(5)ナースが見たドロシーハウス・2――入退院を支援するがん看護専門看護師の視点から

(5)ナースが見たドロシーハウス・2――入退院を支援するがん看護専門看護師の視点から

2015.9.04 update.

愛媛大学医学部附属病院 看護部

総合診療サポートセンター

がん看護専門看護師 塩見美幸

 

■ドロシーハウスで行われているケア

 本シリーズで先述1)のとおり,ドロシーハウスはNHSやかかりつけ医,地域看護師,急性期病院などと連携し,10床のホスピス病棟,在宅ケア,緩和デイケア,家族ケアを行っており,終末期の患者ができるだけ自宅で安心した生活が送れるように,地域とのつながりを大切にしながら緩和ケアを提供しています。

 特に印象的だったのは,緩和デイケアです。そこでは,看護師や多職種スタッフが患者の症状マネジメントや困りごとへの対処,不安や孤立感,スピリチュアルな側面への介入を行っています。患者は友人同士の語り合いや食事,趣味などを楽しみ,またリンパ浮腫ケアや作業療法などのさまざまな個別ケアを受けることができます。さらに家族ケアが重視され,ファミリールームでは家族である子どもたちが遊びを通して状況を理解したり気持ちを表現したりできるケアが行われていました。

 このように緩和デイケアでは,専門的緩和ケアを受け,人や社会とのつながりを保つことができます。そして家族のレスパイトやケアにもなります。さまざまな苦痛症状や不安を抱える終末期において,緩和デイケアの存在は在宅療養を継続する上でとても重要だと感じました。

 

■ドロシーハウスにおける専門看護師の役割

 地域に根差した緩和ケアの中核を担っているのが,20名のドロシーハウスの専門看護師たちです。コミュニティ専門看護師は1人あたり15~25名の患者を担当し,患者・家族の全体像をアセスメントしてニーズを明確化し,支援計画を立てます。例えば,薬剤の調整,不安や恐れに対する情緒的サポート,終末期をどのように過ごすかといった重要な意思決定支援などを行います。また,マリーキュリーナース(終末期の患者・家族のために22時~翌8時までの夜間,患者宅に滞在してケアを提供)や,緩和デイケアなどのサービスを患者へ紹介し,調整を図り協働します。そして定期的に患者・家族の状況とケア全体の評価を行います。

 ドロシーハウスの専門看護師は,終末期という難しい局面においても患者・家族が順応できるように,ニーズを見極め,チームリーダーとしてさまざまな人やサービスをコーディネートする役割を担っており,患者の在宅療養を支える重要な存在だと感じました。

 

■日本でのがん患者の緩和ケアを考える

 日本においては,がん患者に提供される緩和ケアリソースとして,緩和ケアチーム,緩和ケア病棟,在宅緩和ケア(在宅療養支援診療所,訪問看護ステーションなど)などがあります。がん患者の在宅療養を支える地域緩和ケア体制は各地で展開され2,地域連携や在宅での緩和ケアの提供が進められています。英国における緩和デイケアのような体制はまだ少ない現状ですが,デイホスピスとして運営されたり,療養通所介護の枠組みの中で緩和デイケアを展開しているところもあります3

 また,がん診療連携拠点病院などの患者サロンは,患者同士の語り合いや癒しの場としての役割を担っており,このような病院と在宅をつなぐ場を充実させていくことが必要だと感じます。さらに,がん患者の在宅療養を調整するコーディネーターを設置し,育成する動きもあります4。がん患者や緩和ケアの特徴を理解し,ニーズを見極め,患者・家族に寄り添い,患者の住む地域の資源に適切につなぐ役割がとれる看護職やケアマネジャーなどの充実は不可欠だと思います。

 

■今後の展望ーーがん患者を支援する専門看護師として

 現在,私は急性期病院でがん患者の療養支援や地域連携,在宅緩和ケアコーディネーター育成に携わっており,院内外のチームや多職種と連携しながら,診断期からの緩和ケアや終末期患者の在宅緩和ケアなど,緩和ケアの実践に取り組んでいます。

 しかし,多くのがん治療が外来にシフトし,さらには治療終了後も長期的に通院することが求められる中,患者が安心して自宅や社会の中での生活を送れるよう,患者サロンでの情報提供,がん看護領域の専門・認定看護師や社会福祉士などによる専門的視点からのニーズのアセスメントやケア提供をさらに充実させることが課題だと感じています。また,がん患者を支える地域のさまざまな資源や人々と顔の見える連携を図り,コーディネートする役割を果たすとともに,院内外の看護師や社会福祉士,ケアマネジャーなどとともにその力を高めていくことが必要だと考えます。

 ドロシーハウスでの学びを活かし,患者が住み慣れた地域でよりよく過ごすことができるように病院と在宅を結ぶ緩和ケアの架け橋となれるよう活動していきたいと思います。

 

写真1.JPGのサムネール画像

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

写真4-2.JPG

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

写真5-1.JPG

 

 

 

 

 

 

 

 

 

写真は上から,ドロシーハウスの外観,アロマセラピールーム,ファミリールーム。居住性の高い空間が実現している。

 

◎参考文献

1)阿部まゆみ:地域包括的緩和ケアの理想形 英国のホスピス「ドロシーハウス」のケアに学ぶ(2)英国のホスピス「ドロシーハウス」の活動の実際-1

http://igs-kankan.com/article/2015/06/000980

2)厚生労働科学研究費補助金,第3次対がん総合戦略研究事業「緩和ケアプログラムによる地域介入研究」班:OPTIM Report 2012 エビデンスと提言 緩和ケア普及のための地域プロジェクト報告書.

http://gankanwa.umin.jp/report.html 

3)阿部まゆみ,安藤詳子:がんサバイバーを支える緩和デイケア・サロン.青海社,2015.

4)吉田美由紀,ほか:終末期がん患者の在宅療養移行における在宅緩和ケアコーディネーターの役割.第19回日本在宅ケア学会学術集会,2014.

 

【関連セミナー情報】

イギリスの地域包括緩和ケア/ドロシーハウス ホスピスのセミナーが開催されます。

http://iiet.co.jp/sys/seminar.cgi?f=10050 (←お申込み先)

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第153回国治研セミナー  【逐次通訳つき】
「地域包括緩和ケアを成功させるエッセンスを学ぶ」

わが国では2人に1人ががんに罹患し、3人に1人ががんで死亡しています。がんサバイバーが辿る病の軌跡のなかで、いかに生きるかに加え、いかに生を終えるかが課題となっています。今回、英国バース郊外で “医療・看護・介護をシームレスにつなぐ”地域包括緩和ケアを展開している実践者をお招きしました。シンポジウムでは、ホスピスと在宅ケアの架け橋“緩和デイケア”について議論します!多くの皆さまのご参加をお待ちしております。なお、1日での参加も可能になりました。

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【場所】 東京 日本教育会館(地図)
【日時】 2015年9月19日(土)20日(日)
【費用】 21,000円(2日間)
※2名以上でのお申込みはお一人20,000円
※5名以上でのお申込みはお一人19,000円
※大学生・大学院生はお一人19,000円
 (但し、当日は会場受付にて「学生証」のご提示が必要となります)

【講師】
Tricia Needham (トリシア ニードハム)先生 (ドロシーハウス ホスピス 医師)
Wayne de Leeuw (ウェイン デュ リュウ)先生 (ドロシーハウス ホスピス 看護師)

【コーディネーター】
阿部まゆみ 先生(名古屋大学大学院医学系研究科看護学専攻・がんプロフェッショナル養成基盤推進プラン特任准教授/看護師)

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