第26回  私の勇気が患者を守る(解説)

第26回  私の勇気が患者を守る(解説)

2018.8.20 update.

IVR看護研究会

 2000年に発足し、安全安楽かつ効果的に患者がIVRを受けられるようにIVR看護のあり方を検討する場です。放射線科における看護の臨床実践能力を高めるため専門知識や技術の習得、研鑽をめざし、チーム医療における看護師の役割を追究し、また、IVR看護師の専門性を確立するため、継続して学習する場、人的交流の場を提供することを目的としています。

 発足間もなくから開催している研究会(セミナー)は、今年3月で第18回を迎えました。第19回は、2019年3月16日開催予定です。

公式webサイト:http://www.ivr-nurse.jp/
Face book @ivrnurse2016


 

 IVR室の治療に向かう患者さんは、「これから何が始まるのかわからない」という不安を抱えています。患者さんは「まな板の上の鯉ですから」と、よくおっしゃいます。つまり、「相手のなすがままで、逃げ場のない環境」1)であると感じているのです。今回の事例のAさんも「なんだかよくわからないけど、先生から治療しようと言われたから」と言っていました。本連載第3回であげた「IVR室におけるヘンダーソンの基本的欲求2)14項目」で考えてみると、このAさんは「4.体位保持」「5.休息・睡眠」「9.危険回避のニード」が阻害されていました。

 このため看護師は「途中でセデーションを実施するなら、はじめからしっかりかけてほしいな」と考えましたが、医師に言うことができませんでした。では、なぜ医師に言えなかったのでしょうか?

 野口ら3)は、「実際のIVRの現場では、いまだに『医師の意見が絶対である』『看護師の地位が低い』という職種間の『階層意識』が存在する」としています。

 飛行機のコックピットの中での機長と副操縦士の関係がよい例で、航空業界で「権威勾配」が用いられてきました。ICAO(国際民間航空機関)は事故防止マニュアルの中で「機長、副操縦士、フライトエンジニアの権威勾配が急すぎると、副操縦士やフライトエンジニアは積極的に話しかけなくなり、キャプテンの行動をモニターする彼等の役割がおろそかになる」と記載しています4)。森田ら5)は「この『操縦室内権威勾配』は機長を医師、副操縦士を看護師、フライトエンジニアを放射線技師に置き換えると、まさにIVR室に通じる」としています。医師の「動かれると治療できないんだ。動かないように足元でしっかり押さえて」「動くと危ないから動かないで!」といった言動から、L看護師のIVR室では急すぎる権威勾配が存在しており、L看護師は言うべきことが医師に言えなかったのだと考えられます。そこで、医師に傾き過ぎた権威勾配を適正にするにはどうすればよかったのか考えてみたいと思います。

 

勇気を出して声に出そう

 

 小林は6)「チーム力を発揮するノンテクニカルスキルの1つが効果的なチーム形成・維持であり、チームのメンバーはそれぞれの専門に応じた重要な役割を担っています。チームのメンバーには、役割や専門に応じてリーダーシップを発揮し、必要なことは声に出して言うことが求められます」と述べています。

 医療安全におけるチームメンバー間のノンテクニカルスキルの1つに、「SBAR(エスバー)」という情報伝達手法があります。L看護師は看護の専門家として、次のように声を出す必要があったのではないでしょうか。

 

S:Situation(状況)「よくわからないままIVR治療を受けに来た患者さんです」

B:Background(背景)「高齢で腰椎圧迫骨折歴があり多少の認知症があります」

A:Assessment(評価)「長時間の治療で安静が保てなくなる可能性が高いです」

R:Recommendation(提案)「患者の安全・安楽のために途中でセデーションを実施するのではなく、はじめからしっかりセデーションをかけませんか」

 

 なかなか勇気のいることですが、普段からブリーフィングやタイムアウトといった事前(術前)確認が実施されているのであれば、その場では比較的提案しやすいのではないかと思います。平は7)「ブリーフィング、タイムアウトはPCIに携わる医療スタッフがそれぞれの立場から情報を提供し共有すること、患者さんが安全に、かつ安心・安楽に予定の治療を行えるようにするためのものです。また、これらを実施することで医療チーム内のコミュニケーションを円滑にし、報告・相談を躊躇なく行えるという効果もあります」としています。ブリーフィング、タイムアウトは医師、看護師、放射線技師が互いの情報を共有し協力を依頼できる絶好の場だと思います。まだブリーフィングやタイムアウトを実施できていないというのであればぜひ実施してみてください。

 

 

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日頃からのコミュニケーション

 

 本連載第5回の解説でも触れていますが、「日頃からの医師とのコミュニケーションを活性化しておく」ことも必要です。小林6)は「航空業界で発生している事故やインシデントのほとんどに,コミュニケーションの不具合が関与していると言われています.(中略)社内あるいは操縦席では,いくら恥をかいてもかまわない。チームとしてうまく機能することができれば、結果として全体がうまくいきます」と述べています。  

 L看護師も「こんなこと言っていいのかな? 医師に否定されたら嫌だな」と考え言えなかったのかもしれません。 急すぎる医師の権威勾配に躊躇したときは、「患者さんのために、今この瞬間に自分がすべきことは何か?」といったIVR看護師の役割認識を持つことが、自分の「よりどころ」になる8)と思います。

 最後にインドの指導者マハトマ・ガンジーの言葉8)をご紹介します。

 

 

 "Be the change you want to see in the world" (何かを変えたいのであれば、まず自分が変わりなさい)

 

 

 「まず自分が変わる」ということから始めてみませんか。

 

(IVR看護研究会 増島ゆかり)

 
 

[引用・参考文献]

1)広辞苑第5版.新村出編,岩波書店, 1998.

2)ヴァージニア・ヘンダーソン:看護の基本となるもの.湯槇ます,ほか訳:日本看護協会出版会,2013.

3)野口純子,浅井望美,今井祐子,ほか:看護職からみたIVRにおける患者を中心としたチーム医療のとらえ方と現状.IVR会誌25,326-332,2010.

4)斎藤貞雄,村上耕一:機長のマネジメント―コックピットの安全哲学「クルー・リソース・マネジメント」.産能大学出版部,1997.

5)森田荘二郎,野口純子:三位一体の中で看護師はどのようにあるべきか IVR看護におけるコクピット・リソース・マネジメント(Cockpit Resource Management:CRM)の応用.日本インターベンショナルラジオロジー学会雑誌,26(1):9-14,2011.

6)小林宏之:チーム医療に求められるノンテクニカルスキル.日本職業・災害医学会誌,61(5):314-318,2013.

7)平幸恵:心カテナースのためのPCI基礎これだけセミナー.HEART nursing,29(5):460-464,2016.

8)話し合いにおける「権威勾配」の影響を弱めるための3つのポイント

https://accreteworks.com/publicseminar-latestinformation/rankpower [2018.07.07アクセス]

 

 

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IVR看護ナビゲーション

IVRに携わる看護師向けの実践的な書物がほとんどない中で、各施設では独自のマニュアルを作って看護にあたっている。その現状を打破するために編集された本書は、医師のIVR手技、看護師のケアが系統立てて解説されている。2007年には「日本IVR学会認定IVR看護師制度」も発足し、ますますIVR看護が期待される中、時宜にかなった実践書。

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