かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-
2012.7.10 update.
第7回では、ICU研修の内容を具体的に紹介します。
◆ICU研修の背景
入職後の1年間で、「saving lifeナース育成プラン」の教育プログラムの中で呼吸・循環に関するフィジカルアセスメントを中心に、重症患者のケアに必要とされる基本的な知識・技術の習得をします。知識と技術の習得を確認するとともに、それらの知識と技術を患者の状態に合わせて応用する能力を養うために、ICUでの重症患者の看護ケア研修がプログラムされました。
目 的
呼吸・循環障害をもつ重症患者の看護ケアを経験することを通し、重症患者に対する基本的看護技術の習得およびアセスメント能力の向上を図る
一般目標
①ICU研修を通し、ICUに入室する患者の特殊性を理解する。
②重症患者ケアに必要な看護技術を習得する。
③重症患者の看護ケア前後での患者の状態のアセスメントについて学ぶ。
行動目標
①ICUに入室する患者の特殊性についての述べることができる。
②フィジカルアセスメントに必要な情報を収集できる。
*循環に関するもの…心拍数・脈拍・血圧・四肢冷感・冷汗など
*呼吸に関するもの…呼吸回数・呼吸音・胸郭の動き・皮下気腫など
*腹部に関するもの…消化管の動き・腹部膨満・腹壁の状態
*頭部に関するもの…意識レベル・瞳孔所見・四肢の運動
③重症患者に対する清潔ケアをICUスタッフと一緒に実施できる。
*清潔ケア前・中・後のバイタルサインの変化を観察できる。
*バイタルサインの変化についてのアセスメントができる。
*重症患者への清潔ケアをICUスタッフと一緒に実施できる。
④気管吸引に関するアセスメントと実施ができる。
*吸引前・中・後アセスメント
*吸引技術
⑤口腔ケアをICUスタッフと一緒に実施できる。
*気管挿管患者の口腔ケアの必要性を説明できる。
*口腔ケア実施前・中・後のバイタルサインの変化を観察できる。
*気管挿管患者の口腔ケアをICUスタッフと一緒に実施できる。
⑥重症患者の体位変換をICUスタッフと一緒に実施できる。
*体位変換の前・中・後のバイタルサインの変化を観察できる。
*バイタルサインの変化についてのアセスメントができる。
*重症患者の体位変換のポイントと注意点が説明できる。
*重症患者への体位変換をICUスタッフと一緒に実施できる。
⑦人工呼吸器の作動状況確認をICUスタッフと一緒に実施できる。
*作動状況確認項目とその手順を説明する。
*人口呼吸器の作動状況確認をICUスタッフと一緒に実施できる。
⑧経管栄養ならびに経管での与薬をICUスタッフと一緒に実施できる。
*重症患者への早期経管栄養開始の重要性を説明できる。
*経管栄養開始手順が説明できる。
*経管栄養と経管からの与薬をICUスタッフと一緒に実施できる。
対象者
フィジカルアセスメントⅠ~Ⅲを終了した2年目看護師 126名
研修部署
Surgical ICUあるいはMedical ICU
研修期間
平成24年5月28日~9月30日のうち、1名につき5日間の研修
◆研修の内容
1.ICU研修中に獲得する技術
意識レベルの把握、心拍数の測定、口腔吸引、気管吸引、肺痰援助法、呼吸器管理、経管栄養、経管での与薬、低圧持続吸引器の取り扱い
2.ICU研修での吸引技術・アセスメント習得方法
1)5日間異なる患者を受け持ち、ICU研修中に獲得する技術を実施する。
2)ICU研修中に獲得する技術を、①説明を受ける、②見学する、③スタッフと共に見学する、④スタッフの見守りのもとに一人で実施できるという4段階で考える。
3)5日間の研修期間中に、少なくとも1回は「スタッフの見守りのもとに一人で実施できる」段階を経験する。
4)4段階のいずれの段階であっても気管吸引を実施した場合は、見学した内容や実施した内容を記録する。
◆評価方法
1.Basic Skillチェック表を用いて、意識レベルの把握、心拍数の測定、口腔吸引、気管吸引、排痰援助法、呼吸器管理、経管栄養、経管での与薬、低圧持続吸引器の取り扱いにつて評価を受ける。
2.口腔吸引・気管吸引技術については、研修前試験において使用したチェックリストで評価する。
3.吸引前・中・後に実施したアセスメントについては、振り返り用紙に記録し、その記録内容について指導を受ける。
◆事前課題
開放式吸引および閉鎖式吸引方法のセルフトレーニングをし、吸引技術試験に合格する。
◆短期ローテーションにおける臨床研修制度から
臨床研修を修了した2年目の看護師に対し、1週間のICU研修をしています。この研修は、臨床研修で学んだフィジカルアセスメント、気管吸引などの技術が実際の現場で実践できるか確認するというねらいがあり、臨床研修制度の集大成となります。また、ICUに入室している重症患者をICU看護師と一緒に担当し、看護を経験することで、重症患者の看護のポイントに気づき、病棟での看護につなげられるようにプログラムしています。
前回は1年目でICU研修を行ったため、基本的習得技術項目を終了させることで精一杯の印象でした。しかし、今年度は患者の病態を少し考えながらフィジカルアセスメントしたり、気管吸引前後の評価を行うなど、ステップアップした中でより多くの学びを得ていることが伺えます。ICUで指導にあたる看護師も、指導する楽しさを実感できているようです。(MICU 藤井晃子)
◆研修生の反応
研修生のみなさんは研修を通して、病棟に戻ってくるまでの患者の状態がよく分かるようになっています。また、実際に今まで学んだ知識・技術を提供する機会となり、呼吸音で吸引の効果が分かったなどの反応がありました。ICUでは先輩看護師の関わりから学ぶことも多く、フィジカルアセスメントの重要性や五感を使って患者を診ることの意味、処置によって患者におこる状態変化を予測する必要性、処置後の評価の必要性などを学んでいるようです。
実際には、「フィジカルアセスメントが大切であることを実感した。日々、病棟でなんとなくやっていたり、ルーティンとしてケアをしていることが多いことにも気づき、反省した。ベースの疾患や既往歴、データ、X-Pなどの所見、使っている薬剤、継時的なバイタルサインの変化などの情報からアセスメントをし、何に注意してどのようなケアを行わなければならないか考えて、確実で安全なケアを行うことが大切なのだと反省することができた。病棟に戻ってもフィジカルアセスメントを行い、患者さんの異変にすぐ気づけるようにしたいし、その人に効果的なケアを行うようにしたい。」などの振り返りがされています。また、リフレッシュできた、下がっていたモチベーションが上がったという感想も聞かれ、自分の看護に対する思いを考える良い機会となっているようです。
◆指導者の反応
ICU研修制度の長所は、研修する側だけではなく指導する側のスタッフへの教育も充実する点です。卒後臨床研修制度により、知識や技術を基礎から基本通りに学んできているため、指導者側も基本通りに指導することを徹底しています。特に吸引技術について重点をおいているため、技術そのものだけでなく、なぜ吸引をする必要があるのか、実施前後に何をアセスメントするべきなのか、患者への励ましや接遇など、普段何気なく実施している技術を研修生と共に振り返ることで、指導者側も再度自分の看護を振り返ることができます。しかし、指導者側も若年化し多人数となっているため、指導内容や方法のマニュアルがあってもどの程度遵守され統一された指導がなされているのか、把握が困難な現状もあります。(SICU副師長 小楠香織)
<高橋恵 名古屋大学医学部附属病院看護実践力支援室 >
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