「遊び」が言葉の壁を乗り越える―メディカル・プレイで感じたこと

「遊び」が言葉の壁を乗り越える―メディカル・プレイで感じたこと

2011.7.28 update.

常石 悠子(つねいし ゆうこ) イメージ

常石 悠子(つねいし ゆうこ)

2004年5月米国カリフォルニア州にあるミルズ大学大学院教育学部Child Life in Hospitals and Community Health Centers学科修了後、同州、Easter Seals Child Development Centerにて勤務。2005年夏日本に帰国し、同年12月より、国立病院機構名古屋医療センターにてCLSとして3年間活動。「もう日本を離れることはないだろうな」と思っていたら、夫と共に再びアメリカへ転居することに。現在、Visiting Nurse Service of New Yorkにて大切な人を亡くした子どもとその家族をサポートするボランティアを経て、小児緩和ケアプログラムのCLSとして勤務。周りが呆れるほどの方向音痴。でも、そんなことも全く気にせず、自分の道を突き進むマイペースなB型です。

 

CLSになりたい方、留学等に関心がある方は以下のサイトをご参照下さい!

book 北米チャイルド・ライフ協会

book 日本チャイルド・ライフ学会

book チャイルド・ライフ・スペシャリスト協会

 

 

前回はこちら

 

さて、今回は別の病院で行ったインターンの経験をお話ししたいと思います。主に「メディカル・プレイ」と呼ばれる、CLSが援助する治癒的遊びを実践し、気づいたことについてです。メディカル・プレイとは、おもちゃや実際に使用する医療道具を用いて、子どもが医師役や看護師役となり、患者役である人形(ぬいぐるみ)に医療行為(処置や検査など)を主体的に行うことで、子どもの本来持っている力を引き出す遊びです。子どものありのままの思いや感情を受け止め、子どもの医療行為に対する理解度を観察すると共に、誤解があれば、遊びの中で修正します。

 

ある総合病院の小児科でインターンを行うことになりました。ここの小児科には、神経外科や整形外科の手術を必要とする子どもたち、消化器系・呼吸器系疾患を持つ子どもたち、小児がんの子どもたちが入院していました。私のスーパーバイザー(研修先の指導責任者)は、ユーモアあふれるリズというCLSでした。最初の1週間は環境に慣れるため、彼女と一緒に行動していましたが、2週目からはCLSとして自立できるようにと、一人で仕事を任されることが増えていきました。リズと密にコミュニケーションをとり、入院している子どもと家族への関わりを確認し、アドバイスをもらいながら、CLSの役割や介入について体で覚えていきました。

 

 

ある朝、いつものようにリズと二人でセンサス(子どもの名前、年齢、疾患名、入院日数などが書かれた用紙)を見て、一人一人の子どもの状態や状況などを把握していたとき、主任看護師のジムから、「是非、CLSに介入してほしいカルロスという男の子がいるんだ」と連絡がありました。ジムに詳しい話を聞いてみると、カルロスは激しい腹痛を訴え、他の病院から検査目的で転院してきたばかりの4歳の男の子で、病院という慣れない環境や、今まで受けてきた処置や検査などによる心理的負担が大きい様子でした。さらに、彼のご両親はカルロスの病状を大変心配されており、医療環境に戸惑っているようでした。彼らの使う言語はスペイン語だったため、医療に関することは病院の通訳サービスを利用し、説明しているとのことでした。

 

リズとどのようにカルロスと関わって行くかを話し合い、まずは彼とご両親に会いに行くことにしました。リズと私がクレヨンと粘土を持ってカルロスの病室に行くと、緊張した面持ちで、どこか落ち着きのない彼と、その横で疲れた表情を浮かべ、不安そうにされているご両親の姿がありました。リズも私もスペイン語を話せないため、クレヨンと粘土をカルロスに見せ、簡単な英単語と身振り手振りを交えながら自己紹介をし、遊びに誘ってみました。最初は私たちのことを警戒していたカルロスですが、私たちが遊ぶために来たのだとわかると、表情がほんの少し和らぎ、クレヨンで絵を描き始めました。横におられたご両親も、彼の遊ぶ姿を見て、少し安心されたようでした。私は、「スペイン語が話せたら、もっと彼らの気持ちに寄り添えるかもしれないのに」と思いながら、病室を後にしました。

 

翌日から遊びをとおし、カルロス及び彼のご両親と信頼関係を築いていきました。ご両親を交えて遊ぶこともあれば、私がいる間、息抜きのために二人で外出されることもありました。

 

 

ある日、リズが、「カルロスとメディカル・プレイをやってみたら」と提案してくれました。私はその遊びについて教科書で読み、授業でも習っていましたが、一人で実践するのは初めてでした。不安に思っていた私にリズは、「カルロスとあなたはしっかり関係が築けているし、彼の遊びに従って、彼の気持ちに耳を傾ければ大丈夫よ」と私の背中を押してくれました。

 

私が男の子の人形とメディカル・プレイのおもちゃを持ってカルロスを訪れると、彼が最初に手にしたのは、実際に彼が使用している点滴ルートでした。カルロスは「看護師さん」になりきり、「患者さん」である人形を指差し、「Sick(この子、病気なんだ)」と言うと、今度は点滴ルートを「患者さん」の腕にテープで固定し、そこから薬を入れ、「患者さん」の胸に聴診器をあて、「Going home(病気が治ったから、お家に帰れるよ)」と「患者さん」に伝えました。その遊びを真剣な表情で、黙々と繰り返した後、カルロスは、「Done!(終わり!)」と言い、その表情はどこかすっきりとして見えました。

 

カルロスの遊びを横で見ていた私は、子どもはおとなが思っている以上に、自分の周りで起こっていることをよく観察し、自分が何をされているのかをしっかりと理解しながら、状況に対応しようと一生懸命であることを改めて痛感しました。そして、この遊びの中に彼の病気や処置に対する考えや思い、医療スタッフに対する思い(病気を治すために頑張ってくれていることなど)がぎゅっと詰まっているように思いました。遊びを見守り、思いに寄り添い、子どもがとことん遊びきれる環境や関係を作ることも、CLSの大切な役割であることを学びました。

 

また、同じ言語を話さない私たちでしたが、「遊び」が共通言語となり、私たちを結び、カルロスやご両親の思いに触れることを可能にしてくれました。理論を実践に移すことで、CLSの役割がより具体的になり、また、教科書に載っていないことが現場の中にはたくさんあることを実感しました。

 

CLSとなった今でも、インターンでの出会いや経験、子ども達や家族、CLSや医療スタッフと過ごした時間は、私の心の支えとなっています。

 

 

さて、次回は、今までのCLSとしての経験が、現在の私の活動にどのように活かされているかをご紹介したいと思います。

→次回はこちら

 

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