【岡田慎一郎】働く身体のつくりかた 第1回

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「古武術介護」でおなじみの介護福祉士、理学療法士の岡田慎一郎先生が、医療、介護従事者のために「働く身体のつくりかた」を講義!  「身体の使い方」を見直すことで、身体介助などの技術を改善することはもちろん、日常生活への応用など、心身の状態をいまより少しでもよい状態に向けていただくことをめざします。

第1回 身体の使い方を見直そう


患者さんの身体をみる前に

 

解剖学や病態生理学をはじめ、医療職の皆さんは身体についての専門的知識をもって現場で働いています。しかし、患者さんの身体をみることは得意でも、自分の身体には十分な注意を向けているでしょうか。


筆者は2006年ごろより、医療介護職を対象とした介助法や、身体の使い方をテーマとした講義・執筆を行っていますが、身体についての知識を十分にもっているはずの医療職の皆さんの動きが硬く、力まかせになっている状態が多いことに驚かされます。その結果、腰痛をはじめとした身体的不調に悩まされている方も少なくないようです。


本連載では「身体の使い方」を見直すことで、身体介助などの技術を改善することはもちろん、医療職の皆さんの日常生活にも応用していただき、心身の状態をいまより少しでもよい状態に向けていただくことをめざします。

 

手の甲から握る

 

初回は、ちょっとした身体の使い方の工夫で、力の出方が大きく変わることを体験してみましょう。筋力トレーニングなどとは違い、行ったその場で変化が実感できると思います(動画)。


2人組になって、向き合います。まず,手のひらを上に向けた状態で指を組み合わせます。そこに,相手が上から力を加えて押さえ込みます。この体勢では、かなりがんばって我慢しようとしても、そのまま相手に押さえ込まれてしまうと思います(fig1,2)。

  

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Fig1 受け手は、手のひらを上にして両手を組み合わせる

 

 

 

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Fig2 攻め手が上から体重をかけると、もちこたえるので精一杯


次に、手の組み方をfig3のように、「手の甲を握る」形に変えてみましょう。この状態で同じように相手に押さえ込んでもらうと、先ほどとは違って、簡単には押さえこまれなくなったのではないでしょうか。相手を跳ね返すことができた人もいるかもしれません。

 

okada01-3.jpg

Fig3 受け手(右側)が手の甲を握る形にすると、

攻め手が体重をかけてもそう簡単に崩れない。


 

手の組み方を変えただけで、ほとんど腕力を使っている実感がないのに、相手の力を受け止めることができるようになりました。どうしてこのような小さな変化で、大きな違いが生じたのでしょうか。


それは、手のひらから組んだ時には腕力のみを使っていたのに対し、手の甲から組んだ時には全身の力が引き出されたからなのです。

 

全身の力を引き出す形

 

手のひらから組んだ時には,上から押さえ込まれるとどうしても腕力に頼ってしまいがちです。なぜなら、手のひらから組んだ形は、腕の力を使いやすい状態にあるからです。一方、手の甲から組むと、逆に腕の力は使いにくくなります(fig4)。この状態で上から押さえこまれると、腕の力が使いにくいため、自然と腕だけではなく、全身が協調して対応できるようになります。

okada01-4.jpg

Fig4 (a)手の甲から握った形は腕の力が使いにくいため、

(b)かえって全身の力を引き出しやすくなる。

イラスト:三上修(看護学雑誌72巻3号、2008年より)

 

がんばり屋さんの人ばかりに仕事を押し付けていると、いくら能力の高い人でも過労で倒れてしまいます。1人に仕事を押し付けず、暇そうにしている人にも少しずつ働いてもらえば、全体として大きな成果をなしとげることもできるでしょう。身体も同じで、腕だけに負担をかけず,身体全部が参加するような工夫を行うことで、パフォーマンスをあげつつ、負荷を分散し、故障を防ぐことが可能になります。


身体の使い方を工夫することで、効率よく力を出し、なおかつ怪我や故障を防ぐ「一石二鳥」の効果を期待することができるのです。


このように書くと当たり前のことのようですが、実際にはほとんどの方が、こうした「身体の使い方の工夫」を行っていません。この連載では、皆さんの身体に眠っている力を引き出し、いまよりも効率よく身体を使っていただく工夫を紹介していきたいと思います。

 

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このページは、igs-kankanが2010年10月13日 15:57に書いたブログ記事です。

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