小学校で相次ぐ食物アレルギー

小学校で相次ぐ食物アレルギー

2013.5.02 update.

宇田川廣美 イメージ

宇田川廣美

東京警察病院看護専門学校卒業後、臨床看護、フリーナース、看護系人材紹介所勤務を経て、フリーライターに。医療・看護系雑誌を中心に執筆活動を行う。現在の関心事は、介護職の専門性と看護と介護の連携について。「看護と介護の強い連携で、日本の医療も社会も、きっと、ずっと良くなる!」と思っている。

  昨年、東京都調布市の公立小学校で食物アレルギーをもつ女子児童が、給食に出されたチーズ入りチヂミを食べてアナフィラキシーショックで死亡した、というニュースが流れました。その後も、同様の事故が続き、各地で教育委員会を中心に教職員研修の開催や対応マニュアルの作成が進んでいます。

 

身近にあるアレルギーの原因食物

 冒頭に挙げたチーズ入りチヂミのほか、最近では神奈川県川崎市内の35の小学校で、給食のデザートとして提供されたキウイフルーツのアレルギーとみられる症状が61人の児童に表れた、という事態が起こりました。同教育委員会では、その月のキウイフルーツの提供を見合わせ、アレルギー疾患をもつ児童への対応の周知徹底を図ったそうです。

 給食における食物アレルギーの原因としてその頻度が高いのは、「キウイフルーツ」「落花生」「エビ」「乳」「たまご」などでした。いずれも日常、摂取する機会の多い食物ですが、従来の学校給食の現場では、保護者からの申告に基づいて、アレルギーの原因食品を取り除いて作った除去食や代替食に差し替えるなどして対応しています。しかし、そういった対応も人員や設備の関係でできていない学校もたくさんあるそうです。

 

事例から見える連携の大切さ

 日本スポーツ振興センターは、スポーツの振興とともに児童・生徒の健康の保持増進を図り、災害共済給付などを行っています。この機関のサイト内に掲載されている「食物アレルギーによる給付事例」を見ると、医療現場のリスクマネジメントと共通のものを感じます。個人の体質ともいえるアレルギーは、何よりもヒューマンエラーともいえる行き違いによって引き起こされることが多く、それぞれに関わっている人たちの連携の大切さが伝わってきます。同時に、対応次第で未然に防ぐことも、最悪の事態を阻止することも可能です。以下に、掲載事例の概要の一部を紹介します。

 

*代替給食を食べていた児童に、本来除去すべき食品が入っているおかずが

誤って配膳され、児童がそれに気づかずに食べてしまった。

 

*食べると腹痛が起こるためにエビやイカを食べないように心がけていた児

童が、その時のエビやイカが小さかったため「大丈夫だろう」と思い、食

べてしまった。

 

*園庭の木から収穫したクルミを昼食時に1口食べさせたらアレルギーが出

てしまった。保護者からアレルギーに関する報告がなされていなかった。 

 

 学校での事故の発生には、献立の作成にあたる管理栄養士や調理担当者、教室での配膳や配膳にあたる児童、アレルギーをもつ児童を注意深く見守る教員、アレルギー体質やその食材などの情報提供を行う保護者、そして本人などによるさまざまな要因が関わります。それぞれの立場で関わる職種と児童およびその家族との密な情報交換と連携が重要なことは、医療機関におけるリスクマネジメントとまったく同じです。

 

医療従事者の関わりで最後の一手を確実にする

 こうしたニュースを耳にして医療従事者が気になる点は、アレルギー発生時の対応ではないでしょうか。アレルギーをもつ児童のなかには、エピペン注射薬を常に携帯している子もいるそうです。しかし、学校において児童に不調が表れた場合、対処するのは周囲の大人です。注射適応の見極め、タイミング、その後の対処方法など、一般の教諭や看護師出身でない養護教諭にとってこれらは、その判断が難しく、強い緊張を強いられるものであるようです。

 ファイザー株式会社が2012年に行った「食物アレルギー」認識調査を見ると、アレルギー反応を起こした際のアドレナリン自己注射(「エピペン」)について知っている母親は、アレルギーをもつ子の母親では28.6%(n=824人)、アレルギーのない子の母親では11.8%でした。

 アレルギーをもつ児童に対して、いざというときの対応をより速やかに行うためには、医療従事者は児童自身と母親により積極的に対処法の情報提供および指導を行って、エピペン注射の認知度をもっと高める必要を感じます。

 

 

参考HP

●日本スポーツ振興センター「学校安全Web」

第42回 学校給食における食物アレルギーについて

http://jpnsport.go.jp/anzen/branch//tokyo//tabid/1190/Default.aspx

●ファイザー株式会社「食物アレルギー」認識調査

http://www.pfizer.co.jp/pfizer/company/press/2012/documents/20121031.pdf

このページのトップへ