かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-
2018.7.20 update.
2000年に発足し、安全安楽かつ効果的に患者がIVRを受けられるようにIVR看護のあり方を検討する場です。放射線科における看護の臨床実践能力を高めるため専門知識や技術の習得、研鑽をめざし、チーム医療における看護師の役割を追究し、また、IVR看護師の専門性を確立するため、継続して学習する場、人的交流の場を提供することを目的としています。
発足間もなくから開催している研究会(セミナー)は、3月16日に第19回を迎えました。記念すべき第20回は、2020年3月7日に開催予定です!
公式webサイト:http://www.ivr-nurse.jp/
Face book @ivrnurse2016
K看護師のもやもや
患者であるAさんが、肝細胞がんに対する3回目の治療でIVR室に入室してきました。これまでは入室と同時に周囲の看護師に気さくに話しかけてこられたAさんでしたが、先日、肺転移の疑いがわかったためか、その日は表情が冴えず、様子が違っていました。
担当のK看護師が「今回もKが担当です。よろしくお願いします。ワンちゃんお元気ですか?」と挨拶をした途端、「やっぱりダメ。今日は止めたいの」と話されました。「うちの犬、もうダメなの。ずっと一緒にいたのに、今日私が手術したら、退院する頃は……もう、会えない……。前回も、次の日からしばらく熱が続いて予定より退院が延びちゃったから。皆さんにはご迷惑をかけるけど、やっぱり帰りたい。ごめんなさい。ごめんなさい」と、はらはらと流涙されました。
K看護師は、前回の治療が終了して病棟から看護師の迎えを待つ間に、Aさんからかわいがっている老犬の話を聞いたことを思い出しました。(そりゃあ、ワンちゃんを看取ってから落ち着いて治療に臨んだほうが悔いがないよね。ただ、肺転移のこともあるし、病態的にはどうなんだろう?)と思いながら、「Aさんのお気持ち、医師に伝えてきますね」と、術者である放射線科医へ状況を伝えに行きました。
Aさんと話した放射線科医もAさんの意思が固いことを感じ取り、主治医へ連絡をとりました。驚いてやって来た主治医はAさんの話を聞き、困惑しています。
K看護師は、放射線科医と主治医に、Aさんにとって、これまでの人生を共に歩んできた飼い犬の存在はとても大切なものであり、病態的に可能であれば、今回は延期にしてはどうか、との意見を伝えました。「うーん……肺転移の精査もしたいしなぁ」と迷っている主治医の気持ちもわかるだけに、K看護師はもやもやしていました。
* * *
一連の様子を見ていた先輩看護師が話に入ってきました。「“がんイコール死”って考える患者さんは多いでしょう? 肺転移が確定したら、ますます死の恐怖が現実的になると思うの。そんな時に、向こうの世界には大事なワンちゃんがいるって思えたら、少しは違うかも」。
Aさんの娘も入り、治療計画やリスクなどを主治医と話し合ったのち、Aさんは希望通り退院していきました 。
* * *
1週間後に再びIVR室に入室してきたAさんは、近づいてきたK看護師に次のように話してくれました。「あの時、あんなこと言い出したのに、あなたは先生と相談するって言ってくれてありがとう。病棟では、忙しい中で準備を進めてくれる看護師さんに申し訳なくて、自分のわがままで皆さんに迷惑をかけてしまうと思って言えなかったの。今までは、死ぬのが怖くて仕方なかったけど、向こうの世界には犬が待っててくれる、会えるんだと思ったら、なんだか違ってきたわ」と、穏やかに微笑むAさんの姿に、(先輩、このことなんですね!)と、心の中で叫んだK看護師でした。
◎問題提起
今回のケースでは、患者の意思を尊重し、治療を1週間延期しました。結果、患者は納得して治療を受けることができました。
このようなケースにあった時、みなさんはどう考え、行動しますか?
(IVR看護研究会 青鹿由紀)
<次回につづく>