かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-
2019.1.09 update.
2000年に発足し、安全安楽かつ効果的に患者がIVRを受けられるようにIVR看護のあり方を検討する場です。放射線科における看護の臨床実践能力を高めるため専門知識や技術の習得、研鑽をめざし、チーム医療における看護師の役割を追究し、また、IVR看護師の専門性を確立するため、継続して学習する場、人的交流の場を提供することを目的としています。
発足間もなくから開催している研究会(セミナー)は、3月16日に第19回を迎えました。記念すべき第20回は2020年9月12日の予定です!
公式webサイト:http://www.ivr-nurse.jp/
Face book @ivrnurse2016
事例のような理不尽な対応をとり、診療にあたって医療者がストレスを示す感じる患者を、“困難患者(difficult patient)” といい、患者全体の15%を占めるとされています。
しかし、単純に患者だけではなく、患者と医療者の「関係」にも要因があるといわれています。ここでは、患者の要因、医療者自身の要因とその対策を考えます。
患者の要因
まず、患者の要因からいくつか挙げてみます。
「怒る」原因でまず考えられるのは、「長い待ち時間」など、医療を提供する側の問題点ですが、まったく無関係なこともあります。怒るのにはきっかけがあり、それを明らかにすることが解決の第一歩です。
そうでない時でも理解を示し、必ず衝突を避けるようにします。ただし、明らかに理不尽で暴力的な患者に対しては、自分やほかのスタッフを守ることも考えなければなりません。時に逃げることも必要です。
“他人を巻き込む”というか、操作しようとする患者もいます。強迫するように怒る、法に訴えようとするなど、医療者の避けたい部分を巧みに突くことで、自らに有利な方向に運ぼうとします。こんな時はまず自分(医療者自身)が冷静さを保つことが第一歩です。
そして、患者が本当は何を期待しているかを考えます。実はそれほど無理難題ではなく、また正当なことを言っている場合もあります。しかし、やはり無理な要求に対しては、断固として「NO!」と言うことが肝要です。
不自然なほど多くの訴えをするが、そのどれもがあいまいという時は、身体表現性障害の可能性があり、背景として不安、うつ、人格障害がある患者が多いです。こうした患者に対しては、まず定期通院の約束をし、検査や紹介を繰り返すことに利益はないと伝えます。そして、受診時は最初に「今日の問題点は○○ですね」「○○について聞かせていただけますか?」と確認し、そこに焦点をしぼって話をします。
何らかの喪失体験をした患者は、その感情を医療者にぶつけてくることがあります。まず患者に話をさせて共感を示し、少し落ち着いたら「話すことができてよかったですね」と声をかけます。そして通常の悲嘆反応を理解したうえで、誰もが通るプロセスであることを伝えます。ただし、うつなどの徴候を見逃さないようにします。急にライフスタイルを変えようとした時は要注意です。
医療者の要因
次に、医療者側の要因を挙げます。
医療者自身が仕事、あるいは生活にストレスを感じていたり、先行きへの不安を常に抱いたりしていることがあります。まず自分の「トリガー」(苛立たせるきっかけとなる言動)を認識し、患者を前にした時に自分の精神状態を分析することが重要です。
頑張り過ぎて燃え尽きたり、過労、不眠で疲れ果てたりしています。また、仕事に無理に肩入れしてしまう(over commitment) こともあります。自身の疲労が安全性に影響を与えること、真面目に働いている医療者に迷惑をかけてしまうことを認識し、自分の看護(仕事)の範囲を明確にします。
個人的な価値観、医療に対する信念を誇張して優先してしまいます。患者に負の印象を抱かせてしまうだけでなく、患者への正しい情報提示の妨げになることがあります。個人的な価値観や信念をできるだけ抑え、得たままの情報を自らが評価します。
結論
患者と医療者の双方向からの要因があることを意識したうえで、両者の立場に立って考えてみました。
Aさんにとっての入院は、Aさんのこれまでの長い人生を考えると、処置や決められた時刻の食事などの様々な制限・制約があり、病状や治療に対する理解にも限界があったと考えられます。
また看護師にとっては、Aさんと向き合ってケアをしたい思いがあっても危険回避のために相反する思いも抱えてケアを行っていることが考えられました。さらに、背景として、Aさんの入院している病棟では術前の患者さんは、緊急入院、術後患者の対応など緊急度の高い患者に比べると訪室頻度が少なくなりがち、という環境面の問題が考えられました。
その過程で両者に共通する心理状態を、コップの中の水に例えてみます。つまり、コップの水の量を「人の心理状態」に例えるのですが「患者の感情」のコップに水がいっぱいに入っていると、何かきっかけがあると溢れて「怒り」に変わっていくことがあります。逆に言うとコップに水があまり入っていなければ怒りはそうそう生まれないのです。コップの大きさには個人差があります。
Aさんのこれまで培ってきた価値観や思いを継続するためには、Aさんの過去や背景をもとに得た情報からできる限り想像し、Aさんの生活習慣や価値観を捉えていくことが必要です。医療者の提供したいケアをAさんに受け入れてもらうためには、Aさんの過去の背景を活かすことが大切なのです。
Aさんのような、対応に困難を感じた看護師らのゆれ動く姿に関し¹⁾、松田らは自分の思うケアを自由に述べられるような場と看護師をサポートできる病棟責任者の理解が必要であると示唆しています⁵⁾。今後、チーム全体が、特有の患者の受け止めや対応の難しさについて、カンファレンス等で課題を共有できるサポートが重要と考えられています。
今回の事例を「病棟カンファレンス」で振り返ってみると、看護師がAさんの理不尽な訴えを一方的に回避していたことに気が付きました。機嫌が悪くなってしまった原因として、看護師が入院中の看護ケアに加え、疾患、治療の話を病院の都合やスケジュールにあてはめ説明して行うなど、これまでの生活の喪失感に配慮のない対応をしていたことがわかりました。
今回、Aさんへの対応に困惑した経験を通して対応困難な患者の看護を行っていくには、精神的・身体的感情に寄り添い、心理状態を理解しながらゴールにたどり着くまでのプロセスを大切にすることや、自身の心身の状況を客観的に把握しておくことなども必要だと考えるようになりました。
さらに入院期間の短い病棟で、最初の第一印象のまま、撤回されることなく退院してしまうことの多い中、先入観で人を見ないようにするにはゼロポジションに立つことが必要です。同時に、患者さんとのコミュニケーションでも、「聴くこと」「質問すること」「伝えること」、この3つができたら円滑にいくのではないでしょうか。Aさんが捉えている疾患や生活、仕事等に関する周辺状況の根底にある思いを知ることが大切です。Aさんの背景を知ることでスタッフ間でAさん自身のニーズを引き出したりそのニーズを活用するケアを行うことができれば、自然と怒りが改善されるのではないかと考えます。その内容をチーム全体で共有していくには、看護師の固定的な観念に基づいた展開にならないよう工夫し、配慮しながら進めていく必要があると考えられました。
全人的ケアや看護を行うプロを目指すには、最善を尽くし、病院と患者の価値観との妥協点を共に見出そうとする、このような姿勢が大切ではないかと痛感されられました。
(IVR看護研究会 本間美智子)
[引用・参考文献]
IVRに携わる看護師向けの実践的な書物がほとんどない中で、各施設では独自のマニュアルを作って看護にあたっている。その現状を打破するために編集された本書は、医師のIVR手技、看護師のケアが系統立てて解説されている。2007年には「日本IVR学会認定IVR看護師制度」も発足し、ますますIVR看護が期待される中、時宜にかなった実践書。