第17回 短い時間でのラポール形成(解説)

第17回 短い時間でのラポール形成(解説)

2018.4.23 update.

IVR看護研究会

 2000年に発足し、安全安楽かつ効果的に患者がIVRを受けられるようにIVR看護のあり方を検討する場です。放射線科における看護の臨床実践能力を高めるため専門知識や技術の習得、研鑽をめざし、チーム医療における看護師の役割を追究し、また、IVR看護師の専門性を確立するため、継続して学習する場、人的交流の場を提供することを目的としています。

 発足間もなくから開催している研究会(セミナー)は、今年3月で第18回を迎えました。第19回は、2019年3月16日開催予定です。


公式webサイト:http://www.ivr-nurse.jp/
Face book @ivrnurse2016

 

ペプロウの4つの段階

 

 看護理論家のペプロウ1)は、「看護は「人間関係」のプロセスであり、しばしば「治療的」なプロセスである」と述べています。また、看護師と患者の関係は1つのプロセスとしたうえで、4つの段階があると述べています。

 

1.方向付けの段階

 看護師と患者はお互いに未知の人として出会うことになる。このお互いに知り合う時期を「方向付けの段階」と呼ぶ。つまり、方向付けの段階は見知らぬ者同士が出会い、 困難な健康問題を共に解決していくために歩み始める段階である。患者は、自分の置かれている状況を変化させるために有効と思われる専門的援助を切実に求めている。また、この段階の患者は常に心配事を抱え、与えられた情報をすぐに忘れてしまうことがある。従って看護師は、患者が自分の置かれている状況を理解できるように援助する必要がある。

 

2.同一化の段階

 患者自身の置かれている場が何を提供するかがわかってくると、患者は自分のニードに応えてくれそうな看護師を選んで反応するようになる。これをペプロウは「同一化の段階」と呼んでいる。例えば、これから行う処置の内容を説明してくれたり、その約束を確実に守ってくれたり、また近づきやすい雰囲気で、自分のために情報を与えてくれる看護師に対しては、患者も信頼を置く。患者が、状況をよく見つめ、さまざまなできごとに変化しながら、 看護師との関係を活用できるように援助することが求められている。

 

3.開拓利用の段階

 患者が自分の状況や、その場における人間関係を認識し、信頼のおける看護師と同一化するようになると、患者は自分のニードを確認し始める。そして、患者は家に帰ることや、職に戻ることを目指し、自分のまわりにいる人や、環境などに与えられるサービスを十分に利用するようになる。これを「開拓利用の段階」と呼んでいる。

 

4.問題解決の段階

 患者は看護師との同一化から徐々に抜け出しつつ、 少しずつ独り立ちできる能力を身につけ、それを強めていく。この段階を「問題解決の段階」と呼んでいる。

(参考文献をもとに看護研究会作成、筆者編集)

 

 

 第14回IVR看護研究会(2014年)では、このペプロウの4段階がIVR中でも成立する可能性を指摘し、「ペプロウショートバージョン」と名付けました。
 H看護師のモヤモヤを振り返りながら、解説していきたいと思います。

 

短時間でも段階を経ることはできる

 

