第28回  患者を中心としたIVR―患者の価値観を受け止めるスキル(解説)

第28回  患者を中心としたIVR―患者の価値観を受け止めるスキル(解説)

2018.9.19 update.

IVR看護研究会

 2000年に発足し、安全安楽かつ効果的に患者がIVRを受けられるようにIVR看護のあり方を検討する場です。放射線科における看護の臨床実践能力を高めるため専門知識や技術の習得、研鑽をめざし、チーム医療における看護師の役割を追究し、また、IVR看護師の専門性を確立するため、継続して学習する場、人的交流の場を提供することを目的としています。

 発足間もなくから開催している研究会(セミナー)は、今年3月で第18回を迎えました。第19回は、2019年3月16日開催予定です。

公式webサイト:http://www.ivr-nurse.jp/
Face book @ivrnurse2016

 

 今回のケースは、Aさんも伯母さんも自分の信仰する宗教の教えを守りたいという意思があり、治療を拒否していました。

 日本看護協会の看護者の倫理綱領1)条文2には「看護者は、個人の習慣、態度、文化的背景、 思想についてもこれを尊重し、受けとめる姿勢をもって対応する」という一文があります。M看護師は徐々に低下する血圧にどうすることもできず、血液ガスの値を測ることしかできませんでした。「治療を拒否しているなんて。命より大切な教えって何?」とAさんの価値観を理解できず、ただ手をこまねいているだけでした。Aさんは、「痛い、痛い」と言っていましたが、低下する血圧とHbの値ばかりに気をとられていました。

 アメリカのTouch Research Institute(接触研究機関)2)は、触れることが痛みを軽減させると言っていますし、土蔵3)は「タッチングは看護師側のさまざまなメッセージを伝達する手段でありさまざまな意味を含んだ精神的援助になりうる」と言っています。M看護師は「痛い、痛い」と訴えるAさんの手を握って励まし、心からAさんの回復を願っているという思いを伝えるべきでした。そうすることで、血管撮影室での短時間の介入の中でも患者とのラポールを形成し、自分の価値観とは異なる患者の価値観を理解する努力をする必要があったと思います。

 

十分な情報提供のうえの自己決定

 

 ヘンダーソンは看護の基本となるもの4)「どのような状況にあっても、患者の霊的な欲求を尊重し、患者がそれを満たすのを助けるのは基本的看護ケアの一部である」と言っています。宗教に基づいて治療を拒否している患者の意思決定を支える看護は並大抵のことではありません。M看護師も自分の持っている価値観とはまったく異なる価値観を理解することができず、「命より大事なものはないはずなのに……」ともやもやしたのです。

 星5)は「今日の多様な価値観の中では医療者としても患者の価値観・人生観を受け止めた対応が必要となる。医療者としてこのような問題に直面した場合、その対応としては、インフォームドコンセントを十分に行い、そのうえで患者の自己決定を尊重することが、まず基本である」と言っています。M看護師はAさんの意思を先入観なく傾聴し、Aさんの意思と価値観をしっかり理解する必要がありました。また、医師のインフォームドコンセントがAさんとその伯母さんにどのように行われたのか、治療を拒否した場合はどのような結果になるのかをきちんと理解したうえでの拒否だったのかも確認する必要があったと思います。

 また野口ら6)IVR看護師の果たす役割として、「患者が自分の思いを医療者に伝えられる環境作り、その患者の思いをできるだけ取り入れられるように支援していくといった『患者を中心としたIVR』を推進していくことが重要な役割である」と言っています。今回のように、緊急にIVRを実施しなければならないが自分の信仰する宗教の教えのために治療を拒否するという患者が、自身の持つ価値観や信念を医療者に伝え、「患者を中心としたIVR」が推進されるために、M看護師には「短い時間で患者とのラポールを形成するスキル」「患者さんのアドボケイトとなるスキル」が求められるのだと思います

 

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生き方の1つの選択肢を支える

 

 生命にかかわる問題、信仰する宗教に基づく治療拒否など、多様な価値観が錯綜する中で1つの答えを見つけ出すことは難しいと思います。しかし、患者の「生き方」の1つの選択である今回のケースを通して、「患者の意思決定を支える看護」を考える機会になればと思います。

 自分とは異なる価値観の対立でもやもやした時、本連載第20回と第24回でご紹介した宮坂のナラティブ検討シート7)を用いて整理したり、ジャンセンの4分割倫理検討シート8)を使用したりして倫理検討をすることで、「患者の意思決定を支える看護」をスタッフ全員で検討する機会になるのではないでしょうか。  

 最後に、患者が宗教的理由により輸血や治療を拒否した場合、最終的にどうするのか判断するために各々の病院で独自のガイドラインが作られているようです。自分の所属する医療機関ではガイドラインが作成されているのか、知っておくことも必要だと思います。  

(IVR看護研究会 増島ゆかり)

 
 

[引用文献]

1) 日本看護協会ホームページ.

https://www.nurse.or.jp/nursing/practice/rinri/rinri.html [2018.08.19アクセス] 

2) 接触研究機関

https://www6.miami.edu/touch-research/Index.html [2018.08.24アクセス]

3) 土蔵愛子:コミュニケーションとしてのタッチ.ナース専科,133):221993

4) ヴァージニア・ヘンダーソン:看護の基本となるもの.湯槇ます,小玉香津子訳:日本看護協会出版会発行,1961

5) 星和美:信仰に基づく輸血拒否問題を通して患者の自己決定権を考える.大阪府立看護大学医療技術短期大学部紀要,Vol.31997

6) 野口純子,浅井希望,今井祐子,ほか:看護職からみたIVRにおける患者を中心としたチーム医療の捉え方と現状. 日本インターベンショナルラジオロジー学会雑誌,253):326-3322010

7) 宮坂道夫:医療倫理学の方法 原則・ナラティブ・手順 第3版.医学書院,p672016

8) Jonsen AR,ほか:赤林朗,ほか監訳:臨床倫理4分割法,臨床倫理学 第5版.新興医学出版社,2006

 

 

 

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IVRに携わる看護師向けの実践的な書物がほとんどない中で、各施設では独自のマニュアルを作って看護にあたっている。その現状を打破するために編集された本書は、医師のIVR手技、看護師のケアが系統立てて解説されている。2007年には「日本IVR学会認定IVR看護師制度」も発足し、ますますIVR看護が期待される中、時宜にかなった実践書。

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