かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-
2015.7.13 update.
名古屋大学大学院医学系研究科看護学専攻
がんプロフェッショナル養成基盤推進プラン特任准教授 阿部まゆみ
英国の保健医療政策NHSは、「揺りかごから墓場まで」と称され、生まれた時から死に至るまで、国民が平等に受けられる公的サービスです。1993年の地域ケア条例により、保健・医療・福祉分野の連携による地域社会の総合的なコミュニティケアシステムが打ち出されました。さらに地域病院とホスピス、行政・地域保健局との協力による統合的・包括的な地域ケアシステムが強化されました1)。
一方、わが国では2人に1人ががんに罹患し、3人に1人ががんで死亡しています。患者自身が如何に生きるかに加え、如何に生を終えるかが重要な課題となっています。しかしながら、在院日数の短縮化に伴い、がんを抱え外来治療と継続的ケアを受けながら、「生き方上手」の支援法が示されていないのが現状です。
がん患者がトータルに心身のQOLを高めつつ自分らしく生き抜くために、地域における支援体制の整備が急がれます。今回はドロシーハウスで展開されているホスピスと在宅をつなぐシームレスな医療的支援として、デイホスピスが大きく関わっていますのでご紹介します。
■NHSを軸としたPrimary Care Teamとドロシーハウスチーム
がん治療から退院後のフォローアップ、終末期に至る全ての経過において医療機関と地域の保健医療福祉資源を生かした包括的緩和医療体制が整備されました。NHSを軸に地域のPrimary Care Teamとの連携で、医療活動を提供しています。一方、ドロシーハウスはホスピス・緩和ケアの専門職チームによる医師、看護師、医療ソーシャルワーカー、理学療法士、デイケアナース、家族支援ナース、ナーススペシャリストによるチームで構成され、コミュニティとの連携で包括的な医療サービスを提供しています2)。
■ドロシーハウスにおける緩和ケアサービスの展開
ホスピスに「ホスピス病棟」があり、「在宅ホスピス」があるのに、「デイホスピス」がある。なぜでしょうか?
ドロシーハウスから退院した患者の経過観察は、Primary Care Team(かかりつけ医、訪問看護師)に託されます。しかしながら、1人暮らしの患者は様々な症状を抱え不安な生活していることが分かりました。
これらに対し、ドロシーハウスでは、1985年よりPrimary Care Teamを補完する目的でデイホスピスを開始しました。 デイホスピス場所は本館1階の外来棟の一角にあり、広い空間の談話室にはゆったりとした椅子が置かれ、明るい雰囲気に包まれています。
■ドロシーハウスにおけるデイホスピスの展開
デイホスピスは、自宅療養している患者が在宅療養を継続できるよう、医療・看護の視点で必要な支援を提供することです。Eveらは、「デイホスピスとは、自宅療養している患者と家族に対して、専門職によるさまざまなセラピーを提供し、心身のQOLの向上を図る専門的・技術的なサービスである」と定義しています3)。ドロシーハウスでは、退院する時にはケアパッケージとしてデイホスピスが導入されています。
■デイホスピスの目的
ドロシ―ハウス デイホスピスで看護師が優先することは、初回の面談で患者と家族のニーズを明確化し、ケアプランを立案し,薬剤の確認と対処、必要時に家族面談、必要時看護カウンセリングなどの設定です。参加者が置かれた状況は、余命1か月~1年と幅が広いです。デイホスピス利用終了にあたって、開始6ヶ月後を目途に利用を終える場合と患者のニーズが変更した場合は終了となります。
■デイホスピスにおける症状マネジメントの実際
デイホスピスは看護師主導で進められます。がん闘病は地域をベースとするため病院と地域を行ったり来たりする患者が増えるようになり、その移行期のケアとしてデイホスピス(緩和デイケア)が必要となってきた経緯があります。デイホスピス看護師の役割は、利用者が家で安心して日常生活を継続できるよう、ヘルスニードを把握し、必要なケアを明確化することに始まります。
がん患者の症状では特に、痛み、呼吸困難感、嘔気と嘔吐、不眠、不安、うつ、食欲不振、便秘、褥瘡、排尿困難や便失禁、家族の不安が挙げられます4)。これらに対して、薬の効用や体調など日常生活上の困り事を把握し、在宅療養が継続できるよう支援します。利用者に問題等が生じた場合は、看護師が対応しますが、与薬の変更等は主治医のGP に連絡し対処します。デイホスピスは、痛みや呼吸困難感や倦怠感などの身体面、再発・転移に伴う不安や孤立感など心理面など、多様なニーズに対応する医療サービスです。主に症状管理とモニター、専門職(チャプレン,MSW,MLD,PT,OT)によるサポートを受けQOLの改善にあります。また、Higginson先生の研究によると、デイホスピス利用者とホスピス入院患者の医療費では約3分の1の差があるとの報告があります5)。
このような点からも、1週間に一度デイホスピスに参加し、専門職によるサポートを受けながら過ごす時間は貴重なものとなるようです。これらは、適切なタイミングで適切なケアを受けることによりコストパフォーマンスにも反映すると云えるでしょう。デイトリートメントでは、各自の状況に応じてリンパ浮腫治療やマッサージ、呼吸や体力リハビリテーションなどを提供しています。
■おわりに
英国では、デイホスピスはがんと歩む人々の早期から‘Cancer journey’支援アプローチとして広がりました。緩和ケアサービスは、ホスピスを初めに、次いで在宅緩和ケア、そして3番目にデイホスピス、4番目に病院緩和ケアチームへと展開されています。デイホスピスが在宅療養中の患者と家族への緩和ケア支援プログラムに組み込まれたことで、QOLの維持向上に貢献してきました。このように、デイホスピスはがんを患う人々に対してケアのプロである看護師がコミュニケーターとして介在することで、利用者の心が開かれ、希望へとつながる可能性を秘めた支援システムと言えるでしょう。
わが国では、2人に1人ががんに罹患するとされる中、早期緩和ケアサービスの一環にデイホスピスが組み入れられる日はもうすぐそこまで来ていると思います。
1) NHS:National Health Service Act:1948による
2) Dorothy House Hospice Care:Patient Handbook Hospice care in your own home
3) Eve and Smith A. M. Tebbit P: Hospice and Palliative Care in the UK 1994-5, including a summary of trends 1990-5. Palliative Medicine11(1):31-43.1997.
4) Julie Hearn, Kathryn Myers: Palliative Day Care in Practice Oxford University Press p14-18. 2001
5) Hearn, J. and Higginson, I,J(1998).Do specialist palliative care teams improve outcomes for cancer patients? A systematic literature review. Palliative Medicine,
12,317-32
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