がん患者のための食事レシピ No.001

がん患者のための食事レシピ No.001

2010.11.22 update.

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プロフィール

川口美喜子
島根大学医学部附属病院臨床栄養部副部長・管理栄養士。1981年大妻女子大学家政学部卒、1993年、島根医科大学研究生(第一内科)修了、博士(医学)学位取得。島根大学医学部附属病院栄養管理室室長を経て、2005年より島根大学医学部附属病院NST(栄養サポートチーム)の構築と稼働に携わる。2007年より現職。
病院栄養士になってから、食事に悩む患者さんのために患者さんに寄り添える栄養士が必要だと感じていました。そんなとき、院内で事務職に就いていた青山栄養士に出会い、共に歩んでくれるように説得しました。青山栄養士は辛い思いをしながらも、楽天的で無頓着な私と活動を共にしてくれました。最近は、私よりも強く逞しく大きな心で食の奥深さを語ってくれます。親子ほど年の離れた私たちで、患者と家族の体と心を和ます命を繋ぐ病院食を考えていこうと思います。

青山広美
日清医療食品(株)島根大学医学部附属病院事業所・栄養士。2004年、島根県立女子短期大学卒、2004年日清医療食品(株)入社、現在にいたる。
初めてがん治療に苦しむ患者さんに会った時、「今は食欲がないから何もいらない」「治療が辛くて食べる気分にならない」「食べられないから来なくていいわ」と言われることばかりでした。「食欲はないけど、私は生きるために食べたい」という言葉に驚きとショックだったことを覚えています。毎日が特別な食事ではないけれど、患者さんのその日、その時食べたい希望に合わせた調理は、人を思うやさしい料理になると思います。

がん患者の食事というと、みなさんはどのようなイメージをお持ちでしょうか。がんによる体力の消耗や化学療法の副作用によって、徐々に経口摂取では十分な栄養を取ることができなくなり、経管栄養や静脈栄養に移行する。そうしたイメージが強いのではないでしょうか。

 

しかし、患者に合わせたレシピを工夫していくことによって、口から食べる喜び、楽しみを続けることは可能です。この連載では「口から食べることを諦めない」をテーマに、当院で実際にがん患者さんに提供しているレシピを紹介します。

 


レシピNo.001 白身魚入りふわふわ卵焼き

 

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対応
嚥下困難、食欲不振などの方を元気付けるレシピ。ちょっと変わった卵料理として提供しつつ、多くの食材を摂取できる。魚の匂いが気になって食べられない方にもお勧め。

 

レシピの背景
このレシピは、下咽頭癌術後、放射線療法施行後、咽頭痛、頚部痛、嘔気、食欲不振のあった患者さんに提供したものです。気管切開のため、会話は筆談で行いました。

 

調理のポイント
気管切開を行っているため、食事を飲み込む時に切開口から食べ物が出てしまうことがありました。これを防ぐため、食べ物の固さや形態、口腔内でのまとまりやすさに気を配る必要がありました。

 

管理栄養士としての患者さんとの関わり
医師から抗がん剤治療開始の説明を受けた不安から、食欲不振となりました。受け持ち看護師からの情報では、そのときの気分で、食べたり、食べなかったりするようになったとありました。患者の気持ちを少しでも和らげたようと、病棟訪問の頻度を増やしたところ、会話も次第に多くなり、自分のことを話されるようになりました。

この際、患者さんの嗜好、家でよく食べていたものなどを聞き、その後の献立の参考にしていきました。ただ、食欲のない時には、食べ物のことを聞かれるのは患者さん負担になるため、体調、表情には充分気を配りました。食欲がなく、食事をほとんど食べていないため、ふたを開けたときに「美味しそう」と喜んでもらえる、見た目のよい料理をめざしました。

 

レシピ(3人分)
一人当たりエネルギー:303kcal たんぱく質 11.7g  塩分1.2g

 

<材料>
 白身魚 100g(青魚は、匂いが強く不向き)
 卵 2個
 ほうれん草の葉先 60g
 人参 30g
 マヨネーズ 30g
 薄口しょう油 10cc
 生クリーム 15g
 だし汁 90cc(かつをと昆布。生地の固さを調整しながら入れる)
 片栗粉 6g(小さじ2)

 

<作り方>
 (1)魚は蒸してほぐす。人参と茹でたほうれん草はみじん切りにする。
 (2)ボールに卵を割りほぐし、(1)の材料と調味料、だし汁を加えて混ぜる。
 (3)アルミカップに入れ、コンベクションで蒸し焼きにする。

 

フライパンで作る場合は、卵液に入れるだしの量を多めにして、スクランブルエッグを作る要領で卵を炒って餡かけにする。だしの量でしっとり感が違う。

 

患者さんの反応
患者さんから「ふわふわしていて食べやすかった。飲み込みも大丈夫だった。味もしっかりしていて美味しかった」という反応がありました。

 

アレンジのアイデア
食欲がなく食べる量が少ない患者には、一口でいろいろな食品が食べられるように野菜をみじん切りにしてたくさん入れてもよいでしょう。カロリーアップのために、生クリームやマヨネーズあるいは、必要な方はマクトンオイル※を入れてもよいと思います。マヨネーズを入れると味がしっかりして、食欲のない時にも食べやすいでしょう。

 

お役立ち製品 

マクトンオイル(キッセイ薬品工業)・・・体内で速やかにエネルギーに代わり蓄積脂肪になりにくい液体油脂。油っぽさが少なく、口当たりがさっぱりしている。

 

感想は下記コメント欄、ツイッター@igskankan2010(ハッシュタグ#ganrecip)までどうぞ!

 

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No.001 白身魚入りふわふわ卵焼き

No.002 ふわふわオムライス

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