる土曜日もあります。週によって雰囲気がガラリと変わる病棟での勤務に最初は戸惑いましたが、長期入院の子どもを中心に遊んだり、保護者の方のお話をうかがったりする中で、スタッフにとって必要と思われる情報やスタッフとして改善できる点について看護師さんと文章で共有していきました。すると、徐々に看護師さんの中にCLSの仕事のイメージができあがり、現在ではさまざまな依頼があります。
大学病院と違い、週1の勤務の県病院では、入院しているさまざまな子どもと家族のことをCLSが「知る」ことができません。そのため、普段から子どもと家族に接する機会の多い看護師さんに介入する子どもや家族を決めてもらいます。看護師さんは毎週金曜日に話し合い、CLSが介入した方が良いのではと思われる子どもと家族を決めて、ご家族にCLS介入の許可をもらってきてくれます。そして、専用の用紙に依頼内容を記入し、わたしに期待されている役割を明確にしてくれます。時には医師から直接依頼を受けることもあり、そのときもその日の担当看護師さんが子ども・家族とCLSの間に入って、関係性を築く手伝いをしてくれます。
さて、スタッフがCLSに介入してほしいと考える理由はさまざまですが、県病院においてもっとも代表的な理由は「プリパレイション」でしょうか。県病院には小児腎臓科があり、県外からも腎疾患の子どもたちが来ます。その際によく行われるのが、腎生検です。この腎生検が行われるのは、月曜日か金曜日と決まっています。
月曜日に予定されている子どもにかかわるのであれば、その子の発達段階にもよりますが、わたしは、すでに医師、看護師から受けているオリエンテーションの情報を子どもとその家族がどう理解し、どう感じているかについてお話をうかがい、必要であればそれぞれの個性に応じてコーピングスキルについて話をし、あまりなじみのないスキルであれば、練習をかねて本番を想定した簡単なリハーサルをベッド上で行うこともあります。
金曜日に腎生検が予定されている子どもに対しては、わたしが勤務する土曜日から計算すると約1週間後に腎生検が行われることとなるため、子ども本人とわたしのやり取りの割合は、月曜日組と比較するとうんと少なくなります。といいますのも、総合的に判断して、1週間も前にプリパレイションをおこなうことがその子にとって有益ではないと判断できる場合が多々あるからです。
たとえば、「明日」や「3日後」といった時間の概念がまだ確立していない幼い子どもや、1週間前に話し合った内容をきちんと覚えておくことが難しい年代の子ども、1週間前に得た情報によって検査までの1週間をずっと緊張状態で過ごしてしまうタイプの子どもにとって、1週間前に話し合うことにそれほどメリットはないと考えます。
そこで、金曜日組に対してわたしは主な付き添い者(母親である場合が多いです)と積極的に話をするように心がけています。「腎生検のオリエンテーション後の子どもの反応」などは母親に特に注意して観察しておいてほしいポイントのひとつです。オリエンテーション中は特に何の反応も示さなかった子どもが、「やっぱりイヤだ」「どうしてもしないといけないの?」といった拒否的な発言をしたり、検査の話をすることを避けたり、あるいはちょっとしたことでイライラするようになったり、逆に検査について同じ質問を何度も繰り返すというのはよく見られる反応です。これらは、病院ではよく見られることですが、日常生活ではあまり見られませんので戸惑われるご家族は少なくありません。そのためわたしは、「こういった一連の反応は子どもたちが必死に気持ちを整理しようとしている段階に見られることが多い」とお伝えし、「たとえ、子どもたちが検査拒否を示す発言をしたとしても、どうか子どもが表現した感情を否定しないところから始めてください」とお願いします。そして、家族の希望やニーズに応じて、子どもの精神的サポートとなる具体的な方法を伝えます。拒否を示す子どもに対しては「うん、イヤだよね」「(検査を)しなくて済むのなら、したくないよね」と気持ちを受け止めること、また検査の話を避けたりイライラしている子どもには「何か聞きたいことや言いたいことがあったらいつでも言ってね」と伝えること、同じ質問を繰り返す子どもには「しつこい!!」と腹立たしく思ったとしても落ち着いた声と口調でその子にわかるように返答すること、といったことお伝えします。
本来であれば、CLSも一緒にそういった声かけの役割を果たすべきなのですが、週1の勤務では「保護者に情報をお渡しして、お願いする」のが精一杯の支援です。
