第11回 スーツじゃなくても「きちんと見え」のヒケツ

第11回 スーツじゃなくても「きちんと見え」のヒケツ

2020.10.16 update.

吉備悠理(きびゆうり) イメージ

吉備悠理(きびゆうり)

健康科学に興味を持ち2016年に東京大学医学部健康科学科に進学。看護学を専攻。服飾サークルに所属するなどファッションへの関心も高く、看護分野におけるファッションの意義を考え始め、医学看護学の枠にとらわれない形でファッション×看護に取り組むために、免許取得後、アパレルメーカーへ就職。

がん看護の授業で出会ったリンパ浮腫の写真に「むくんだらお洋服どうすれば良いの?」という素朴な疑問を抱き、リンパ浮腫患者のファッションの研究に着手。卒業研究では「リンパ浮腫とうまくつきあうスタイルブック」(http://www.adng.m.u-tokyo.ac.jp/s_201806.html)を開発した。

↓連絡先↓
yuuri.kibi.contact@gmail.com

この連載では、社会生活のための
衣服を特に大切にしています。
 
人に会う、仕事をする、晴れの席に参加するなど、
社会生活において、「何を着ていこう」と
悩んでしまうことは誰にでもあります。
 
 
また、TPO(Time・Place・Occasion)に合わせた服装、
特にスーツやフォーマルウェアは、
ときとして身体的に不自由なことがあります。
 
私自身も、スーツは肩がこる感じがして、疲れます。
 
病気や障がいのある方には、
一般的なスーツやフォーマルウェアがいっそう不自由になりえます。
 
車椅子を使っているためにフォーマルウェアが着られず、
お子さんの入学式に行けなかったというお話や、
年をとってあらたまった服装も大変だから、
集まりに参加するのもおっくうに感じてしまうというお話もありました。
 
あらたまった服装ができないことは、
そういう服装が必要な場に参加できないことにつながり、
社会生活においてバリアになります。
 
ただ、あらたまった服装のルールも、
昨今はゆるくなってきているようにも思います。
 
いわゆるスーツやフォーマルウェアじゃなくても、
「きちんと見え」する服装であれば問題なし!という雰囲気を感じます。
 
 
あらたまった場での服装の選択肢が増え、
社会生活におけるバリアが小さくなってきているのは、
素敵なことだと思います。
 
とはいえ、どんな服装ならOKなの?という疑問もちらほら聞こえてきます。
 
そこで今回は、身体に負担をかけず、
フォーマルなお洒落を楽しむための
「きちんと見え」のヒケツを紹介します。
 

「きちんと見え」のヒケツ

 
あらたまった場でも着られる、
きちんとして見える、そんな「きちんと見え」には、
いくつかのポイントがあります。
 
(1) 肌の露出を控える
(2) 光沢感やマットな質感の生地を選ぶ
(3) 色遣いを上下で合わせる
(4) プレスを取り入れる
 
 

(1) 露出を控える

 
200927_露出控えめ.png
 
肌をきれいに見せる素敵なフォーマルウェアももちろんありますが、
それは形のしっかり決まったドレスやブラウスの話。
 
身体にやさしいゆったり服の場合は、
肌は隠れるほうが、きちんとして見えます。
(ゆったり服で露出が多いと、だらっとして見えかねません…)
 
 
 

(2) 光沢感やマットな質感の生地を選ぶ

200927_素材感.png
服の生地には、カジュアル向けとフォーマル向けがあります。
デニムやTシャツの生地はカジュアルですし、
光沢のある生地やシフォンのような透けた生地はフォーマルな感じがします。
 
ニットでも、編み目の細かいものは上品でフォーマルにも使えますし、
カットソーも、編み目が細かく、ポリエステルなどの
少し光沢のあるものならきちんとして見えます。
 
生地がフォーマルなものなら、
形は楽ちんでもフォーマルウェアのように着ることができそうです。
 
 
 

(3) 色遣いを上下で合わせる

 
200927_セットアップ.png
 
スーツ「もどき」もありです。
上下で色を合わせると、きちんとして見えます。
 
私も、ジャケットを着る代わりに
パンツと色を合わせたカーディガンを着てそれっぽくしています。
 
むしろ、ジャケットほどかっちりとせず、こなれた感じです。
 
 

