第19回 IVR看護師の意思決定 ―チームの中での看護倫理(解説①)

第19回 IVR看護師の意思決定 ―チームの中での看護倫理(解説①)

2018.5.22 update.

IVR看護研究会

 2000年に発足し、安全安楽かつ効果的に患者がIVRを受けられるようにIVR看護のあり方を検討する場です。放射線科における看護の臨床実践能力を高めるため専門知識や技術の習得、研鑽をめざし、チーム医療における看護師の役割を追究し、また、IVR看護師の専門性を確立するため、継続して学習する場、人的交流の場を提供することを目的としています。

 発足間もなくから開催している研究会(セミナー)は、昨年3月で第18回を迎えました。第19回は、2019年3月16日開催予定です。


公式webサイト:http://www.ivr-nurse.jp/
Face book @ivrnurse2016

 

看護師の倫理とは

 

 この事例は日常の中の小さな出来事ですが、看護師の行うことはすなわち看護実践です。吉武は、看護者が、法律や既存のガイドラインやルールに従って行為をする場合は、外的規制を受けると捉えることができ、他方、看護者の心の中に内面化された規範に従って行為をする場合、その内面化された規範が倫理ということになり、その中に道徳的な善悪に関する価値判断が含まれているもの1)と説明しています。

 一般社会において、他人の身体に針を刺すという行為は犯罪です。しかし採血や注射など、ライセンスを持った看護師が正当な理由・正しい方法で行うことは犯罪ではありません。

 このような特殊な行為が許されている看護師は、自分の行為が倫理に則っているかを考える必要があります。それは、提供する看護に関する知識の有無、看護師の人生観や価値観、看護の対象となる人のライフスタイルや価値観、医師と看護師とのパワーバランス、同僚との関係性、看護が提供される組織の風土などが複雑に絡み合い、看護師がよい行いをしようとしても、必ずしもそうではなく、害を及ぼす側になってしまうことがある2)からです。

 この事例を、I看護師の意思決定チームの中での看護倫理」の2つの側面から2回に分けて考えてみたいと思います。

 

 

I看護師の意思決定

 

この事例では、実際にI看護師の手と医師の滅菌手袋が触れた気がするという段階のことであって、実際に触れたかどうか定かではありません。I看護師は、些細なこと、気のせいだとして済ませてしまうことも可能でした。しかしI看護師はそれで済ませてしまわずに、触れていた場合の感染リスクを考慮した行動をとっています。

このI看護師気持ちを切り替えたことは、I看護師が1つの意思決定をしたことになります。

意思決定とは、ある目標を達成するために、複数の選択可能な代替的手段の中から最適なものを選ぶこと3)です。色々な味のフルーツキャンディーの中から自分の好みでレモン味を選ぶという気楽な選択もあれば、進学や就職など慎重に選択することが必要なものもあります。そして、プライベートな個人の意思決定と看護師としての意思決定との違いは、看護師としての意思決定の先には患者さんがいるということです。直接的でなくほかの看護師や他職種を通した間接的な場合もありますが、いずれにしても看護師の意思決定の結果に大きく影響されるのは患者さんです。

 

倫理綱領に照らしてみてみる

 

 I看護師の看護師としての意思決定の根底に流れる内面化された規範を、日本看護協会の「看護者の倫理綱領」4に合わせてみてみましょう。

責任を持って確実にガウンテクニックを介助することは、条文7「看護者は、自己の責任と能力を的確に認識し、実施した看護について個人としての責任をもつ」に該当します。この結果、医師の滅菌手袋に自分の手が触れたかもしれないという疑義を見逃さないI看護師がいます。

医師に、新しい手袋に交換するように提案したことは、条文6「看護者は、対象となる人々への看護が阻害されているときや危険にさらされているときは、人々を保護し安全を確保する」に該当しているといえ、その行為は「看護者の行為が対象となる人々を傷つける可能性があることも含めて、看護の状況におけるいかなる害の可能性にも注意を払い、予防するように働きかける」  を体現しています。

 

I看護師の意思決定までの流れは

 

I看護師は学生時代からこれまでの間に「看護者の倫理綱領」や同じく日本看護協会の「看護業務基準」を学習し、これらを踏襲した施設独自の規則やガイドラインなどがある職場に身を置くことで、Ⅰ看護師の中で内面化された規範が作られていったと考えます

 

2018 ivr.jpg

 

I看護師は、その意思決定の根底に流れる内面化された規範によって、医師の滅菌手袋に自分の手が触れたかもしれないという疑義を見逃しませんでした。その先のI看護師の思考は、滅菌された手袋に滅菌されていない自分の手が触れ(てい)たら滅菌された手袋は不潔扱いとなる」から「不潔な手袋で滅菌操作を必要とする手技をすることは感染のリスクとなる」と続き、「この感染のリスクを除去するためには不潔な手袋をはずし、新しい滅菌手袋に交換する」の意思決定に至っています。

 

IVR看護研究会 青鹿由紀)

 

 

<つづく>

 

 

[引用・参考文献]

1)吉武久美子:看護者のための倫理的合意形成の考え方・進め方,医学書院,2017

2鶴若麻理、麻原きよみ編集:ナラティブでみる看護倫理、南江堂、p32013. 

3)松村明編者:大辞林第三版.三省堂,p1282006

4)手島恵監修:看護者の基本的責務2018年版 定義・概念/基本法/倫理. 日本看護協会出版会, 242018

5)宮坂道夫:医療倫理学の方法 原則・ナラティブ・手順 第3版.医学書院,p672016

6)前掲書4),p91

7鷹野和美編著:チーム医療論.医歯薬出版株式会社,p282004

8)看護にかかわる主要な用語の解説概念的定義・歴史的変遷・社会的文脈

日本看護協会 ,2007.

www.nurse.or.jp/home/publication/pdf/2007/yougokaisetu.pdf   [2018.5.11アクセス]

 

 

 

 

第18回はこちら

 

                 20回はこちら→

  

 

 

 

 

 <バックナンバー一覧はこちら>

 

 

 

 

 

 

 

このページのトップへ