かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-
2013.4.01 update.
『訪問看護と介護』2013年2月号から、作家の田口ランディさんの連載「地域のなかの看取り図」が始まりました。父母・義父母の死に、それぞれ「病院」「ホスピス」「在宅」で立ち合い看取ってきた田口さんは今、「老い」について、「死」について、そして「看取り」について何を感じているのか? 本誌掲載に1か月遅れて、かんかん!にも特別分載します。毎月第1-3月曜日にUP予定(→次回より水曜日に変更になりました)。いちはやく全部読みたい方はゼヒに本誌で!
→田口ランディさんについてはコチラ
→イラストレーターは安藤みちこさん、ブログも
→『訪問看護と看護』関連記事
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(2−1からつづく)
物事というのは、「深刻な人」がより深く考えているわけではない、というのは人生経験を積んでよくわかりました。「深刻さ」というのは、おしなべてその人の趣味とか癖なのです。そして、深刻であることは、あまり事態を好転させません。息苦しくなってしまうのです。
少し力が抜けているくらいでないと、人を看取るまでに自分もまわりもくたびれてしまいます。力が抜けている……というのは、いいかげんということではないんです。緊張していない、ということ。リラックスしている、ということです。
なぜリラックスしているほうがいいかと言えば、よく「観察」ができるからです。人間は、自分がいっぱいいっぱいで緊張していると、観察できないのです。でも、看取りに至る道筋で最も大切なのは「観察力」です。日々、観察。ちょっとした違いを読みとる力が、なににも増して重要なのです。
漫画家や作家はものをよく見るのが仕事ですから、そういう意味では介護や看取りはかなり得意だと言えるかもしれません。
私は日々、小説やエッセイを書くために物事を観察するのを習慣としており、それはもう自分の身についた身体機能に近くなっていますが、多くの人は本当にはものを見ていません。とくに男の人は、驚くほど日常の細々としたことを見ていませんし、記憶にも留めません。びっくりするくらいスルーしています。
たとえば、少しせん妄が入ってきたご老人が、ふわっと別の世界に行っているときの様子ははっきりわかります。「あ、いま心がお出かけしたな」という感じの目つきになります。だいたい人は空想するときは上を見て、悩むときは下を見ます。目がそういう動きをするのです。顎があがって上目づかいであれば、夢を見ているように、心はどこかに行っていることが多いのです。
そういうときに、いきなり声をかけて連れ戻そうとすると相手はびっくりしますから、なるべく声をひそめてそっとささやくように優しく接します。たいがい、妙なことを返事したりしますが、それは夢から覚めた時のような状態なのだ……とわかってあげたらいいのです。でも……「ごはん食べる、どうする?」と普通にいろいろな言葉を投げつけると、混乱して怖くなってしまうのです。こういうことは、観察していればすぐにわかります。
ガラッと戸を開けて「おばあちゃん!」といきなり声をかけてしまうと、もうこの時点でコミュニケーションが難しくなってしまうんですね。いつも「いま何してるかな。いまどういう感じかな」と変化を観察するような、そういう心持ちでいられるといいのですが、なかなかそうはいきません。認知レベルが下がって日常生活が難しくなると、どうしたって健常者のほうはイライラしてきてしまいます。
深刻な人は、そこで「それは困ったですねえ……。どうしたらいいでしょうねえ」となるのです。つまり深刻な人は、いつも自分が困っているから深刻なのです。本当に困っているのはぼけてきた本人で、まわりの人間は普通に暮らせるのですからちっとも困りません。本当に困っている人を差し置いて自分が深刻になると、困っているのが誰なのかわからなくなってしまうのです。
(2-3につづく)
いよいよ高まる在宅医療・地域ケアのニーズに応える、訪問看護・介護の質・量ともの向上を目指す月刊誌です。「特集」は現場のニーズが高いテーマを、日々の実践に役立つモノから経営的な視点まで。「巻頭インタビュー」「特別記事」では、広い視野・新たな視点を提供。「研究・調査/実践・事例報告」の他、現場発の声を多く掲載。職種の壁を越えた執筆陣で、“他職種連携”を育みます。楽しく役立つ「連載」も充実。
3月号の特集は「あれから2年 災害対策の「変えた」「変わった」」。「これまでのマニュアルでは役に立たなかった」とも言われる東日本大震災の経験を経て、今「災害対策」はどう変わったのか? どう変えてきたのか? 岩手・宮城・福島・茨城各県から現場訪問看護師にご報告いただきました。