かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-
2012.6.18 update.
看護師であれば関わった患者さんの死は避けがたいものとしてあります。患者さんを看取り、遺されたご家族をサポートしていくことは看護師の大切な役割です。その一方で看護師自身もまた関わった患者さんとの死別を経験し、大きな喪失感を感じたり、深く傷つくことがあります。そこから立ち直っていくためには看護師にもケアが必要です。
広瀬寛子さんの『悲嘆とグリーフケア』は家族や遺族だけではなくケアにかかわる看護師自身のグリーフケアも含めて論じられた1冊です。今回は『生きる力の源に―がん闘病記の社会学』(青海社)の著者である門林道子さんにこの本の書評を書いていただきました。城南緩和ケア研究会のメンバーでもいらっしゃる門林さんはこの本をどのように読まれたのでしょうか。
書評 多くの人が前向きになれる一冊
門林道子(日本女子大学学術研究員 、昭和薬科大学非常勤講師)
本書は、家族・遺族のためのグリーフケア、遺族のためのサポートグループ、それに看護師自身のためのグリーフケアと3つの部分から構成されている。欧米では一般的に用いられる死別(bereavement)ケアという用語ではなく、“グリーフケア”を用いるというところに著者がこの本を著した目的がより伝わってくる。なぜなら看護師が経験する悲嘆のケアもそこに含めているからだ。患者のサポートグループはがんを中心に現在増えてきてはいるが、遺族のサポートグループは必要性が認識されながらまだ数少ない。
サポートグループを始めたいが、どこから始めたらよいかわからない人に、本書はその気負いを軽減するための方法論を提示してくれる。折々に理論も引用されているが、読者が理解しやすく解説されている点、著者の心配りが感じられる。なによりも1990年代にわが国でいち早く遺族のためのサポートグループを取り入れ、実践してきた著者だからこそ説得力がある。
“回復”とは元の状態に戻るという意味ではなく、新しい環境に適応していくことであり、死別体験をきっかけに人間的に成長していくことも含む。“recovery”ではなく、“adaptation”である。悲嘆をマイナスととらえるのではなく、人間的成長の契機として意味づける。この本には人間の適応力と立ち直る力を意味する“resilience”の考え方が随所にみられる。
参加した遺族の語りがあり、看護師の語りがある。双方から成長と感謝を窺い知ることができ、グリーフケアとサポートグループはまさに「遺族のグリーフケアと看護師のグリーフケアが織りなす物語」であることを実感する。患者が亡くなった時点でケアが終わるのではない。その後も継続し、残された家族が生きていくためのケアを実践することは看護師のモチべーションを高めると同時に参加者の成長の過程から勇気を得ることができる。また、悲しんではいけない、泣いてはいけない、と自分を規制し、苦しい思いをしてきた看護師も、決してそうではないことを教えてくれる。「落ち込むこともある」と肯定的にとらえ、次のステップへと進む過程に大きな意味があるのだ。
幾つもの場面での困ったときのケースを具体的に挙げて、一つひとつ丁寧に書いてある。これらの欄も実用的で、立ち止まることの多いあなたとあなたの仲間に大きな一歩を与えてくれることはまちがいない。
(了)
〈お知らせ〉
『悲嘆とグリーフケア』の著者、広瀬寛子さんが7月28日に講演をされます。
第3回城南緩和ケア研究会・市民のつどい
「悲しみに寄り添う―がんで大切なひとを亡くした方のために」
大切なひとを亡くしたとき、人は悲しみからどう癒されていくのか、どのような援助を必要とするのか、地域で寄り添うためには、どんなケアが考えられるのか、市民の皆さまとともに考えてみたいと思います。
≪日時≫ 2012年7月28日(土曜)13時30分(開場13時) (事前申し込み不要)
≪会場≫ NTT東日本関東病院(4階カンファレンスルーム)
≪参加費≫ 1000円
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