かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-
2012.5.18 update.
東京警察病院看護専門学校卒業後、臨床看護、フリーナース、看護系人材紹介所勤務を経て、フリーライターに。医療・看護系雑誌を中心に執筆活動を行う。現在の関心事は、介護職の専門性と看護と介護の連携について。「看護と介護の強い連携で、日本の医療も社会も、きっと、ずっと良くなる!」と思っている。
職場以外で起こっている世の中の出来事が、まるで車窓に流れる景色のように過ぎていく仕事モードの毎日。でも、ちょっと立ち止まってそれらを眺めてみると、「そうなんだ」、「なるほど」といった小さな発見に出会えるはず。このコーナーでは、そんな世の中のトピックを取り上げて、ちょっと役立つ医療知識を交えながら、ナース目線でご紹介していきます。
東日本大震災から1年が過ぎた今年のゴールデンウィーク、北アルプスで大量遭難事故が起こりました。4日から5日にかけて長野の白馬岳(2932m)で男性6名が、爺ヶ岳(2670m)で女性1名が、そして岐阜の涸沢岳で男性1名、計8名が尊い命を落としたのです。
ちなみに、女性の遭難事故は「山ガール」がブームとはいえ、全員が60代から70代の中高年の方々でした。
「山ガール」の言葉が表すように、最近は若い女性の間でも登山ブームが起こっていますが、中高年の登山ブームはそれ以前から続いています。が、いくら中高年の登山者が多くても、なぜこうも中高年の遭難者が多く出るのでしょうか。
春山では6月中旬まで雪が降り、吹雪くこともあります。また、標高が100m上昇すると気温は0.6℃低下し、風速1m/秒の風が吹くと体感気温は1℃低下するといわれ、夏山であっても寒さや低体温に対する装備・予防は欠かせません。自身も登山を愛好する60代のある男性は「自分はまだまだ健康で若い体力を保っていると過信せず、年齢と体力に合った装備や登山計画を立てることが大切」と言います。また、山岳医学の専門家は、「中高年者は若者より皮下脂肪が少なく体温を奪われやすく、寒さに対する感受性も低下してきている。慎重かつ万全に装備を整え、無理をしないことが重要」と低体温症への注意を訴えます。また、低体温症は登山時だけでなく、3.11の災害時のような寒い環境においても注意が必要です。
低体温症は中心体温が35℃以下になった状態をいいますが、その症状から程度を推定することができます(表)。処置は身体を温めることが基本になりますが、急に体表面を温めると体表面の血管拡張が起こりショックを起こしたり、末梢血管内にあった冷たい血液が急に中枢側に流れることでさらに深部体温を低下させかねません。低体温症の人が運ばれてきた場合、①保温(乾いた毛布やリネン類、衣類で身体を包む)、②加温輸液、③頸部・腋下・鼠径部などを加温することが処置の原則です。
体温 | 症状 | |
前兆 |
36.6~35.0℃ |
寒気、皮膚感覚の麻痺、筋運動の若干の鈍化(特に手の動きが鈍くなる)が生じ、震えが始まる。 |
軽症 |
35.0~34.0℃ |
筋力の低下や筋肉の協調運動の障害が顕著になる。歩行は遅く、よろめきがちになり、軽度の錯乱状態と無関心状態が現れる。 |
34.0~32.0℃ |
筋の協調運動の障害が激しくなり、よろめいたり、転倒しやすくなる。手が使えなくなる。精神活動が不活発になるため、思考や会話が遅くなる。逆行性健忘が現れる。 |
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中等症 |
32.0~30.0℃ |
震えが止まる。協調運動の障害がさらに激しくなり、身体が硬直し、歩行や起立が不可能となる。思考の論理性・統一性が失われ、錯乱状態に陥る。 |
30.0~28.0℃ |
筋肉の硬直が激しくなる。半昏睡状態(覚醒させるのが困難なことが多い)に陥る。瞳孔が散大し、心拍・脈拍が微弱になる。 |
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重症 | 28.0~26.0℃ |
昏睡状態に陥る。心臓の活動が停止する。 |
16.0℃ |
救命できた成人の偶発性低体温症の最低体温。 |
ちなみに遭難者の捜索は警察や消防が当たりますが、捜索範囲が広かったり、長期間になると民間のヘリコプターや地元山岳会員にも協力してもらうようになります。警察や消防は無料(税金で賄われる)ですが、民間のヘリコプターは1時間45万円から、山岳会員には3~5万円程度の日当が必要になり、捜索に数百万円以上の費用が本人や家族に請求されることがあります。
足元に咲く高山植物などの自然に親しみ、無心に歩を進める登山は、仕事や日常から離れてリフレッシュできる素晴らしいスポーツです。しかし、常に危険と一体であることを意識した備えが必要で、ナースの仕事と共通する点があります。