プリパレイション以外では、「○○について家族や本人がどう思っているのか聞いてきてほしい」という依頼が多くあります。○○には、その子どもの状態やそれぞれの家族によって異なりますが、病気、診断、治療、手術、ICの内容、入院生活、スタッフの対応、兄弟姉妹といった言葉が入ることが多いでしょうか。
わたし個人の統計によると、子どもの気持ちよりも、母親の気持ちを聞いてきてほしいといった依頼の方が多く、入院期間で言えば短期よりも長期入院のご家族に対する依頼が多いと感じます。あるスタッフが、長期入院であれば子どもとは検査や処置の間や日々のケアの中で自然と話をする機会があるし、付き添いがまだ必要な子どもであれば母親に子どもの様子を聞くことで、だいたいの様子を把握できると言っていました。それに対し、母親の思いをスタッフが時間を取って聞くという機会はなかなか持つことが難しく、まして自分たちの対応について母親に尋ねたとしても「本当のこと」は言ってもらえないだろうからとも言っていました。
すべては子どもとその家族が少しでも快適に過ごせるように、少しでもこちら(病院側)が改善できる点があればとの配慮からくる依頼ですが、時にはご家族が「普段接するスタッフには言いにくい」と思われる内容もあると思うので、わたしは母親とゆっくり雑談もしながら1時間くらいかけてさまざまなお話をうかがうようにしています。
このときにCLSとして注意しなければならないことは、患者さん(あるいはその家族)の気持ち(憤りや不満)を否定はしないけれど、決して一緒になって、スタッフを批判しないということです。患者さん側の気持ちを聞くのは、あくまで良い医療を提供するための手がかりを得るためで、人を非難するためではないからです。
スタッフと患者さん側の間に何かしらの溝がある場合、ちょっとした誤解などのミスコミュニケーションが原因であることが多いと感じます。言葉の使い方だけでなく、態度なども含めた表現ひとつで誤解が生まれることがあります。もし、両者の行き違いの原因が誤解にあるとするならば、誤解を解くことで解決する問題はたくさんあります。
CLSが子どもやご家族と話すことで解けそうな誤解であればその場で解きますし、もう一度両者がゆっくり話し合うことが必要な誤解ならば、スタッフに子どもやご家族が「こう理解されている」と伝え、誤解を解く形で改めて話をしてもらう場合もあります。とはいえ、話し合いなどは特に望まず、「とにかく話を聞いてもらってスッキリしたい」という方も中にはいらっしゃるので、そういう場合は一生懸命、お話をうかがいます。
主な依頼はプリパレイションと母親の気持ちの傾聴の2つですが、その他にも時間の許す範囲で子どもの遊び相手となることもあります。土曜日は外泊したり退院する子どもが多く、外泊も退院もしない子どもにとっては、遊び相手が減る冴えない1日となります。そのため、たとえわずかの時間でも一緒に遊んだり、遊び相手となってくれそうな子ども(別の入院患者ですが…)を見つけて、仲介をすることもあります。退屈な時間を少しでも減らすお手伝いも、CLSの大事な仕事のひとつだと考えます。
県病院では、介入する人数は毎回変動します。少ないときは2人という日もありましたがそれは稀で、基本的には6、7人、多いときで10人超の日もあります。きちんとお話をうかがおうと思うと、どうしても時間に余裕がいるので、5~7人くらいが理想でしょうか。県病院ではその日の活動を「CLS記録」に残します。この記録は看護師さんとの重要なコミュニケーション手段なので、文章による誤解が少しでも減るように一生懸命書きます。
ありがたいことに、わたしの記録を看護師さんは毎回きちんと読んでくれて、ケアに反映したり、話し合いをしたりして、その結果を必ずフィードバックしてくれます。そして、わたしは次の土曜日にその結果を受けて、再び子どもとご家族に会ってお話をうかがっています。そして、それを看護師さんに返してフィードバックをもらい…を繰り返します。このやりとりはその子どもが退院するまで継続しておこなわれています。
以上、ふたつの病院でのわたしの活動について、お話してまいりました。わたしの活動は、あくまでCLSの仕事の「一例」に過ぎませんが、イメージをつかんでいただけたら幸いです。
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