第34回 「やっぱりね」の落とし穴にご用心!(解説)

第34回 「やっぱりね」の落とし穴にご用心!(解説)

2019.2.15 update.

IVR看護研究会

 2000年に発足し、安全安楽かつ効果的に患者がIVRを受けられるようにIVR看護のあり方を検討する場です。放射線科における看護の臨床実践能力を高めるため専門知識や技術の習得、研鑽をめざし、チーム医療における看護師の役割を追究し、また、IVR看護師の専門性を確立するため、継続して学習する場、人的交流の場を提供することを目的としています。

 発足間もなくから開催している研究会(セミナー)は、3月16日に第19回を迎えました。記念すべき第20回は2020年9月12日の予定です!

公式webサイト:http://www.ivr-nurse.jp/
Face book @ivrnurse2016

 

 

 前回のO看護師の行動や思考を振り返ってみましょう。  

 O看護師は、安全な看護を提供するためにカルテから情報収集をしていたところ、「認知症があり落ち着かない様子のときがある」という情報が気になりました。  

 IVRでは検査台という狭い空間で患者さんに同一体位でいてもらうため、患者さんの協力が不可欠です。そのため、同一体位が保持できないような患者さんには抑制などをして、安全に行うのも1つの方法です。  

 そこでO看護師は、「安全なIVR」を考え抑制を提案しましたが却下されてしまいました。治療が始まり、しばらくすると、もぞもぞし始めた患者Aさんに対し、O看護師が「やっぱりね……」と思いながら、動き始めた理由を聞くのではなく、「動かないでね」「危ないですよ」と一方的に指示し、抑制の準備を始めてしまいました。

 

患者に貼ってしまうレッテル

 

 この「やっぱりね」と思うことに思わぬ落とし穴があります。  

 「やっぱり」とは「思った通り」「案の定」などと同じ意味です。

 思った通り、つまり事前に自分が予想していた方向に物事が進んだときに感じることです。O看護師は事前に入手した「認知症」「落ち着かない」という情報から、ペースメーカ植込み術中も、「落ち着かず、動いてしまうのではないか」と予測をしていました。

 IVR看護師は、次に医師が行う行動や、治療中に起こる合併症などあらゆる事柄を予測し、対応していくことが求められます。だからO看護師のように予測をして行動すること自体はとても重要です。

 しかし、患者さんの「動いてしまうかも」という行動自体を予測できても、なぜその行動をとったのか、こころを持った患者さんの本当の理由や意味を予測するのは難しいことです。幸い多くのIVRは局所麻酔下で行われるため、もし体がもぞもぞと動いていたら、患者さん本人に聞けば、理由を聞くことができます。

 しかし、O看護師は今回、「患者さんに聞く」ことをしませんでした。トラベルビー1)は『人間対人間の看護』の中で「時間の少ない状況で、仕事量が多いような場合、つまり、いっぱいいっぱいの状況の時、看護師は自分の中で必要なことを達成するために優先順位をつくり解決しようとする。その時にエネルギーを節約しようとする防衛的な方策として、人間にレッテルをつけてしまう」いうような趣旨のことを述べています。

 レッテルとは、社会心理学でいう「ステレオタイプ」と同様で、多くの人に浸透している先入観、思い込み、認識、固定観念、偏見、差別などの類型化された観念を指します。例えば、「若い男の人は血を見るのが苦手」とか「O型の人はおおざっぱ」というようなことがよく聞かれます。  

 今回のO看護師は「認知症の人は、指示したことが理解できない」⇒「動かないでくださいと言っても、動いてしまう」⇒「安全にIVRができないから、抑制をした方がいいのでは?」という考えがあり、その思考の原点は認知症に対するステレオタイプな認識だった可能性が考えられます。

 

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患者はかけがえのない1人の人

 

 私たちは対人認知をするとき、得られた情報から他者を何らかのカテゴリーに当てはめて認知しようとし、印象を形成しています。付き合いが長く、いろいろな情報が得られるにつれ、最初に感じた印象から徐々にその人らしさに印象を修正していくことができますが、情報が十分でない時には修正過程を経られず、そのまま人間関係が進んでしまいます。  

 IVRでは、あまり患者さんと事前に接する機会がなく、O看護師のように、カルテ上の情報から患者さんの人物像をイメージしなくてはならないこともしばしばあると思います。しかし、そのイメージを修正せず、思い込みで行動したことで、今回の一方的な対応をしてしまったのだと考えます。  

 トラベルビーは「『その患者』の中に人間を知覚し人間に反応する、そして病人が『その看護婦』という人間に反応するように援助する、これが専門看護婦の職務の1つである」1)と述べています。第8、9回のらんらんIVR看護「社会の中で生きる患者」にもありますが、IVRを受けた患者ではなく、誰それさんという、かけがえのない1人の人が、IVRを受けたという視点をどのような人に対しても、忘れないことが重要だと考えます。  

 

*トラベルビー人間対人間の看護では「患者」という用語もステレオタイプであると述べています。本連載「らんらん♪IVR看護」では、文章を簡略化する意味と架空の事例であることから「患者」という言葉を用いています。

 

(IVR看護研究会 野口純子)

 

 [参考文献 ]

1)Joyce Travelbee:長谷川浩,藤枝知子,訳:トラベルビー 人間対人間の看護.医学書院,1974

2)村田光二,ほか:社会心理学の基礎と応用.放送大学教育振興会,2008

3)森本淳子,ほか:看護場面における認知的煩雑性がステレオタイプ的判断に及ぼす影響.日本看護研究学会雑誌,292):33-412006

4)林智子:“否認”という無意識の患者心理理解における看護師の思考過程の分析―患者心理推測から看護援助へ.日本看護研究学会雑誌,351):67-782012

 

IVR看護ナビゲーション イメージ

IVR看護ナビゲーション

IVRに携わる看護師向けの実践的な書物がほとんどない中で、各施設では独自のマニュアルを作って看護にあたっている。その現状を打破するために編集された本書は、医師のIVR手技、看護師のケアが系統立てて解説されている。2007年には「日本IVR学会認定IVR看護師制度」も発足し、ますますIVR看護が期待される中、時宜にかなった実践書。

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