ニジノカナタニ 第10話

ニジノカナタニ 第10話

2013.4.02 update.

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前回までのあらすじ

神のつかいマンジーの指南によって、一歩ずつ成長するカエルの看護師ナンシー。看護研究や論文チェックの知恵を伝授され、さらには新人指導に悩む親友のマリアの問題も無事に解決。「ニジノカナタニ」第10話は、その後日談です。

問題が問題

 

新人指導で悩んでいたマリアであったが、その新人君の隠れた能力、つまり、クレーマーのツノガエルへの絶妙な対応で状況が一変。できないことを責めるのではなく、できるところを伸ばす・生かすという、発想の転換によって、不思議なくらいに良い流れになって,結果丸く収まった。

 

それにしても、マリアの一件、どうもマンジーが裏で何かをやっているようなのだけれど……。何となく聞き出しにくく、それっきりこの件には触れないままになっていた。

 

マンジーの「ツノガエルの役は、肩が凝ったわ」というセリフが改めて気になり、夕飯をつくりながら、ちらちらとマンジーの様子を伺うナンシーであった。

 

「ナンシーちゃん。今日のご飯はなあに?」

「いつものリクエストに応えてシチューですよ。今日はエビとブロッコリーのクリームシチューです。」

 

「ええねぇ。エビは大好物やねん。うれしいわぁ。」

 

マンジーの目が輝いたあと

「せやけど、エビと言えば、思い出すわぁ」とぼんやりつぶやいた。

 

「お友達でもいたんですか?」

「お友達っちゅーか、神様の世界もいろいろあんねんて。

私は知恵の神様としては、一流やけど、それ以外にも担当があんねん。まあ、あんたらで言うたら、病棟での仕事とは別にやってる委員会みたいなもんやな。」

 

どうやら複雑そうな話である。

 

「へぇ-、神様の世界も大変なんですね」

 

「そうや、体力勝負の世界やねん。で、私は『知恵』の神様でもあるけど、『水』の担当でもあんねん。他にも『木』や『火』、『土』、『金』の担当と5つに分かれてるわ。まあ、二つの専門性を持つちゅうことや。どちらも大事な仕事やねん。」

 

「なるほど。」ナンシーはとりあえず、うなずいてみた。

 

「エビの思い出には,その水のお仕事が関係しているんですか?」

「そうや。他の4つの担当と違って、水の担当者になったら内部の対立に巻き込まれんのがお決まりやねん。淡水派と海水派でいつも揉めよるんや。」

「神様もけんかするってこと?」

 

ナンシーの素朴な疑問に、マンジーは頷きながら続ける。

 

「そやから、海水にも淡水にも両方に仲間がいるエビの連中はいつも大変やねん。板挟みで微妙な立場なんや。知り合いのテナガエビなんか、困ったときはすぐ脱皮しよったんで仕事にならんかったわ。あんたとこの病院の事務長、あれもテナガエビやったな。結構、大変そうやろ?」

「そうなんです。事務長はいつも板挟みにあってて大変みたい。みんなが好き勝手に専門性を主張しすぎると、仕事にも弊害があるってわけですね。」

 

ナンシーが答えると、マンジーが「あんた今日は鋭いやないか!」と目を見張った。

 

「それこそ、この前のマリアの一件みたいに、視点を変えなくちゃ……ですよね。」

 

ナンシーのさらなる一言に、マンジーは微笑みながらつぶやいた。

 

「もう大丈夫やな。」

 

それは、ナンシーには聞こえない小さな声だった。

  

 

クリームシチューも出来上がり、食事の時間。マンジーは元気よく「いただきます」と、クリームシチューを一気に平らげる。ナンシーも満足げなマンジーの笑顔に癒されるのであった。そして、マンジーは、あらためて話を続ける。

 

「まあ、今回のマリアの一件は、私のアカデミー主演女優賞なみの演技のたまものや」

 

マンジーの自慢話も、ナンシーは身を乗り出して聞き入る。一番、聞きたかったところであった。

 

「やっぱりマンジーの演技だったのね?」

「そや、らちがあかんかったし、時間も無かったんで、ちょっと出しゃばったわ。アズマヒキガエルの新人っちゅうやつは、悪いやつではなかったわ。基本まじめなやつやったから、回りの視点を変えるきっかけを作ったんよ。」

 

頷くナンシーに、マンジーも話を続ける。

 

「ああいう個性の強い相手に対しては、何とか悪いところを修正しようするやろ?」

「ええ、やっぱり業務に支障があれば『問題』を解決するのは上司の役目ですから。」

「その『問題』が問題やねん。」

 

「へっ?」

ナンシーは首をかしげる。

 

「あんなぁ、問題やと思っていても、ほんまにそれが問題かどうかっちゅうことや。問題を解決するっちゅうことは、問題を正しく理解してこそやねん。」

「なるほど。」

 

ナンシーはマリアの一件での「視点を変える」という意味が始めて理解できた。

 

「往々にして、人は安易に問題を決めつけてしまうもんや。けど、そんなんで解決しようとしても、結局うまくいかずに堂々巡りになるんよ。そんなときは、問題を疑うべきやな。」

「それがなかなかできないんですよねぇ。」

「そや、なかなかできないからこそ、意識してやらんとあかんのや。ひょっとして、違う視点で見たら、これは問題の本質が違うんちゃうか……ってな。」

 

マンジーはヒレをいっぱいに広げて言う。「まあ、問題解決の全体をこれぐらいとしたら……」

そして、ヒレを6割ぐらいまでしぼめて「問題の発見にこれぐらい費やすことやな。」と説明する。

 

「半分以上が問題の発見なんですね」

 

ナンシーも、マリアの一件を思い起こしながら頷く。

 

「そや、問題をしっかりと『定義』できるかどうかが大事なんや。そこが違ってたら、その後の解決方法もずれてくるやろ?」

 

ナンシーは日頃の自分を思い出して恥ずかしかった。

「そうなんです、解決方法を探るのがメインになってますね。」

 

マンジーは首を左右に振りながら「チッチッチッ」と得意げに話を続ける。

「正しく問題を把握してこそ、ふさわしい解決方法も見つかるんや。むしろ、問題が明確であれば、解決方法は自然に決まってくるんよ。選択肢はそれほど多くないしベストの方法を選ぶのもたいした作業ではないわ。」

 

ナンシーは大きく頷いて言う。「でも、みんなが思い込んじゃうんですよね。」

 

「そこやねん。」マンジーは大きく叫んだ。

 

「みんなが同じ方向に進んでしまってると、なかなか他の視点で見れなくなるし、たとえ見えてても言い出しにくい雰囲気ができてしまうやろ。だからこそ、ものを言いやすい雰囲気を作っておかんと、いざという問題が起きたときに困るんや。」

「つまり、危機管理上も重要なのですね。」

「そや、すべての道はローマに通じてるんや。」

 

そんな会話をしながら、夜は更けていった。

 

つづく

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