連載最終回は、ファッションの強みを活かしたお話です。
患者さんとファッションの話をしていると、
人から言われて嫌だった言葉や、
ご自身でネガティブな意味合いで使っている言葉に出会うことがあります。
しかし、ファッションの強みは多様性。
意外性もかえってお洒落になります。
ネガティブな言葉も、「むしろありじゃない?」
というポジティブ変換ができるはず。
今回は、筆者が今までに出会ったネガティブ言葉を、
ポジティブ変換してみます。
そんな袴みたいなの穿いて
下肢のリンパ浮腫の方のお話です。
以前、浮腫を隠すために職場で
ワイドパンツを穿いていたら、
「そんな袴みたいなの穿いて」と同僚から言われ、
嫌な思いをしたそうです。
同僚に他意はなかったかもしれませんが、
気にしている方は、好きで穿いてるんじゃないわ!
というネガティブな気持ちになってしまうことも。
さて、この「袴」ですが、よくよく考えると袴にネガティブな意味はありません。
袴の歴史をたどると、平安時代以来、
一定階級以上の女性が着用していたものだそうです。
十二単でも、袴を着けていますね。
一時衰退したのち、再び脚光を浴びたのが明治時代。
西欧文化導入とともに、
椅子に座ったり、歩き回ったり、
自転車に乗ったりする生活スタイルが普及し、
女性も着崩れにくく動きやすいよう、
袴を着用するようになったようです。
特に、教師などの公務員や工場で働く女性など
外出するキャリアウーマンの定番になり、
宮仕えの服としての意味があることから、
意識の高い働く女性に愛されてきたと言われています。
こういう歴史を見てみると、女性の袴がより格好よく思えます。
女学生のイメージも強いですね。
大正時代の女学生を描いた
漫画『はいからさんが通る』は有名ですし、
筆者自身も、大学の卒業式では袴を身に着けました。
上でお話ししてきた袴の歴史は、
実は男性用の袴を女性が身に着けるところから始まっているものです。
女性用の袴は、明治時代に女学生向けに考案されたと言われています。
一説には、学校によって色が異なり、
その色によって、海老茶袴、紫衛門、などの言葉があったそうです。
ちなみに、タカラジェンヌの袴は深い緑ですね。
明治時代当時も袴のアレンジはさまざまで、
あえて金属バックルのベルトをあわせた意外性あるスタイルも
流行だったようです。
その名も「チャンピオンベルト」。強そう。
そして現代ですが、
インターネットで「袴 ファッション」と調べると、
「袴パンツコーデ」といった形で、
ワイドパンツやロングスカートのコーディネートが
たくさんヒットします。
今も、「袴」というキーワードでお洒落は楽しまれているんですね。
このような背景を見たうえで、
もう一度「袴みたいなの」という言葉を聞いたとき、
「お洒落でしょ?」「キャリアウーマンですもの」という返答が浮かびます。
(筆者だけかもしれませんが)
ポジティブ100%とは言えずとも、
少しでもネガティブな気持ちが軽減されるなら、
たいへん嬉しいです。
次の例に行きましょう。
「ダボシャツ」しか着られなくなった
お次は、上肢のリンパ浮腫の方のお話。
「ダボシャツ」という言葉に出会いました。
ご自身から、「ダボシャツしか着られなくなった」と、
半ば諦めのような言い方で発せられた言葉です。
腕がむくんで、お洒落な服が着られない、
ダボシャツしか着られない、ということです。
ダボシャツは、名前の通りダボっとした作りのシャツです。
お祭りに参加する人が着るもので、お祭りの正装の一つともされています。
正装なんですね。急にあらたまった感じです。
特徴としては、襟が無い前開きのシャツで、
袖口が広くくびれもない、ゆったりとした作りをしています。
じめじめとした日本の夏に適しており、
パジャマのように楽に着られて、かつ、
少しのお出かけなら外にも着ていけます。
