病院でのインターンシップ

病院でのインターンシップ

2011.7.12 update.

常石 悠子(つねいし ゆうこ) イメージ

常石 悠子(つねいし ゆうこ)

2004年5月米国カリフォルニア州にあるミルズ大学大学院教育学部Child Life in Hospitals and Community Health Centers学科修了後、同州、Easter Seals Child Development Centerにて勤務。2005年夏日本に帰国し、同年12月より、国立病院機構名古屋医療センターにてCLSとして3年間活動。「もう日本を離れることはないだろうな」と思っていたら、夫と共に再びアメリカへ転居することに。現在、Visiting Nurse Service of New Yorkにて大切な人を亡くした子どもとその家族をサポートするボランティアを経て、小児緩和ケアプログラムのCLSとして勤務。周りが呆れるほどの方向音痴。でも、そんなことも全く気にせず、自分の道を突き進むマイペースなB型です。

 

CLSになりたい方、留学等に関心がある方は以下のサイトをご参照下さい!

book 北米チャイルド・ライフ協会

book 日本チャイルド・ライフ学会

book チャイルド・ライフ・スペシャリスト協会

 

 

前回はこちら

 

さて、前回ご紹介したように、私が在籍していた大学院は修士課程を修了するために病院でのインターンシップ(以下、インターン)が必須でした。今回はインターン先を見つけるまでのプロセスと、私が病院で行ったインターンの経験をご紹介したいと思います。

 

インターン先を探せ!

 

大学院の先輩達から、「インターン先を探すのは大変だよ」と聞いていたので、「見つからなかったらどうしよう」と不安でいっぱいでした。というのも、インターンについて教官や先輩の助言は得られるものの、インターン先の検索・選択・応募については個々の学生に任されていて、また、それぞれの病院毎にインターンとして受け入れる学生の人数が決まっているため、競争率が高いからです。

 

インターン先を探すため、私の指導教官がアメリカ内外の病院にあるチャイルド・ライフ・プログラム(以下、CLP)が掲載されているカタログを貸してくださいました。私はそれを見ながら、自分の住んでいる場所から通える病院を中心に調べていきました。また、自分の志望する病院ですでにインターンを行った先輩達の話も参考にして、志望する病院をリストアップしていきました。その後、応募に必要な提出書類をそれぞれの病院の担当の方に問い合わせたり、各病院のホームページを見て確認し、郵送しました。

 

数週間後、ある子ども病院で面接を受けることになり、ドキドキしながら病院に行くと、小柄で優しい雰囲気のCLSの方が迎えてくださいました。面接は緊張しすぎて何を聞かれたか細かくは覚えていませんが、「なぜCLSに興味を持ったのか」、「CLSになり、将来どうしたいのか」などを話したように思います。採用の連絡をいただいたときは、無事に決まった安堵感でいっぱいでした。

 

このようなプロセスを経験したことで、各病院のCLPの特徴や実際に職に就くときに必要となるスキル(履歴書の書き方や面接の応答など)を学ぶことができました。

 

インターン開始!

 

インターンのオリエンテーションのために病院へ行くと、私のインターンシップ・スーパーバイザー(研修先の指導責任者)になるCLSのジェシカ(仮名)が迎えてくれました。彼女からCLPの説明やインターンの役割や心構えなど、インターンシップを始めるにあたっての大切な説明を受け、また、彼女と一緒に担当する外科とリハビリ科、そして週1回担当するプレイルームの見学をさせてもらいました。最後に「あなたにとって充実したインターンになるよう、一緒にがんばりましょうね!」とあたたかい言葉をいただき、オリエンテーションを終えました。

 

待ちに待った子ども病院でのインターンが始まりました。私にとってすべてが初めての経験だったため、基本的にはジェシカと一緒に行動しました。彼女のもとで、CLSが子どもたちや家族、他の医療スタッフとどのように関わっているのか、子どもとその家族を支える医療チームの一員としてCLSがどのような役割を果たしているのか、などを現場での経験を通して学んでいきました。ここでは語り尽くせないほどの貴重な経験をさせてもらったのですが、その中でも特に印象に残っているエピソードをご紹介したいと思います。これは私が「CLSとは?」という問いに、それまで以上に自分に問いかける機会を与えてくれた経験のひとつです。

 

私の思いと、エマ

 

エマ(仮名)は脳に重い疾患を抱え、手術や治療などで入退院を繰り返している13歳の女の子でした。最初はジェシカと一緒にエマに会いに行っていましたが、エマと私の関係がある程度できてきた段階で、ジェシカが「一人で行ってみる?」と提案してくれたため、私一人で会いに行くようになりました。エマは「モノポリー」という人生ゲームに似ているボードゲームが大好きで、私が行くといつもそのゲームをして遊びました。

 

ある日、エマに会いに行くと、彼女が遠い目をして一点を見つめ、ベッドに横たわっていました。「エマ、会いに来たよ。今日の気分はどう?」と聞いても無言で首を横に振るだけでした。私が「気分が冴えないの?気分転換にモノポリーでもする?」と聞くと、「ううん、今日はいいよ」とエマ。「何か気になることでもあるの?」と質問すると、「特にないけど…」と答えが返ってきました。しばらく沈黙が続き、私は、「どうしよう、何をしたらいいんだろう?このまま黙ってここにいるのも居心地悪いしな。でも、何となく一緒にいてほしそうな気もするけど、一人でいたいのかもしれないし…」などなど、様々な思いや考えがグルグルと頭の中を巡って、どうしたらいいのかわからなくなってしまいました。結局、私は何もできないまま、病室を後にしました。

 

ジェシカのオフィスに戻り、エマの様子と私の感じたことを伝えると、「そうね、何かしてあげなくちゃいけないんじゃないかと思うことや、沈黙に居心地が悪いと感じてしまうこと、とてもよくわかるわ。でも、沈黙は決して悪いことではないと思うの。時には、何もしないで、黙ってただそばにいること、あなたの穏やかで静かな存在、それが患者さんの望んでいることかもしれないわ。『一人でいたい?』、『しばらく一緒にいられるけど、どう?』って、エマの希望を聞くことも大事だわ。それと、エマに会う前に、担当の看護師さんにエマの様子を聞いてみるのもいいかもしれないわね。エマと会った後も、あなたが気になることがあれば、そのことを看護師さんに伝えておくことも大切ね」とアドバイスしてくれました。私は「何かしてあげたい」という自分勝手な気持ちでエマと接していたこと、自分が沈黙に居心地が悪いからとエマの希望も聞かずに部屋を退室してしまったこと、チームでエマをサポートしているということに考えが至らなかったことなど、反省することばかりでした。

 

この経験から、「何かをしてあげたい」という思いは私の思いであって、子どもと家族の思いではないこと。私の思いや気持ちを子どもや家族に押しつけたりしてはいけないこと。子どもと家族に寄り添い、彼らが「何を必要としているのか」を理解すること。つまり、一見「何もしていない」ように見える関わりの中にもCLSの役割があるんだ、ということに気がつきました。エマとの関わりは、それから私がCLSとして経験を積んで行く上で重要な核となりました。

 

次回も引き続き、病院でのインターンを通して学んだことを紹介したいと思います。

 

→次回はこちらから

 

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