 まず、「方向付けの段階」ですが、IVRで出会う患者と看護師は、ほとんどの場合、「未知の人」として出会うことになります。IVRにおいては、「お互いに知り合う時期」が「短時間」であることが特徴です。
 普段はこの短時間を補うために、事前に情報収集や術前訪問を行っている施設もあるかと思います。しかし、緊急IVRの場合は情報量も少ない中で、患者―看護師の、関わりを始めなくてはならないこともしばしばあります。今回の患者さんのように、「胸痛で来院」「意識や血圧なども安定している」という情報と、実際にお会いして感じた「表情のこわばり」から、「胸が痛いのかな?」と考え「大丈夫ですか」と、H看護師は声をかけています。この考え方自体は間違ってはいませんが、声のかけ方に工夫が必要です。
 看護師も緊急IVRで緊張しているかもしれませんが、患者さんも自分の体の状態を把握できないまま緊急でIVRを受けることになり、動揺しています。同じような格好をしている医療従事者のうち、誰が看護師なのかわかる術もありません。
 そこで、「方向付けの段階」では、患者の不安を受け止めながら、自分が擁護や代弁の役割を担っている看護師であることを伝えていく必要があります。例えば、「この治療では、自分勝手に体を動かすことは危険を伴うので避けていただきたいが、話をすることはできる」などを伝え、これから自分が受ける治療では、何もかも我慢するのではないこと、どのようなことをしていいのかなどを、ケアを通して何度も説明をしていく必要があります。
 そして、「同一化の段階」では、先述の表に「患者自身の置かれている場が何を提供するかがわかってくると、患者は自分のニードに応えてくれそうな看護師を選んで反応するようになる」とあるように、例えばIVRでは、寒さを感じている患者に対し保温をするなどの行為を看護師が行うことにより、患者さんは「あ、こういうことは我慢せずに言っていいんだな」「この看護師に言えば、なんとかしてくれるのだな」と、自分が置かれている場で何をしたらいいのか理解しやすくなると考えます。

 

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 「同一化の段階」できちんと患者―看護師間に信頼関係が築けると、「開拓利用の段階」では、患者が自分の状況(治療中に自分が動くことは危険であるが、話すことはできる)や、その場における人間関係(看護師に言えば、何かしらの回答が得られる)を認識し、患者は自分のニード(痛い、喉が渇く、など)を確認し始めます。そして、患者は治療が無事に終わることを目指し、自分のまわりにいる人から得られるサービス(痛みを和らげてくれる。喉の渇きを潤してもらえる、など)を十分に利用するようになります。

 そして、患者自身が頑張って無事に治療終わったあかつきには、今後の闘病への動機付けになっていくのが「問題解決の段階」です。


 

M先輩は何をしたのか

 

 H看護師が「大丈夫ですか?」と声をかけたことで、Aさんは「何が大丈夫なのか?」がわからず、困っていたかもしれませんね。また、「大丈夫でない」ことを告げた場合に、自分の治療がどうなっていくのかがわからず、言えなかったのかもしれません。 H看護師はあとから先輩に、どうしてAさんが笑っていたのかを聞いてみました。

 

 M先輩は、看護師が交代したことを伝えがてら、患者さんの点滴刺入部を確認しようと手を触ったところ冷たかったため、「手がとても冷たいですよ、寒いのではないですか?」と声をかけたそうです。それを聞き、「実は……」と我慢していた胸の内を明かし始めてくれたそうです。このように具体的な質問で問いかけをしたことにより、患者さんは返事がしやすかったと考えられます。  

 そして、それをきっかけに「急で驚きましたね」の声かけには「いやー本当に。こんなことになるなんて思いもしなかったよ」と言い、不安が表出できたことで、入り過ぎていた力が徐々に抜け、笑顔が見られてきたそうです。そのうちにPCI(経皮的冠動脈インターベンション)がはじまると、患者さん自ら、胸が少し痛いと訴えてくれるようになり、無事終わった時には、「血圧が高いって、かかりつけの医師に言われていたんだよ。気をつけないとね。せっかくみなさんががんばって治してくれたんだから……」と笑顔で退室していかれました。

 

 みなさんのカテーテル看護でも、今回のM先輩のように、「今日は患者さんとうまくいった気がする」という幸せな経験があるのではないでしょうか?  どうして上手くいった気がするのか振り返ってみると、今回のように「ペプロウショートバージョン」のような、信頼関係の構築があったと考えられます。

 ぜひ、「あー、今日はなんだかよかった」で終わらせず、「○○をしたから患者さんにとってよかったのではないか」を自分の中に貯金していって、マイセオリーを構築していただきたいと思います。

 

(IVR看護研究会 野口純子)

 

<おわり>

 

[参考文献]

1)金子道子:ヘンダーソン,ロイ,オレム,ペプロウの看護論と看護過程の展開.照林社,1999.

2)ハワード・シンプソン著, 高崎絹子訳:看護モデルを使う②ペプロウの発達モデル.医学書院,1994.

3)城ケ端初子監修:実践に生かす看護理論19.医学芸術社,2005.

 

 

 

 

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