第11回 漢方の副作用を考える【1】

第11回 漢方の副作用を考える【1】

2011.7.15 update.

津田篤太郎

医師。専門はリウマチ膠原病科・漢方診療。2002年に京都大学医学部を卒業し、天理よろづ相談所病院ジュニアレジデント、東京女子医科大学膠原病リウマチ痛風センター、東京都立大塚病院リウマチ膠原病科を経て、北里大学東洋医学総合研究所で漢方を中心に、JR東京総合病院リウマチ膠原病科では西洋医学と漢方を取り入れて診療している。

「副作用」とは何か

 

さて、この欄の読者の方から、多かったご質問の一つに、「漢方薬には副作用はあるのか?」というのがありました。「副作用」という言葉は、「主作用」に対する言葉なので、正確にいえば、「主作用以外の、もうひとつの作用」ということになります。たとえば、肌がカサカサして痒いので、なにかお薬をください、と言われ、ある漢方薬を処方したところ、「先生、お肌も少し良くなったのですが、あのお薬で、お通じもすごくよくなったのですよ!」と喜ばれることもあります。私は、最初、お通じを良くしようと思って出しているつもりではないので、これは正確には「副作用」の範疇に入ります。

  

でも、世間一般でいわれる「副作用」とは、こういう“喜ばしい”現象は入れないことが多いのではないでしょうか?お薬を飲んだことで、思ってもみない、困ったことが起きた。そういう場合に「副作用」ということが多いのではないでしょうか?最近では、こういう現象を「副作用」ではなく「有害事象」と呼ぶことが多くなりました。

 

漢方の有害事象は、大きく分けて以下の4つのグループに分かれます。

 

1.瞑呟(めんげん)

2.誤治(ごじ)

3.有害事象としての副作用

4.薬煩(やくはん)

 

このうち、3番目の有害事象としての副作用だけが、漢方医学の用語ではありません。これは、漢方薬の有害事象のうち、原因物質が特定され、西洋医学・近代薬理学的にはっきりとメカニズムが解明されているカテゴリーです。漢方医学の立場で言えば、ほかの三つのカテゴリー(瞑呟・誤治・薬煩)のどれかに入れてしまうことは可能でしょうが、有害事象としての副作用を頭に入れておくと、原因物質とそれによって予想される反応がはっきりしているので、お薬を出す時に何に注意すべきが明確になります。そこで、私は3つ目の有害事象を他とは区別して考えるようにしています。

 

瞑呟

 

瞑呟とは、薬が非常によく効いたときに、一時的に患者さんにとってつらい症状が出て、そのあとグッと良くなる現象を指します。たとえば、何か毒のようなものを飲んだとしましょう。その時に吐かせるようなお薬を飲ませると、毒が体の外に出て治ります。でも、「吐く」という現象は患者さんにとってはつらいので、これは瞑呟ということができます。江戸時代の有名な漢方医の吉益東洞(よします・とうどう:1702-1773)は、「もし薬、瞑眩せずんば、その病癒えず」とまで言い切って、瞑呟を恐れず強い治療を続けていました。

 

私が学生のころ、試験勉強で「ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応」という舌をかみそうな名前の生体反応を覚えさせられましたが、これは、梅毒やレプトスピラ症といった特定の感染症に対し、抗生物質を使った場合、高熱とともに、悪寒・震え・倦怠感などが出現する、ということが起こることを指しています。なぜこういうことが起こるかというと、抗生物質が病原体を破壊したときに、病原体の「カケラ」であるタンパク質に対して、アレルギー反応を起こすからといわれています。つまり、抗生物質がちゃんと病原体をやっつけているからこういう反応が起こるのであり、この反応をしのぎ切ると、病気はすっかりよくなります。これは、まさしく瞑眩と呼んでいいでしょう。

 

日本を代表する感染症の専門家の、青木眞先生から聞いた話ですが、肺炎球菌の肺炎に対し、ペニシリンといった特効薬を使うと、一時的に熱が上がることがよくあるそうです。肺炎という病気は重くなると、体力が衰えて、熱が十分あがらないこともあるんですが、抗生物質が菌をやっつけて、からだの免疫力が優勢になってくると、今まで出なかった熱が出るようになる、ということなのだそうのです。熱が上がっても、薬が効いていないのだと決め付けて、効いているペニシリンをほかの薬に変えてはいけないよ、と青木先生はおっしゃいました。私は、西洋医学も極めると、漢方に似てくるんだなぁ!と感じ入りました。

 

誤治

 

次に、「誤治」ですが、これは医師の見立て違いにより、その患者さんに処方すべきでない薬を与えてしまったがために起こる有害事象です。なので、「誤治」はお薬が悪いわけではありません。

 

私の西洋医学での専門である、膠原病の領域では、この「誤治」は常に頭を悩ませる問題です。膠原病とは、体を外敵から守ってくれるはずの免疫が、何らかの変調をきたし、自分自身のからだを攻撃することによって起こる病気の総称です。免疫の攻撃がはじまると、多くの場合、お熱が出ます。ところが、よそから病原菌が入ってきて、免疫がそれを防ぎきれず菌が増えることがあっても、やはりお熱が出ます。つまり、免疫の働きはいき過ぎがあっても、働きが低下しても、発熱しうる、ということなのです。

 

病原菌が増えてきているのに、「免疫が暴れている」と間違って診断し、免疫を抑える薬を患者さんに処方したら、どうなるでしょうか?病原菌はますます増殖し、患者さんの病態は一層悪化して、取り返しのつかないことになりかねません。これが「誤治」です。

 

漢方の古い教科書には、「誤治」をしてしまって、こじれてしまった病態(「壊病(えびょう)」といいます)に対して、どのように対処したらいいか、いろいろ記載があります。西洋医学では”To err is human”(人はミスをする生き物だ)と叫ばれ、ミスをする前提に立って医療安全対策を立てるようになったのは、ここ10年20年の話です。漢方の世界では、西洋医学のように、数字ではっきりとわかる検査を用いてこなかったので、ある程度「誤治」というものを織り込んだ治療が、ずいぶん昔から工夫されてきました。

 

今回はここまで。次回は残り2つの有害事象についてお話をしましょう。

 

 

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