第22回 あなたの指導、響いていますか?(解説)

第22回 あなたの指導、響いていますか?(解説)

2018.6.12 update.

IVR看護研究会

 2000年に発足し、安全安楽かつ効果的に患者がIVRを受けられるようにIVR看護のあり方を検討する場です。放射線科における看護の臨床実践能力を高めるため専門知識や技術の習得、研鑽をめざし、チーム医療における看護師の役割を追究し、また、IVR看護師の専門性を確立するため、継続して学習する場、人的交流の場を提供することを目的としています。

 発足間もなくから開催している研究会(セミナー)は、今年3月で第18回を迎えました。第19回は、2019年3月16日開催予定です。


公式webサイト:http://www.ivr-nurse.jp/
Face book @ivrnurse2016

 

 このJ看護師はIVR室に配属されわずか3か月です。施設の規模やIVRの件数、看護体制などによっては、たくさん経験をしているかもしれませんが、J看護師は「やっと患者さんの表情がみられるようになってきた」と語っていることから、まだIVRでの看護経験は浅いと考えられます。

硫酸アトロピンは、IVRでは迷走神経反射などで徐脈になった時に使用するため、その空容器があったということは、IVR中の患者さんに「何かあった」と考えられます。この何かあった経験を今後のIVR看護で活かしていくためには、後輩にどんな声かけが必要だったのか考えていきたいと思います。

 

経験から学ぶということ

 

 昨今、「経験から学ぶ」という経験学習が注目されています。Kolb1)は、学習を「経験を変換することで知識を創りだすプロセス」と定義し、Lewin2)やDewey3)の研究に基づいて4つのステップからなる経験学習モデルを提示しています(図1)。

 経験学習モデルとは、「経験→省察→概念化→実践」という4 つのプロセスを踏み、このサイクルを回すことによって、人は学習するという考え方です。単に経験を重ねるだけでなく、経験においてさまざまなことを感知し(経験)、それを素材として深く振り返り(省察)、そこから教訓や概括的な意味をつかみ(概念化)、それを新たな状況において応用する(実践)。そして、さらに経験をして……、といった行動をくり返すことで人は学習し、成長していくとされています4)。経験学習モデルによれば、このようなプロセスを踏むことによって、人は学習し、いろいろな状況に適応する力を醸成していくと言われています。


 
 
      図1 経験学習モデル
 
 
図1 IVR.jpg
 
 

 松尾5)は、この経験学習サイクルを回す際に、個人でサイクルを回せる人と、回せない人がいると述べています。その経験学習サイクルを自分で回せない人には、職場での働きかけが必要となってきます

 先ほどのJ看護師と先輩看護師のやり取りを振り返ってみましょう。J看護師は、今まで、記録や介助に追われてできなかった、「患者さんの観察」ができ、患者さんの異変に気づくことができました。しかも、気づいただけでなく、まだ状況を把握できていない手技に集中している医師に報告することもできました。そして、そのことにより、指示を得て、早期対応ができ、大事に至らずIVRを完遂することができました。

 この体験は、自分の成長を感じられ、今後のIVR看護観にも影響するJ看護師にとっては大きな出来事だったことでしょう。第17回IVR看護研究会(2017年)で行った「IVR看護においてケアを意識したきっかけやエピソード」を尋ねた調査では、今回のJ看護師のように、「急変に気づくことができ、対応できた」ことをあげた看護師が多くいました。

 回答した看護師の話をもう少し詳しく書くと、「急変に気がついた」ことを通して「安全のためにIVR看護師がすべき役割を理解した」、また「患者の代弁者である看護師の役割」「医師よりも患者のことをみられる特性と役割」「医師が集中して手技に取り組めるようにする役割」などの役割を獲得しているようでした。

 

 このように経験を「あー、よかった」だけで終わらせるのではなく、この経験から何が言えるのかを深く省察するためには、J看護師自身が深く考えることも大切ですが、先輩、同僚を含め周りとの対話が重要になってきます第15回らんらん♪IVR看護でも触れている野中郁次郎氏の提唱した「形式知」を掘り下げると、氏はSECIモデル(図2)6)というプロセスモデルを示しています。これは、暗黙知を形式知にするきっかけの1つとして「対話をすることでの気づき」をあげています。


 
 
           図2 SECIモデル
 
 
図トリミング.jpg
 
  野中郁次郎,竹内弘高:梅本勝博翻訳:知識創造企業.東洋経済新報社,93,1996より許可を得て転載
 

 

 

 

先輩看護師はどう言うべきだったのか

 

 

 では、再度先輩看護師の対応を振り返ってみましょう。

 今回の先輩看護師は硫酸アトロピンの空容器を見つけ「コスト」の確認だけをしています。その返答として「これからです」があり、さらにその返答として一方的な指導の「忘れずにコスト取ってよ!」で終わってしまっています。

 しかし、もしここで先輩がJ看護師に、「硫酸アトロピン」をどのような状況で使用し、患者さんの反応がどうであったか、を尋ねることにより、J看護師も自分がどんなことを考えて行動したのか、振り返り、それを他者にわかるように説明することで言語化ができていくはずです。

 また、「対話」によるフィードバックは、「私はあなたをしっかりと見ていますよ」という先輩からの意思表示にもなると参考文献7で述べられており7)、内省を促すだけでなく、職場の人間関係にも良い影響がありそうです。

 IVRは術後に患者さんに関わることが無ければ、自分が行った看護がよかったのか、悪かったのかわからないことが多い現場です。また、患者さんが「ありがとう」と言ってくれる経験もあまりないかもしれません。自分が何のために看護をしているのか、IVRには看護がいらないのかと思ってしまうこともよくある話です。先輩がよく見て、成長したことを認めてあげることにより承認欲求が満たされ、よりよい看護を目指していくモチベーションにつながると考えられます。

 指導とは一方的に知識を詰め込んで行うだけではなく、対話を通して考えや思いを引き出すことで、指導の受け手が今まで以上により豊かに社会生活ができるようになることだと思います。あなたの後輩へのひと言が、ずっと看護の心に火を灯すものになりますように!

 

(IVR看護研究会 野口純子)

 

<おわり>

 

[参考文献]

 

1)Kolb  DAExperiential Learning:Experience as the Source of Learning and DevelopmentPrentice-Hall1984.

2)Lewin KField theory in social sciencesHarper&Row1951

3)Dewey JExperience and EducatiomKappa Delta Pi1938.(市村尚久訳,:経験と教育.講談社,2004 

4)高橋衆一:人が育つ職場とは? 第2回 職場における経験学習の支援.企業と人材,44976):83-852011.

5)松尾睦:経験からの学習―プロフェッショナルへの成長プロセス.同文館出版.2006

6野中郁次郎,竹内弘高:梅本勝博翻訳:知識創造企業.東洋経済新報社,931996.

7)産業能率大学総合研究所コラム

http://www.hj.sanno.ac.jp/cp/page/7710 [2018.04.25アクセス]

 

 

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