かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-
2012.11.27 update.
東京警察病院看護専門学校卒業後、臨床看護、フリーナース、看護系人材紹介所勤務を経て、フリーライターに。医療・看護系雑誌を中心に執筆活動を行う。現在の関心事は、介護職の専門性と看護と介護の連携について。「看護と介護の強い連携で、日本の医療も社会も、きっと、ずっと良くなる!」と思っている。
生活保護を受けている人たちの入院医療費の平均が46万8000円(年間)で、国民健康保険(国保)と後期高齢者医療の両制度の加入者の平均21万5000円の2倍以上に達している、と「平成22年度国民医療費の推計」を基にした厚生労働省の調査結果が発表されました。外来医療費では、生活保護受給者の年間の平均は18万5,000円、国保と後期高齢者医療加入者では15万4,000円で約20%増、ということでした。
ちなみに、平成22年度の国民医療費は37兆4,202億円(前年度比3.9%増)、人口1人当たり平均29万2,200円(前年度比3.5%増)です。
生活保護によって受けられる扶助は、表のようなものです。そのなかで医療扶助は平成22年度では生活保護費の50%を占め、どのようにこの医療費を削減していくべきか、政府は頭をひねっています。
政府の行政刷新会議では、「生活保護受給者は後発医薬品を原則使用すべき」、「先発医薬品と後発医薬品の薬価差額の一部を自己負担すべき」、「医療費の一部を生活保護受給者に負担してもらう」などが提案されたそうです。
医師を対象としたwebサイトでのアンケートでは、こうした提案に対して7割強の医師が一部負担に賛成しており、「年金生活や働きながら一部負担をしている低所得者がいるなかで不公平である」との意見が寄せられました。一方、「現状のままでよい」と考える医師は11.3%で、「生活保護の本質まで変えるべきではない」、「受給認定を厳格にすべき」、「支払いができず病院の負担になるのが目に見えている」といった意見が出ています。いずれも患者さんと日々向き合っているからこそ出る率直な意見です。また、後発品の使用を義務付けることについては、半数以上が賛成意見でしたが、「現状のままでよい」と答えた人たちのなかには、「必ずしも薬効が同じとは限らない」、「処方の裁量権は医師にある」などの意見が寄せられていました。
医療費を抑制することは、私たちの税金の無駄遣いをなくし、一人ひとりに適正な医療を平等に行き渡らせるためなら反対しません。生活保護を受けている人たちの医療費の問題に対する各提案にも“一理あるな”と思います。それでも、前述の提案に対して違和感を拭いきれません。
例えば、私たちが処方箋を手に薬局に行くと、薬剤師さんから後発品があることを告げられ、どちらにするか選びます。でも、“後発品を義務付けられる”ということは、その選択ができなくなるということ。私たちはつねに大きな選択や、とるに足らないような小さな選択を繰り返しながら生活をしていますが、それによって自尊心や自分らしさを保っています。ささやかなことであっても選択ができないものがあるということは、人としての権利を奪われたかのように思えてなりません。
そもそも生活保護は、病気やけがや障害などで働けない、高齢になって頼る子どもも身寄りもなく生活が立ち行かない、といった人たちが受けており、医療費を一部負担でさえ厳しい状況にあるはずです。でも、かならずしもそうとはいえない現状が、要因の一つとしてあがっています。その点で、「受給認定を厳格にすべき」という意見は、この制度と医療費の問題に対する根本的な改善に直結するものと思われます。ほんとうに必要な人だけが生活保護を受け、人としてのプライドをもって選択できる扶助が支給される社会になってほしいと思います。
表 生活保護における扶助の種類と支給内容
生活を営む上で生じる費用 |
扶助種類 |
支給内容 |
日常生活に必要な費用 (食費・被服費・光熱費等) |
生活扶助 |
基準額は、 (1)食費等の個人的費用、 (2)光熱水費等の世帯共通費用を合算して算出。 特定の世帯には加算があります。(母子加算等)
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アパート等の家賃 |
住宅扶助 |
定められた範囲内で実費を支給
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義務教育を受けるために必要な学用品費 |
教育扶助 |
定められた基準額を支給
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医療サービスの費用 |
医療扶助 |
費用は直接医療機関へ支払(本人負担なし)
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介護サービスの費用 |
介護扶助 |
費用は直接介護事業者へ支払(本人負担なし)
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出産費用 |
出産扶助 |
定められた範囲内で実費を支給
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就労に必要な技能の修得等にかかる費用 |
生業扶助 |
定められた範囲内で実費を支給
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葬祭費用 |
葬祭扶助 |
定められた範囲内で実費を支給
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【参考HP】