今流行りの、ワンマイルウェアですね。
時代に合ったアイテムと言えるでしょう。
さて、こちらも「ダボシャツ ファッション」でインターネット検索をしてみました。
羽織にしたり、ゆったりしたボトムに合わせてリラックスコーデにしたり、
さまざまなコーディネートが見つかりました。
また、いわゆるお祭りのダボシャツではなく、
襟付きの大きめのシャツのコーディネートも、
関連して出てきます。
「ビッグシャツ」「オーバーサイズシャツ」
と言われる大き目サイズのシャツは、
体型をカバーしたり、細い部分を引き立てたりと、
かえって女性らしさを際立てるアイテムとして
話題になっています。
「ダボシャツ」も解釈を広げれば、
女性の魅力を引き立てるアイテムになるんですね。
これしか着られない、という「ダボシャツ」ではなく、
さまざまな着方が楽しめる「NEOダボシャツ」
でお洒落の幅が広がるなら、
きっと楽しいのではないでしょうか。
脚のシルエットを隠したい
O脚でお洒落が楽しめないという声も耳にします。
脚のシルエットを隠したい、
隠すしかないから選択肢が狭くなる、というもの。
一方でO脚は、カーブパンツのシルエットでもあると思います。
昨年あたりから流行のカーブパンツは、
脚の部分がOの形に湾曲したパンツで、ストレートパンツよりも柔らかい印象を与えるので、
幅広のシルエットで脚を隠せるだけでなく、より魅力的に見せることができます。
O脚だからまっすぐなワイドパンツで丸ごと隠す、
という選択肢だけでなく、
脚の形に合ったカーブパンツという選択肢で、
お洒落の幅が広がり、
イマドキなシルエットを楽しむことができると思います。
O脚を活かしたコーディネートができるなら、
コンプレックスも軽減されて、
前向きになれるかもしれません。
隠したくなる非対称
過去の記事でも触れてきていますが、
リンパ浮腫や、骨格の変化に伴うのが、
「非対称」という言葉です。
「非対称」をポジティブに変換するなら、
言わずもがな「アシンメトリー」。
歴史的には、1980年代のコムデギャルソンや
ヨウジヤマモトのような
DCブランドのファッションが先駆けでしょうか。
服や小物、ヘアスタイルなど、
「アシンメトリー」は今や定番のお洒落ワードです。
調べてみると、袖がアシンメトリーなトップスも、
市場にさまざまあります。
筆者自身も、アシンメトリーな
袖のニットを愛用しています。
ストールをプラスして、アシンメトリーに見せることもできますね。
ボトムスも、形だけでなく、
柄がアシンメトリーなものもあるので、
選択肢は豊富だと思います。
非対称ボディに優しく、かつ、
より素敵に見せてくれるファッションがたくさんある現代は
良い時代だと、しばしば思います。
ファッションは、ポジティブ変換が得意
いくつか、ポジティブ変換の例を紹介しましたが、
いかがでしたでしょうか。
冒頭でも述べたように、ファッションは、
意外性も楽しめる多様性に富んだものであるため、
ポジティブなとらえ方がしやすいと感じています。
病気や加齢による身体の変化に対するネガティブな思いも、
ファッションをとおして、
「これもあり」「むしろ良い」とポジティブに変換していけたら、
自己肯定感の向上にもつながるのではないでしょうか。
もちろん、患者さん自身の思いや感じ方を受けとめ、
理解することがまずは大切です。
むやみにポジティブな考え方を押し付けることは、
患者さんの負担感になりかねません。
患者さんの言葉を聞き、受けとめ、一緒に考え、
一緒にポジティブな考えへと変わっていけたらいいなと思います。
やたらポジティブな筆者の考え方が、皆様にとって少しでもヒントになるなら幸いです。
本連載は今回で最後になります。
読んでいただいた皆様に、厚く御礼申し上げます。
お付き合いいただき、ありがとうございました。
=参考=