第9回 二日酔いに負けない

第9回 二日酔いに負けない

2011.5.27 update.

津田篤太郎

医師。専門はリウマチ膠原病科・漢方診療。2002年に京都大学医学部を卒業し、天理よろづ相談所病院ジュニアレジデント、東京女子医科大学膠原病リウマチ痛風センター、東京都立大塚病院リウマチ膠原病科を経て、北里大学東洋医学総合研究所で漢方を中心に、JR東京総合病院リウマチ膠原病科では西洋医学と漢方を取り入れて診療している。

黄連解毒湯

 

二日酔いに効くということで有名な漢方としては、黄連解毒湯という処方と、五苓散という処方と、二つあります。この二つの処方、漢方医学的にはかなり異なった作用をもつ薬です。黄連解毒湯は、黄連・黄芩・黄檗・梔子という四つの生薬からなります。この生薬はどれも非常に苦いのですが、苦い薬は胃の調子を調える作用があるものが多く、「苦味性健胃薬」という言葉もあります。特に、黄連や黄檗は、下痢にも有効で胃腸炎の治療に良く使われます。おそらく胃だけではなく腸の粘膜を保護したり、炎症を和らげる効果があるようです。アルコールは粘膜にとっては害のあるものなので、お酒を飲んだ後の胃は大なり小なり胃炎を起こしています。まず、それを修復する作用が黄連解毒湯にはあるということですね。

 

さらに、黄芩という薬は、消炎作用とともに、肝臓の働きを正常化する作用があるといわれます。ひょっとしたら、アルコールやアセトアルデヒドを分解する、すなわち“解毒”する肝臓の働きを助けているのかもしれません。

 

黄連解毒湯にはもうひとつ、梔子、クチナシの実が入っています。クチナシの実を煎じると鮮やかな黄色が出てくるので、天然の着色料として衣服を染めたり、食べ物、たとえば栗きんとんなどにも使われていました。梔子はどんな作用があるかというと、「心中懊悩」、すなわち胸のあたりが苦しくて夜もゆっくり休めない、という症状に効くといわれています。解剖学的に言うと、食道のあたりに効くのだろう、ということになります。アルコールは食道の粘膜も荒らすはずなので、そういう意味では理にかなっています。

 

梔子にはほかにもいくつか面白い使い方があって、ある消化器の先生は、胃カメラをする前に、利膈湯という梔子が入った処方を患者さんに少し飲んでもらって、検査をすると、ほとんどむせないでカメラを飲んでもらえる、という話をしていました。また、「心中懊悩」=恋の悩み、と見做して、相談にやってきた若い医局員に梔子の入った処方を与えたところ、めでたく看護婦さんとゴールインした、なんていう大学の先生もいました。これは本当に薬の作用なのかどうか、疑わしいですが…

 

とにかく、黄連解毒湯は、消化器の状態を調え、アルコールやアセトアルデヒドといった二日酔いの原因物質の分解を促して、症状を良くする、という作用があります。

 

五苓散

 

もう一方、五苓散は、茯苓・白朮・沢瀉・猪苓・桂皮の五つの生薬で構成される処方です。このうち、白朮という生薬が、ホソバオケラという植物の根茎で胃腸の働きを調え、水分の吸収を促します。余談ですが、京都の八坂神社では、元日に白朮詣り(おけらまいり)という祭事があり、神社の境内で一晩中、白朮に火が灯されます。お参りに来た人は持参した火縄に火を移し、消えないように火縄を振り回しながら自宅に帰り、台所のコンロに火縄で火をつけてお雑煮を作り、一年の無病息災を願うのです。これも、いかに日本人が「水滞」に悩んできたかを反映する風習ではないか、と思います。

 

五苓散の話に戻します。茯苓は、マツホドという、松の根に生えるキノコの一種です。白朮と協力して胃腸の働きも整えますが、胸部の水分代謝を活発にして、胸水や痰を減らしたり、心臓の負担も軽くする作用があると考えられています。二日酔いの場合は、肺からの吐く息に乗って、アルコールやアセトアルデヒドが蒸散されるということもあるかもしれません。

 

沢瀉は、オモダカという水辺の植物の根で、昔の人は、田んぼや沼地のような湿気の強い土地でも青々とした葉を付けるオモダカを見て、水滞に効く薬かもしれない、と考えたようです。沢瀉の得意範囲は、首から上の臓器で、水滞によって起こる耳鳴り・めまい・頭痛に効くといわれており、二日酔いの症状のうち、頭痛を改善するのは沢瀉の役割だと思われます。

  

猪苓は、チョレイマイタケという、ブナやナラの木に生えるキノコの一種です。これは下半身が守備範囲で、利尿作用に優れる薬です。実は、五苓散の「苓」は猪苓のことだと言われていて、水滞治療の主役だとみなされています。

 

利尿薬を水分過剰の治療薬の主役と考えるのは、西洋医学と同じですが、胃腸の水分吸収を改善する白朮、胸部の水分代謝を活発にする茯苓、頭部の水滞症状を解消する沢瀉、と脇役がバラエティー豊かなところが、漢方の特徴の一つだと思います。しかも、気の巡りを良くする桂皮を配剤することにより、ほかの4つの生薬の作用を十分に引き出す工夫がされています。私は五苓散の処方構成を見るたびに、昔の人は本当に偉いなぁと、脱帽する思いを深くします。次回は、五苓散のように、「気」「血」「水」をまたがって生薬が組み合わさっている処方について述べていきたいと思います。 

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