第6回 血についてもう少し考えてみる

第6回 血についてもう少し考えてみる

2011.1.12 update.

津田篤太郎

医師。専門はリウマチ膠原病科・漢方診療。2002年に京都大学医学部を卒業し、天理よろづ相談所病院ジュニアレジデント、東京女子医科大学膠原病リウマチ痛風センター、東京都立大塚病院リウマチ膠原病科を経て、北里大学東洋医学総合研究所で漢方を中心に、JR東京総合病院リウマチ膠原病科では西洋医学と漢方を取り入れて診療している。

前回は「血虚」についてざっとお話ししました。あちらこちらに話も飛んだので、少し話を戻して深めてみようと思います。

 

瘀血 をどうするか

 

瘀血では先ほど挙げた下腹部の圧痛点以外に、どんな症状が出るのかをお話ししましょう。瘀血でも顔色が悪い、という症状がありますが、血虚の青白い、「顔色を失う」といった感じとは違い、浅黒く土気(つちけ)色になります。それから、目の下にクマが出来やすくなったり、唇や舌、歯ぐきの色が暗い紫色になるなどの症状も瘀血の現われと考えます。私は診察の時、舌の裏を診せていただくのですが、瘀血体質の人は静脈が隆々と浮き出ている人が多いようです。

 

先述した子宮筋腫などもそうですが、生理の前になると頭痛がする、イライラする、気分がふさぎこむといった症状(月経前症候群)や、閉経前後でひどくのぼせたり、体のあちこちが痛むなどの更年期症状は、むかし「血の道症」といわれ瘀血によるものと考えられてきました。また、アトピー性皮膚炎や喘息、肥満などの慢性疾患で、一通りの治療をしてうまくいかない場合、「裏に瘀血が潜んでいるのではないか?」と考えて駆瘀血薬を使うと一気にうまくいく場合があります。ある漢方医は、「私は慢性疾患の成人女性の患者を診る時、一律に駆瘀血薬を1週間飲ませてから漢方診断をする。そうすると治しやすくなる。」と断言する人までいます。

 

瘀血を改善する薬としては、前回述べた川芎のほか、桃仁(桃の種)、牡丹皮、紅花などがあります。紅花はよく染めもので使われ、紅花染めの肌着や帯を身につけると血行が良くなり、体を暖めるといわれます。これらの薬で良くならないような、非常に頑固な瘀血症状に対しては、虻虫(アブ)・?虫(ゴキブリの一種)・水蛭(ヒル)といった動物性の生薬を使うこともあります。そんな気持ちの悪いものを使うとは…やっぱり漢方は怪しい!とお感じになるかもしれませんが、ヒルから分離されたヒルジンという物質は、欧米ではすでに血栓症の治療などに使われている薬品です。昔の人は、ヒルに血を吸われたときに、ヒルの体中で血がなかなか固まらないのを見て、薬として利用することを思いついたのでしょうね。

 

駆瘀血薬は、妊娠中に使うことは避けるべき、ということになっています。妊娠中での血行促進は分娩促進に働く可能性があるからです。(ただし、当帰芍薬散は例外で、安胎の薬といわれ、流産防止目的で使われます。)私の漢方の師匠である花輪先生は、予定日を過ぎても奥様に出産の兆候が現れなかったため、桂枝茯苓丸という駆瘀血薬の入った処方を用いて無事に出産された経緯を著書に書いておられます。(花輪壽彦著「漢方のレッスン」金原出版)

 

昔の産婆さんの考え方では、出産自体を「悪い血が出る」といって瘀血の改善に結びつく出来事と捉えるようです。西洋医学では、妊娠によって生理が止まることが子宮筋腫や内膜症の進展を防ぐという考え方なので、微妙な隔たりがありますが、現代女性の少子化・晩婚化により瘀血や子宮筋腫が増えると言っている点では共通していて、興味深いところです。

 

便秘とか痔とか…

 

もうひとつ、現代女性に多い悩みである便秘、これも瘀血にとってはよくありません。便秘を慢性的に抱えていると、痔になりやすくなりますが、なかでもいぼ痔(痔核)は肛門での静脈瘤ですから、瘀血そのものです。さらに、不潔になりやすいところですから、細菌感染を起こすと非常に腫れて痛みます。漢方ではこういった場合、駆瘀血薬に大黄という下剤を合わせて処方します。お菓子作りが得意な人は、ルバーブという食材をご存知かもしれませんが、ルバーブは大黄の茎の部分にあたります。

 

大黄は「将軍」というあだ名がある生薬で、腸内に悪玉菌がいると殺菌、及び瀉下作用(下痢を起こさせる)を示し、悪玉菌がいなくなると逆に収斂作用(下痢を止める)を示すという大変「頭のいい」薬です。江戸時代の医師は、感染性胃腸炎で下痢をしているとき、初期のうちならよく大黄を使いました。西洋医学なら下痢に下剤を出す治療など考えられませんが、昔の漢方医はお腹の中に将軍を送り込んで悪者を退治するイメージで大黄を使いこなしていたようです。大黄にはさらに、精神を安定させる作用があると考えられています。今でも「頭に血が上る」というような言い方をしますが、瘀血が絡んでいる精神疾患には好んで大黄が使われました。

 

日本の漢方医には大黄のファンが多く、自分の健康管理にも愛用する人が多いようです。かく言う私も大黄甘草湯という薬を頻繁に飲むのですが、お通じが良くなっただけでなく、風邪をひきにくくなったような気がします。お腹の中に善玉菌が増えていて、免疫に良い影響があるのかもしれません。大黄は多彩な作用があるのですが、これらは水の中でグツグツ煮出した場合の作用で、紅茶のティーバッグのように、熱湯にさっとくぐらせて服用すると、こんどは血止めの作用を発揮します。三黄瀉心湯といって、大黄・黄芩・黄連という、三つの「黄」の字が入る生薬で構成される処方があり、鼻血が止まらないといった場合に使われます。かつて、戦争に行く兵士に「ふりだし」といって、三黄瀉心湯を配り、負傷した時は応急手当てで、熱湯でさっと薬を作って飲んだのだそうです。

 

ここまで「血」についてお話をしました。次回は「水」のお話から始めたいと思います。 

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