オンナに効く漢方 第1回

オンナに効く漢方 第1回

2010.10.08 update.

津田篤太郎

医師。専門はリウマチ膠原病科・漢方診療。2002年に京都大学医学部を卒業し、天理よろづ相談所病院ジュニアレジデント、東京女子医科大学膠原病リウマチ痛風センター、東京都立大塚病院リウマチ膠原病科を経て、北里大学東洋医学総合研究科で漢方を中心に、JR東京総合病院リウマチ膠原病科では西洋医学と漢方を取り入れて診療している。

 

オンナに効く漢方ってあるんです(前口上)

 

女性と漢方…と言われて、真っ先に思い浮かべるのが「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」ということわざです。一般には、美人を花にたとえた表現といわれますが、ある漢方の先生が、これには漢方の生薬が織り込まれているよ、とおっしゃるのを聞いて、本当だ!と驚きました。

 

 

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芍薬は漢方でもっともよく使われる鎮痙薬であり、生理痛に対する処方によく入っています。牡丹は根の皮を「牡丹皮」として使用し、月経困難に対してよく処方されます。百合はやはり根の部分(鱗茎)を使用します。ユリについては、百の症状が合わさったような不定愁訴症候群を百合病(ひゃくごうびょう)と呼び、その百合病に効く生薬だからユリに百合の漢字が当てられた、という説があります。ということは、「立てば芍薬…」には、女性は生理痛・月経困難・不定愁訴に悩まされる生き物だ、という含意があるようにも思えます。ちょっとうがった見方ですが…。

 

落語にはオフィスレディは出てきません

 

東京のど真ん中で外来をやっていると、普段は肩で風を切って歩いているようなオフィスレディを診る機会が多いのですが、そういう患者さんたちの訴えや症状には、ある傾向があるように思います。これは私の漢方診療におけるバイアスに左右されているのかもしれませんが、症状の訴え方が一見ばらばらで、非常にバラエティに富んでいるにもかかわらず、気が付いたらわずか数種類の処方のどれかを選択しています。興味深いことに、同じ東京でも、オフィスレディがほとんど来ないところで外来をやっていると、これらの処方を出す頻度がぐっと減ります。そう考えると、よく使われる漢方処方や生薬の薬効に、現代女性のライフスタイルの特徴を知るための隠されたヒントがあるような気がします。

 

私は落語を聞くのが大好き(特に上方のものを…)です。落語を聞くと昔の日本人がどんな姿だったかの描写がされています。たとえば、旅籠でパートタイム出稼ぎをしている農家の女性はこうです。「目が小そうて口が大きい、頬べたが高うて鼻が低い、“おたやん(お多福)こけても鼻を打たん”ような典型的な日本美人」「足がまた大きゅうございます。手とそろいになっております。十六文の甲高。ただ今のサイズで言うと30は超すんじゃないでしょうか、大きな足でございますよ!こんな大きな足に合う足袋がございませんからね、年中素足でございます。水にぬれては土を踏むものでございますから、踵へさしてアカギレというものが切れるのでございます。アカギレ・シモヤケ、これも懐かしい言葉になりましたねぇ…」「おなかが前へこう、ボぉーっとせり出して、おしりがこう…あの、なんですよ、この辺はお尻というような生易しいもんではありません。ここらを、オケツというんでございましょうね。ケツもケツ、今ゲツ来ゲツ再来ゲツ、伊達の大傑、天下の豪ケツ、ケツ喰らえ、いかなる裁判官もこのケツだけには判ケツを下しかねたという…」

 

最近はこういう方を東京近辺でお見かけすることはほとんどなくなりました。スレンダーで色白で、眉目秀麗の美人の方が本当に増えました。美人が増えるのは男性にとっては喜ばしい話ですけれども、こんなに増えたのはここ10年15年ぐらいの話じゃないでしょうか?その裏には、現代日本女性の急激なライフスタイルの変化が隠されていると私はにらんでいます。

 

 

がん研究センターの統計では…

 

 

 国立がん研究センターから、日本人女性で大腸がんが増えているという統計が出されました。それによれば、平成16年以降、結腸がんと直腸がんを合わせた大腸がんの死亡数は胃がんを抜いて第1位になりました。大腸がんが増えた要因の第1に挙げられたのは、食事の内容でもなく、便秘でもなく、なんと運動不足でした。

 

たしかに、考えてみれば、現代日本女性は、人類史上まれにみる「運動不足集団」かもしれません。落語に出てくる農家の女性は、腰まで田んぼに浸かって田植えをし、雑草を刈り、収穫も一切手作業でした。洗濯一つとっても洗濯板1枚ですべてやっていたし、水汲みの手間といったら!井戸が近くにあればまだいい方で、遠いところまで水汲みに行っていた人も多かったでしょう。料理もお風呂も火を起したり薪を割ったりするのがひと作業、子沢山の大家族では戦争状態だったでしょうね。

 

こういう状況では、毎日重労働なので、自然と食事の量も多かったろうし、たくましくなって快眠快便、結果が、手も大きい足も大きい、おなかもオケツもでっかい女性…ということになります。ところが、今はどうでしょう?毎日お仕事は田んぼ…じゃなくて、満員電車に押し込まれての“痛”勤。座れれば、前夜の疲れがたたってコックリコックリするのかもしれません。仕事も事務作業なら座ったまんまのことが多いだろうし、重い荷物を持って…という作業もほとんどないのでは?立ちっぱなし、というのはあるかもしれませんが、山を越えて隣の村まで徒歩で往復…なんてことは都会の生活ではあろうはずがありません。

 

当たり前ですがライフスタイルは変わっています

 

昔に比べ、動物性脂肪や蛋白の摂取量が増え、ビタミンもわりあい気を配っていますし、なにより日光に当たらないので、お肌はとってもきれいです。軟らかい食事が多いと顎の発達がほどほどで、顔もほっそりします。体つきも華奢なひとが多いのは、運動不足以上に、痩身をもてはやすメディアに影響されている、という事情もあるのかもしれません。

  

おそらく数千年の間、日本は農耕社会で、落語に出てくるような女性のライフスタイルが主流でした。人間の体のつくりも、そういうライフスタイルにゆっくりと適応して「進化」してきたはずです。ところが、そのライフスタイルがわずか数十年でひっくりがえってしまった。そうなると人間の体は不適応を起こすはずです。そのひとつの現われが「大腸がんの増加」であったのではないか?と私は考えています。

 

さて、ながい前口上になってしまいましたが、次回はこうした社会の変化にさらされている女性のみなさんに効く漢方について、少しずつ紹介していきます。

 

第2回はコチラから

 

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