5人に1人がPTSD ?!

5人に1人がPTSD ?!

2012.12.19 update.

宇田川廣美 イメージ

宇田川廣美

東京警察病院看護専門学校卒業後、臨床看護、フリーナース、看護系人材紹介所勤務を経て、フリーライターに。医療・看護系雑誌を中心に執筆活動を行う。現在の関心事は、介護職の専門性と看護と介護の連携について。「看護と介護の強い連携で、日本の医療も社会も、きっと、ずっと良くなる!」と思っている。

 

周囲の人の心にも大きく響く惨事の影響

 

中央自動車道にある笹子トンネルが崩壊したのは12月に入ってすぐの日曜日、12月2日の朝のこと。トンネル内からムクムクと吐き出される煙に、とにかくトンネル内にいる人たちが助かるように祈るばかりでした。が、その願いもむなしく9名が帰らぬ人となりました。その後、12月14日には米国のコネティカット州の小学校で銃の乱射事件が起き、20名の子どもを含む26名が凶弾に倒れました。

 

こうした事件が起こるたびに思うのは、直接の被害者とともに、救助にあたった人、たまたまその場に居合わせた人、被害に遭われた人たちと親しい人々など、その事件・事故の影響は多くの人に波及しているだろう、ということです。

 

米国の銃乱射事件のニュースがメディアで発表された同じ頃、東日本大震災の被災地で救助や避難誘導を担った消防団員の5人に1人がPTSDの恐れがある、との調査結果が発表されました。これは総務省消防庁の有識者研究会の調査でわかったことで、研究会メンバーの松井豊筑波大教授は「一般的な災害に比べてかなり高い数字だ。実際にPTSDに罹っている可能性もあり、早急なケアが必要だ」とコメントしています。岩手、宮城、福島3県の消防団員869名に対して行ったこの調査では、20.1%にPTSDの発症の危険性が高くあるものの、「受ける機会がなかった」といった理由から、実際に専門家の面談などの心のケアを受けた団員は一部だったそうです。

 

 

傷ついた心を癒すアクティブ・リスニング

 

衝撃的な事件・事故に遭遇して心にダメージを受けても、必ずしも心のケアが受けられるとは限りません。ダメージを本人が認識していなかったり、ケアを受けるタイミングがつかめなかったり、ケアの提供者が身近にいなかったりと、いろいろな理由が考えられます。

 

そもそも<心のケア>は必ずしも専門家でなくては行えないものでしょうか。もちろん専門家によるケアが絶対に必要な人もいるはずです。また、例えば大切な人を亡くして大きな喪失感を抱えたとき、どうしても心の折り合いが付けられずにカウンセリング等を受ける人もいるでしょう。その一方で、喪失感を抱えながら知人や隣人とのかかわりのなかで話を聞いてもらうなどして、ゆっくり時間をかけながら喪失感を癒していく人もいます。このように心の傷も専門家だけでなく、日々、接する人との相互関係のなかで癒していけるものがあると思うのです。

 

阪神淡路大震災での体験を『心の傷を癒すということ―大災害精神医療の臨床報告』に著した精神科医の安克昌(1960.12~2000.12)氏はその中で、災害直後にさまざまな心身の不調を体験することは「異常な事態への正常な反応」であるが、衝撃があまりに大きいときはPTSDとなって長期化することがあるとし、その予防として被災体験を他人に話すこと、それについての感情を表現することが大切だと記しています。そして、その方法として、デビッド・ロモの「アクティブ・リスニング」という方法を紹介しています。

 

心のケアの専門家でなくても、励ましたり、批判したりせずに相手の話を傾聴することは、少しの努力と注意を払うことで、傷ついた隣人にできる思いやりのケアではないでしょうか。

 

痛々しい事件が続く社会にあって、そんなマインドをもって人と接していきたいなぁ…と願わずにはいられません。

 

 

傷ついた人の心を癒すアクティブ・リスニングの基本

● 「聞き役」に徹する

● 話の主導権を取らずに相手のペースに委ねる

● 話を引き出すよう、相槌を打ったり質問を向ける

● 事実→考え→感情の順が話しやすい

● 善悪の判断や批判はしない

● 相手の感情を理解し、共感する

● ニーズを読み取る

● 安心させ、サポートする

 

 

【参考文献】

●安克昌著 『心の傷を癒すということ 大災害精神医療の臨床報告』 作品社刊

●デビッド・ロモ著『災害と心のケア』アスク・ヒューマン・ケア刊

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災害時のこころのケア

本書は、9.11同時多発テロなどを経験した米国が練り上げてきた「災害被害者のための心理的支援マニュアル」の決定版である。分野横断的な包括性、会話例を多用した具体性において極めて評価が高いだけでなく、「害を与えないこと」を第一義に、生活援助へと大きく軸足を移した点で画期的。「何をすべきで何をすべきでないのか」を明示し、繊細かつ大胆なアプローチ法を列挙する。専門家は一度は目を通しておきたい。

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