かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-
2012.5.16 update.
今春の診療報酬の改定で、「院内トリアージ実施料」が新設されました。
今回の加算のポイントと、院内トリアージに携わる看護師に求められる点について、長年救急外来で診察前の患者さんの対応をしてきた藤野智子さん(聖マリアンナ医科大学病院看護部/ 急性・重症患者看護専門看護師/集中ケア認定看護師/)にお話を伺いました。
(聞き手:編集部)
――今回、新設された「院内トリアージ実施料」について簡単にご説明をお願いします。
藤野 「トリアージ」というと災害時のトリアージをイメージする方もいるかもしれませんが、今回の院内トリアージとは別物になります。
一般的な救急外来のトリアージの目的は緊急度(と重症度)の判断が主体になります。重症から軽症までさまざまな患者さんが集まる救急外来で、人員もふくめ限られた医療資源のなかで、緊急度の高い患者さんを優先して速やかに診療へ繋ぐ必要があります。
これまでも小児に対するトリアージが評価されてきましたが、今回の改訂で全年齢層の夜間、深夜、休日の救急外来受診者に対し、患者の来院後速やかに院内トリアージを実施した場合に、初診時のみ100点がつきました(表)。100点というのはかなり大きな数字という印象です。
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(新) 院内トリアージ実施料 100点 |
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[算定要件] 当該保険医療機関の院内トリアージ基準に基づいて専任の医師または専任の看護師により患者の来院後速やかに患者の状態を評価し、患者の緊急度区分に応じて診療の優先順位付けを行う院内トリアージが行われた場合に算定する。 |
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[施設基準]
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(出展:厚生労働省ウェブサイト)
算定のポイントとしては、3点あります。
――これまでもトリアージを行われてきたと思うのですが、今回の加算で変わったことはありますか?
藤野 施設によっては、これまでも看護師がトリアージを行っていたと思いますが、病院によって実態はさまざまです。今回の加算がつくことによって、やることが大きく変わったわけではありませんが、人員配置やトリアージ基準の見直しなどがより明確に可視化されたと思います。
――トリアージ基準は病院によって違いがあるのでしょうか。
藤野 トリアージ基準としては、日本にトリアージを導入する際の参考にされたカナダのCTAS(Canadian Triage and Acuity Scale:カナダトリアージ緊急度スケール)と日本の状況にあわせたJTASという緊急度判定のツールがありますが、現段階ではどのトリアージ基準を使用するかということは、条件には含まれていません。そのようなスケールの導入が義務化されていないため、病院独自の基準でも問題はありません。
ただ、JTASの注目度は高く、セミナーなどを行うとすぐに埋まると聞いています。
――看護師による院内トリアージの対象となる患者は?
藤野 実は、それも病院によって違います。
聖マリアンナ医科大学病院では、ウォークインの患者さんに限り実施しています。病院によっては、電話での連絡や、救急車からの連絡にも看護師が対応するところもあるようですね。おそらく医師の数など体制の違いによるものだと思いますが、救急外来に医師が少ない小規模の病院などでは、必然的に看護師によるトリアージのニーズが高いと思います。
――トリアージを行う看護師に求められる能力とはどのようなものでしょうか?
藤野 一般的に入院病棟では、この人は「胃潰瘍の患者さん」と診断がついているうえで、その患者さんの「吐き気が出た」「脈が早い」といった症状をみていくことになります。しかし、救急外来ではじめて患者さんに接する場合は、当然診断がついていないですし、何も無いところから情報を集めていくわけです。むしろ医師の行なう「診断学」に近いと思います。
ただ、看護師はもともと診断学を勉強していませんし、通常とは“逆”の順序で考えていかなければなりません。
――臨床推論という言葉も、広まってきていますね。
藤野 多くの臨床看護師さんは「呼吸が速い」「脈が速い」と点で見ることができますが、これらの情報を的確に組み合わせて行うことがアセスメントといえます。経験のある看護師が「アセスメントが苦手」と表現するのは、この組み合わせを考えることが難しく、それは「臨床推論」が苦手と言い換えることができるかもしれません。
経験のある看護師が変化に「気づく」のは、現状を経験値に照らしその相違をキャッチするか、通常のパターン認知からの逸脱をキャッチしていることが主体になると思います。もちろん経験だけに頼ると落とし穴もありますので、その気づきの裏づけまたは保証となる思考ロジックを補強することで、「気づき」を強化していけるのではないでしょうか。
――では、そういった能力を身につけるにはどのようなトレーニングが必要でしょうか。
藤野 例えば、トリアージ基準に症状別の判断基準を含めれば、それらをガイドにして行くことが可能でしょう。そのうえで実際の事例として、模擬患者さんをみてもらいトリアージシートを埋めていったり、患者データを渡し、どのようなことが考えられるかディスカッションをするといった方法をとっています。
例えば、虫食い問題を作って、この時どのような情報を知りたいですか?それはなぜですか? というように単に知識の確認にならないようなトレーニングを意識しています。
――アセスメントの話が中心になりましたが、他に求められるものはありますか?
藤野 基本的なアセスメント能力は前提条件ですが、他にもさまざまな能力が求められます。救急外来の対外的な窓口の役目を果たすので、接遇面での配慮も必要です。また、他の医療職と連携していくため、コミュニケーション能力、ネゴシエーション能力も重要になってくるでしょう。病院のシステムや事務手続きも把握しておかないと、スムーズにいかない場面も出てくると思います。
医療面では、急変の対応ができないといけませんし、感染の知識も必要です。
これらのように、知識としても多くのものが求められるだけでなく、院内において総合的に力を発揮できる環境も必要になります。
――トリアージの目標としては何を目指すべきでしょうか。
藤野 ゴールとしては「アンダートリアージを減らす」ことです。そのためには、定期的な振り返りが重要になってきます。気になった症例などを集めておき、ディスカッションしていくことで、トリアージの精度も上がっていくことでしょう。
ただ、アンダートリアージを減らすことと、オーバートリアージを許容することはセットになってきますが、オーバートリアージばかりしているとトリアージの効果が薄れてしまうのでやはり的確なトリアージができるようにすることが重要です。
――今回のお話を聞いて、救急領域のナースに求められる役割が広がっていると感じました。
藤野 そうですね。これまでは問診で聞いたことを医師に伝えるだけだったかもしれませんが、看護師の判断で診療の優先順位を決めるというのは、看護の専門性が評価されたことと言えるでしょう。逆に言えば、それだけ看護師にも、より責任が課せられたとも言えます。
トリアージを行うナースに求められるものは多いですが、今回の加算で活動が可視化され、診断基準なども明確化されますので、より充実したトレーニングを行なわれていくことを期待しています。
――ありがとうございました。