maggie's tokyo リアルストーリー (6)

maggie's tokyo リアルストーリー (6)

2015.12.15 update.

マギーズキャンサーケアリングセンターを東京につくろう!ーーマギーズキャンサーケアリングセンターとは

“がん患者と支える人々が自分の力を取り戻すための居場所”が英国のマギーズキャンサーケアリングセンターです。造園家であったマギー・ケズウィック・ジェンクス氏らが、がんと向き合い、対話ができて、医療の専門家もいる場所をつくろうと、入院していたエディンバラの病院敷地内につくった素敵な空間が始まりです。
建築とランドスケープが一体化したやすらげる空間が患者の不安を軽減するという考え方に基づき、フランク・ゲーリー氏や黒川紀章氏など著名な建築家がボランティアで設計した個性的かつ居心地のよいセンターが現在、英国内に15か所設立されています。
現在、このマギーズセンターを東京につくろう!という活動が進行中です。ものすごい勢いで進んでいるこの活動にまつわるリアルストーリーを、本シリーズではすこしゆっくりご紹介してきました。
いくつもの出会いが重なって、マギーズ東京へと進んできた、その長かったとも思える準備期間。今回は、秋山正子さんと鈴木美穂さんとともに多くの仲間たちがつながって大きく進み始めたマギーズ東京プロジェクトの用地確保、寄付集め、法人設立といった今までのプロセスを振り返るとともに、今後を展望します。

【文・写真】神保康子(医療ライター)

(前回はこちら)

 

「マギーズセンターをつくりたい!」という思いを胸に、「暮らしの保健室」へ秋山正子さんを訪ねた鈴木美穂さんは「マギーズセンターを日本につくる話って、今どうなっているんでしょうか?」と、切り出しました。

 

秋山さんから、これまでの経緯と、まさに暮らしの保健室が、“マギーズジャパン”の準備室でもあることなどを聞くと、鈴木さんは堰を切ったように、自分のがんの経験とそれからのこと、「マギーズセンターをつくりたい」と考えるようになったいきさつを語りました。「これはもう、変な人って思われてもしょうがないな」と思いながら。

 

一方の秋山さんは、内心驚きつつも、いつも暮らしの保健室でしているように、その話にじっくりと耳を傾けました。

「自分の体験も話してくれて、そして彼女もマギーズセンターのようなものを思い描いて物件探しまでしていた。本気だなと思いました」と言います。

 

■マギーズ東京プロジェクトが動き出す

 

1)“比較的若手”と“ベテラン”が一緒に

 

ここからは、すでにご存知の方もいらっしゃるかもしれません。その翌月、2014年5月には、鈴木さんの大学時代からの友人や、Cue!(註1)の仲間たちなど“比較的若手”チームと、秋山さんがこれまで一緒に走ってきた“ベテラン”チームが一同に会し、「マギーズ東京プロジェクト」が始動しました。

 

“比較的若手”チームは、鈴木さんがテレビ局記者であり、また彼女を応援してきた仲間たちもそれぞれ広告やイベント、土地の開発やアートなどの分野で活躍をしています。

 

“ベテラン”チームは、医療や建築、通訳、ジャーナリズム、広報などの分野で実績のある人たちです。ふたつの力が合わさって、プロジェクトは大きく進み始めました。

 

そのきっかけは、実はもう1つあります。なかなか確保が難しかった建設用地の話を、比較的若手チームのメンバーが提案してくれたことが大きな弾みとなりました。国立がんセンター中央病院とがん研有明病院の、ちょうど中間に位置する、新豊洲の土地です。ここを、のちに2020年までの期限つきではありますが、税金のみで借りられることになります。

 

「どんなものか、体験してもらわないと伝わらない」

 

それは、秋山さんが暮らしの保健室をオープンした時に感じていたことです。まずはパイロットプロジェクトとして、この土地でスタートすることにしました。

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それぞれの本業が終わってから集まり、気づくと終電間近というマギーズ東京のミーティング

 

 

 

 

 

 

2)寄付金のみでの運営にチャレンジ

 

“スタートすることにした”とはいえ、建設のためのお金や運営費は手元にありません。概算で、建築費用におよそ3500万円、年間運営費にも3500万円ほどが必要です。そのほかに、土地の税金や造園費用、家具や備品代などもかかります。

 

英国のマギーズセンターは、すべて寄付金によって賄われています。日本は英国のようにチャリティの文化が醸成されていないとはいえ、マギーズセンターと名乗るためには、同じやり方でなければなりません。もちろん、そのほか多くの条件がありますが、お金がないことには前に進めないのが現実です。

 

「日本にも賛同してくれる人はきっといるはず!」と、マギーズ東京のメンバーたちは、クラウドファンディングやイベントなど、寄付集めの活動を本格的にはじめました。それぞれ本業がありながら、自分の時間を使って、とにかく走り始めます。

 

併行して、NPO法人になるための準備も進めていました。慣れないながらも、こまごまとした書類を揃えて何度も提出し直したり、理事や監事のお願いをして回ったり。その甲斐あって、医療や建築、法律、税務、会計などの分野から、協力を得られることになりました。

 

そして2015年4月、NPO法人マギーズ東京が誕生。予定地にマギーズセンターを建てるため、そして運営していくために、寄付集めと支援体制づくりなど、さまざまな準備に法人として邁進しています。

 

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2014年9月に開かれた、マギーズ東京プロジェクトのキックオフミーティングには、大勢の支援者が集まりました(写真提供:マギーズ東京)

 

 

 

 

 

3)人と環境の両輪を整える

 

さて、マギーズ東京に関わる2人の出会いについて、振り返ってきたこのシリーズは、ここで一区切りです。

 

現在、予定地にパイロットプロジェクトとしての建物がやっと建つだけの資金は、「なんとか目処が立ってきたところ」(秋山さん)。来年1月には起工式を予定しています。でも、箱ができただけでは、それこそ日本流に言うところの「仏つくって魂入れず」状態ですから、引き続き運営資金などを集めながら、大切な中身である支援体制をしっかりつくっていかなければなりません。

 

そもそもマギーズセンターは、マギーさんという、がんを患った一人の女性のインスピレーションに、周囲の支援者が共鳴して生まれました。身近に寄り添ったのは、ご主人で世界的に有名な建築評論家のチャールズ・ジェンクスさんと、マギーさんの通っていた病院の担当看護師だったローラ・リーさんたち。ローラさんは、現在マギーズセンターのCEOでもあります。

 

各センターには、原則として看護師か心理士のセンター長と、がん相談に精通した看護師、臨床心理士、福祉給付アドバイザー(註2)、ボランティアという5名が常駐することとなっています。「経験豊かな、専門性の高い、少人数のスタッフチーム」であることが重要だといいます。

 

がんとともに生活をする人たちが、自分の足でふたたび歩き出す力を取り戻す、そのための場で、当事者の視点はもちろん、看護師の存在が重要な役割を果たしているのは明らかです。

 

新シリーズでは、看護をキーワードに、掘り下げていきます。

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註1)前回(第5回)で紹介した、鈴木美穂さんが立ち上げた、がん患者向けにヨガや料理、アートなどのワークショプを開催する団体。

註2 )がんの治療中には、仕事を辞めたり減らしたりせざるを得ない状況になる人が多いのは、英国でも同じで、補助金や経済的な面について相談を受ける専門のスタッフがいます。

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編集室より:次回から新シリーズ。マギーズ東京プロジェクトにかかわる看護職の活動をご紹介していきます。本シリーズと同様、神保康子さんによる執筆です。ご期待ください!

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