(4) プレスを取り入れる

200927_プレス.png
 
生地をプレスしたものも、「きちんと見え」します。
プリーツのブラウスや、センタープレスのパンツなど。
 
プリーツは体型カバーになりますし、
ゆったりして締め付けないので、身体にやさしいと思います。
 
同じくゆったり系のワイドパンツも、
センタープレスならフォーマルな装いにも使えます。
 
 
 
このような「きちんと見え」のヒケツは、
患者さんに教えていただいたものも多くあります。
 
浮腫だったり、リウマチだったり、
患者さんの状態はさまざまですが、
一般的なフォーマルウェアを着るのは難しいけど、
あらたまった服装をしてお出かけしたい!という思いが、
 
たくさんの工夫につながっています。
 
 

「きちんと見え」アイテムとコーディネート

 
「きちんと見え」ファッションに使えるアイテムと、
ご提案したい妄想コーデを紹介します。
 
200927_つけ襟フリル.png
 
露出を少なくするのにお役立ちなのが、つけ襟。
フリルタイプやシャツタイプなど、
さまざまなものが売られています。
 
腕や肩の障がいでブラウスが
着にくい方におすすめしています。
 
年齢とともに、首元を見せたくなくなったり、
首を冷やしたくなかったりと、
首を隠す需要は高いように思います。
 
つけ襟は、手持ちの服のイメージチェンジもできますし、
お役立ちアイテムではないでしょうか。
 
 
200927_つけ袖.png
 
最近、つけ袖というものも見つけました。
ひらひらとしたシフォンのカバーをつける感じです。
 
私は普段、ミセスアパレルでお仕事をしていますが、
ミセスのお悩みでよく聞くのは、二の腕。
 
素敵なブラウスでも、二の腕がきつかったり、
着づらかったりすると大変なのだとか。
 
つけ袖なら腕がきつくないですし、
視覚的にも二の腕をカバーできそうです。
 
腕の浮腫の患者さんでも、
ふんわりした袖でカバーしているという方が実際にいらっしゃいました。
 
つけ袖、良いかもしれません。
 
 

ここからは妄想コーデ。

 
 
200927_ゆったり光沢.png
身体を締め付けないゆったりした服も、
光沢×センタープレスでフォーマルになります。
 
200927_センタープレス.png
 
ハイネックも上品できれいだな、と思います。
 
200927_ロンスカカットソー.png
 
光沢のあるカットソーは便利です。
私も、ポリエステル95%ポリウレタン5%の
ハイネックカットソーを愛用しています。
 
脚を隠すのにはロングスカートが便利。
 
マキシ丈もいいですが、ふくらはぎの下くらいの丈も上品だと思います。
 
200927_セットアップコーデ.png
 
最近気になっているのが、ニットのセットアップ。
 
スーツみたいにかっこいいものもあるので、
フォーマルに使えそうです。
 
楽ちんでかっこいいなんて、優秀。
 
ただ、部屋着っぽさと紙一重なので、
アクセサリーや靴でフォーマル感を出すことをお勧めします。
 
 

「普段着以上スーツ以下」の重要性

 
身体に負担をかけずにフォーマルなお洒落を、
ということでご紹介しましたが、
看護において、この「きちんと見え」のファッションは、
普段の生活でも大切だと思います。
 
治療中の患者さんの服装は、
身体への負担の軽減や身体の保護だけを考えていると、
どんどん部屋着やパジャマに近づいていきかねません。
 
部屋着やパジャマは、リラックスするには最適ですが、
活動的になりたいときや、
人に会いたいときには向かないこともあります。
 
また、パジャマが、自分が病気を患っているという
意識を強めてしまうこともあります。
 
治療しながら、生活の質を高めたいと思うとき、
ときには、患者さんが活動的な気持ちになったり、
人と話したい気持ちになったりできるような
サポートも大切になってくると思います。
 
そんなときに、普段着以上スーツ以下の
「きちんと見え」ファッションは役に立つのではないでしょうか。
いつもより少しきちんとした服を着ると、
気持ちも、しゃんとしそうです。
 
 
身体に負担をかけない「きちんと見え」ファッションは、
身体的な障がいのある方にとって、
フォーマルな場へ参加しやすくするものになりますし、
治療中の方の気持ちを活動的にスイッチングする
手助けにもなるのではないでしょうか。
 
 
ほんの少しの工夫ですが、
病気や障がいと付き合いながら毎日をより豊かにするために、
何かひとつでも役に立つものがあれば嬉しいです。
 

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