11-1 死にゆく人と対話する︱家で看取るということ〈その4〉

11-1 死にゆく人と対話する︱家で看取るということ〈その4〉

2014.1.15 update.

なんと! 雑誌での連載をウェブでも読める!

『訪問看護と介護』2013年2月号から、作家の田口ランディさんの連載「地域のなかの看取り図」が始まりました。父母・義父母の死に、それぞれ「病院」「ホスピス」「在宅」で立ち合い看取ってきた田口さんは今、「老い」について、「死」について、そして「看取り」について何を感じているのか? 本誌掲載に1か月遅れて、かんかん!にも特別分載します。毎月第1-3水曜日にUP予定。いちはやく全部読みたい方はゼヒに本誌で!

→田口ランディさんについてはコチラ
→イラストレーターは安藤みちこさんブログも

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【対談】「病院の世紀」から「地域包括ケア」の時代へ(猪飼周平さん×太田秀樹さん)を無料で特別公開中!

前回まで

 

 義父を、家で、看取ることになるかもしれない。漠然と覚悟はしていたものの、それはまだだいぶ先のこと、そう思っていました。
 だって、おじいちゃんの身体は病いに冒されているわけではないし、いま目の前にこうして生きているのだから、そんなに簡単に死ぬわけがない……と。
 老衰で亡くなっていく人を、私は看取ったことがありませんでした。だから、老いて死ぬ……ということが実感としてわかっていなかったのです。

 

「老衰で死ぬ」ということ

 病院から帰宅した義父は、分刻みで……という言い方をしたいほどの勢いで、変化していきました。どう言ったらいいんでしょうか。完全に「彼岸に行く」と決めてしまっているような、そんな印象を受けました。
 食べることをやめてしまいました。立ち上がってトイレに行くこともやめてしまいました。大腿骨頸部骨折で入院していたので、ずっとパンツ型のオムツを使ってはいたのですが、家に帰宅した日は介助を受けながら自力でトイレに行きました。
 ところが翌日の朝は、食事もとらずトイレにも行こうとしませんでした。なぜ一夜でこんなに変化してしまったのか。家族は唖然として……というより怖くなって病院に連絡したのですが、病院の対応は「様子を見て、どうしても食べないのなら来院してください」というものでした。
「だから結局、老衰ということに関して、病院は無力なのよ」と、私は夫に言いました。
「そうだな……」と、夫も苦笑いしていました。
 ケアマネジャーさんに連絡して「在宅看護」の準備を始めました。
 午後にはケアマネさんがやって来て現状をご覧になり、「すぐに看護師さんと先生を探しましょう」と一気に事態が動き出しました。
「必要なのは、簡易トイレ、そして電動ベッドですね」
 そこからが大変でした。
 2011年当時、在宅医は、この町に1人しかおらず手いっぱいの状況でした。
「訪問看護師が見つかれば、お受けできるのですが……」
 訪問看護ステーションも1つしかありませんでした。
「在宅医の先生が受けてくだされば……」
 ケアマネさんが奮闘してくださって、なんとか在宅看護体制ができたのが3日後のこと。
 電動ベッドの業者の方が来て、ベッドの手配ができたのは6日後のこと。1日中いろんな人が出たり入ったりしていて、仕事どころではありません。クリスマスが終わり、これから大晦日に向かっていく慌ただしい時期でした。
 在宅医の先生がいらしたときに、看取りをどうするかを話し合いました。そのときは「家で看取ろうと思う」とお伝えしました。
 延命はどうするか?と聞かれました。
「延命はなるべくしない方向で考えているのですが、まだ他の親族と相談していないので、それから……」と答えました。
 私が家で看取ろうと決意できたのは、当事者であるおじいちゃんの意思を確認できたからです。
 せん妄が出始めたおじいちゃんは、朦朧として宙を見つめているような状態でした。見えないものを見て、聞こえない声を聞いていました。こういう“魂が身体から離れてしまった”ような人を、ふだんの生活ではあまり見ることがありませんから、最初はとまどいと恐怖を感じるのは仕方ないことだと思います。見舞ってくださった方も途方に暮れた顔をして、早々に帰ってしまわれました。
 多くの方は、まるで気が変になってしまったように見える老人を前にして、怖いし、どう対応していいかわからないので、コミュニケーションができない、と決めてかかってしまいます。
 たしかに、おじいちゃんの心はどこか別のところにあるような感じでした。でも、肉体はここに生きています。だから、まったく通じないということはありえない。私はそう思っていました。それは、父と母を看取った経験からでした。たとえ混乱していても、その人の本質は変わらない。だから、コミュニケーションはできる。
 おじいちゃんの耳元で、いろんなことを話しかけました。
「何か食べたいものはない?」
「おねえさんたちに会いたくない?」
 返事はあやふやで、夢を見ている人に話しかけているみたいでした。でも、時折、ふっと戻って来ます。あ、いま、ここにいる……そう感じる瞬間は必ずあるのです。だから、話しかけ続けるしかない。戻って来ているときのサインを見逃さないようにする……それがとても大切なのです。

 

つづく

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訪問看護と介護

いよいよ高まる在宅医療・地域ケアのニーズに応える、訪問看護・介護の質・量ともの向上を目指す月刊誌です。「特集」は現場のニーズが高いテーマを、日々の実践に役立つモノから経営的な視点まで。「巻頭インタビュー」「特別記事」では、広い視野・新たな視点を提供。「研究・調査/実践・事例報告」の他、現場発の声を多く掲載。職種の壁を越えた執筆陣で、“他職種連携”を育みます。楽しく役立つ「連載」も充実。
12月号の特集は「訪問看護の"プラットホーム"戦略?」。2009年度からの4年間で10億円が計上され、30道府県市が取り組んだ「訪問看護支援事業」。その結果は、新規利用者が増えた! 訪問件数が増えた! サービスの質が上がった! 何より訪問看護どうしのつながる力が強まった! これを礎とした次なる展開も続々! これらのディテールから、訪問看護のプラットホーム(基盤)をますます強固にし、そして拡げていく戦略を探ります。

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