オンナに効く漢方 第3回

オンナに効く漢方 第3回

2010.11.04 update.

津田篤太郎

医師。専門はリウマチ膠原病科・漢方診療。2002年に京都大学医学部を卒業し、天理よろづ相談所病院ジュニアレジデント、東京女子医科大学膠原病リウマチ痛風センター、東京都立大塚病院リウマチ膠原病科を経て、北里大学東洋医学総合研究所で漢方を中心に、JR東京総合病院リウマチ膠原病科では西洋医学と漢方を取り入れて診療している。

前回は「気虚」と「水滞」について触れました。今回は「気」についてちょっと深めてみたいと思います。

 

 ■「気のせい」とは云うけれど

「病は気から」、と云いますが、この言葉をどういう意味で使ってらっしゃるでしょうか?あなたの具合の悪さは体の異常によるものではないよ、大丈夫、心配ない!という軽い励ましのような感じで使われていることが多いと思います。それは錯覚だよ、実体のないものだよ、という時には「気のせい」といったりしますね。

 

西洋医学では、患者さんの訴えがいろいろな検査の結果の異常として現れてこなかったり、検査結果と一致しない時、「気のせい」という言葉はとても便利です。それで納得し、ホッとしてくださる患者さんも多いです。

 

しかし、それでも自分の感じている具合の悪さを何とかして欲しい!と患者さんがおっしゃる時はどうでしょうか。西洋医学は、形のないもの・測れないものを扱うことがとても苦手です。ヴィジュアル・アナログ・スケール(VAS)のような物差しを使って患者さんの訴えをなんとか「測れるもの」に変えていく努力をするか、さもなければ立ち往生してしまいます。

 

かつて、ヒステリーと呼ばれた病気があります。この病気は些細なことに感情的になったり、過剰に怒りっぽくなったりするものと誤解されていますが、精神医学での本来の意味は、心の中の不快な感情、不満、葛藤などを、言葉で表現するのではなく、身体のいろいろな症状で表現することをさしていう言葉でした。医者は身体的な病気を疑って検査をいくらやっても、何の異常も見つからない、そういう患者が女性に多いことから、“子宮”という意味のヒステリーという名前がつけられたのですが、まさに「気のせいだ!」と言いたくなる病気ですね。

 

■「気」とは何ぞや?

漢方医学では、「気のせい」が出発点になります。昔の人は、体の中をめぐりながら正常な体の機能をささえる3つのものがあると考えていました。それが、気・血・水です。このうち血と水は、血液と水分と考えてもらってほぼ差し支えないので、イメージしやすいのですが、「気」だけが目に見ることができず、現代医学でも位置づけが困難な概念です。そのため、「気」=実体のないもの・思い込みのようなものというイメージが定着し、あなたの症状は実体がないものである、という代わりに、「気のせいだ」といわれるようになったと思われます。

 

photo by suneko「気」には、空気・大気のように、気体・ガスという意味があります。風が風車を動かすように、目に見えないけれど体中をめぐってエネルギーを生み出すものを「気」と呼び、昔の人はそれをガス状のものであると想像したようです。元気いっぱい、とか、元気が出ないとかいう表現は、体の中のエネルギーが多い・少ないを表します。ガスを表す「気」の字を使っていることから、エネルギーはタンクに溜まるガソリンのイメージではなく、風船のようなものに気体が詰まっているイメージで、気が不足するとガスの抜けた風船のようにシナッと萎れるのだ、ということになるわけです。これを漢方の用語で「気虚」といいます。

 

また、胃の調子がなんとなく悪くて、げっぷが良く出るようなときや、おなかの中にガスが溜まって、それがうまく出ず、張ってシクシク痛むといった症状は、気がおなかの中で滞っている、と考えます。これを漢方用語で「気滞」といいます。げっぷやガスをうまく体の外に出せると、すっきりした感じがしますが、ガスが出る前は、なんともうっとうしい感じが続きます。そこから、わけもなくふさぎこんだり、落ち込んだりする気持ちが長く続くとき、昔の人はこれを「気鬱」と呼んで、エネルギーがうまく回っていかないから、そういう気持ちになるのだ、と解釈しました。まさに、“気のせい”だ、ということです。

 

ちなみに、うつ病は英語でデプレッションといいますが、デ+プレス、すなわち「下に押される」という意味に由来しますから、鬱陶しい・胸がふさがる、というよりは、沈む・ヘコむというニュアンスに近いと思われます。体をめぐる「気」というものを前提としない考え方から生まれた単語と言えます。

 

■さて、どうしましょう

では、「気虚」「気滞/気鬱」に対して、漢方ではどのような治療を行うか、ということですが、簡単にいえば、前者には気を補い、後者には気をめぐらせる、ということになります。

 

現代では、元気が不足したときには栄養ドリンクやビタミン剤などを摂るひとが多いですが、昔の医学書をみると、「まずはしっかり食事をとってゆっくり休養すること」と当り前のことが書いてあります。そのうえ、本によっては、あまり薬に頼りすぎるなとか、薬は食事や休養の代わりにはならないとか、漢方薬に魔法のような効果を期待しているひとにはガッカリな記述が見られます。

 

photo by kimi-でも、漢方には、気を補う薬(補気薬)というのがちゃんとあって、人参や黄耆といった生薬がその代表選手ですが、人参は弱った胃腸の機能を回復させる薬で、黄耆は異常な発汗を正常化させて皮膚の機能を整える薬です。つまり、漢方で治療の対象となる気虚は、胃腸が弱って食物をうまくエネルギーに変換できなかったり、発汗がひどくて消耗が異常に激しかったりで、普通に食事や休養をとったのでは追いつかない場合の気虚、ということになります。人参や黄耆ほどではないですが、食品であるナツメの実(大棗)やもち米(粳米)にも気を補う作用があります。参鶏湯(サムゲタン)という韓国料理があって、鶏の内臓を取り出して人参・ナツメ・もち米などを詰めて煮た料理ですが、胃腸の働きを回復させつつ、カロリーの高い鶏肉を摂るわけですから、「気虚」の治療としてまことに理にかなっています。

 

外来で、すぐに疲れる・だるくなる、という訴えで来られる患者さんをよく診ますが、診察して本当に胃腸や皮膚の機能が落ちている場合は、人参や黄耆の入った薬をお出ししますが、大きな緊張を強いられている人や、むしろ気滞や気鬱に近い人も同じように疲労感を訴えることがあり、その場合は薬を適切に選ぶ必要があります。 

 

じゃあ漢方では具体的にどのような方法で治療を行うのでしょうか。次回はその辺についてお話ししたいと思います。

 

第4回はコチラから

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