(1)英国の

(1)英国の"地域包括的緩和ケア"の実情

2015.6.15 update.

名古屋大学大学院医学系研究科看護学専攻
がんプロフェッショナル養成基盤推進プラン特任准教授 阿部まゆみ


   
わが国では「2人に1人ががんに罹り,3人に1人ががんで死亡する」とされ,がん罹患率は男女ともに50歳代から増加し,高齢になるほど高くなっています。このような中,がんに罹患しても尊厳の保持と自立生活の支援がかなえられることにより,可能な限り住み慣れた地域で最期まで暮らせるよう,地域包括ケアシステムの中に十分な緩和ケアの提供体制が組み込まれることが求められていますが,いまだ十分ではありません。


一方,筆者がかつて看護師として活動した英国では年間16万人ががんで死亡していますが,8割の患者が何らかのかたちで緩和ケアサービスを受け,うち4割を在宅ケアサービスが支えています。
筆者はこの秋,地域包括的緩和ケアの先進国である英国のホスピス「ドロシーハウス」から,Tricia Needham先生(医師)とWayne de Leeuw先生(看護師)をお招きし,地域包括緩和ケアサービスの実践について日本の医療者の方とともに学ぶ機会を企画しています。この機に合わせ,これから複数回にわたって英国の緩和ケアの提供体制や,ドロシーハウスにおけるホスピスケアの実際をご紹介します。

 

■英国における在宅ケア体制
英国では1948年に創設された国営の国民保健サービス,NHS(National Health Service)によって,全ての国民に対して無料で医療が提供されています。また,各地域に根差して活動する多職種で構成されたプライマリヘルスケアチーム(Primary health care team)を軸に,在宅医療と病院とが連携して医療提供を行っています。


在宅で療養を続けるがん患者に対する支援体制ですが,前述のプライマリヘルスケアチームの地域看護師(ディストリクトナース)がかかりつけ医(居住地区登録医,以下GP:General Practitioner)と連携して,地域ケアを提供しています。また在宅患者への緩和ケアについては,マクミランナースとマリーキュリーナースが,互いに補完しながら活動を行っています。


マクミランナースもマリーキュリーナースも慈善団体により活動資金が提供されています。それぞれの具体的な役割ですが,マクミランナース(がん看護専門看護師)が,他職種間のコーディネート役割と症状コントロール(薬の処方・ケアのアドバイス),精神的サポート,家族サポート,社会福祉・公的支援のアドバイスや地域の医療スタッフの教育などを担っています。


マリーキュリーナースはキュリー夫人の基金により運営資金が拠出され,死にゆく患者と家族の休息のために,看護師が夜間帯(22時~翌8時まで)患者宅に滞在して,ケアを提供しています。

 

図1 英国における緩和ケア支援体制
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■英国の緩和ケア関連サービス
英国の緩和ケア関連サービスには,ホスピス緩和ケア病棟223施設,在宅ケアサービス291チーム,ホームホスピス(ホスピス緩和ケアの経験を持つ介護士を患者宅に派遣し,在宅ターミナルケアを提供する[24時間,最高2週間]。限られた地域のみのサービス)129機関,デイケアセンター275施設,病院内緩和ケアサポートサービス346チームがあります1)。ちなみに,英国では有床ホスピスのほとんどが在宅ケア部門(医師,看護師,PT,ソーシャルワーカー)を持っており,ホスピスの34%がNHS,65%が地元住民からの募金で運営されている慈善組織です2)。


これらの活動において多職種による介入が求められる中で,Higginsonらにより開発され,現在わが国において診療報酬(がん患者指導管理料)算定の要件ともなっている「緩和ケア評価尺度STAS(Support Team Assessment Schedule)」が導入された経緯があります。


また,在宅緩和ケアが医療システムに組み入れられた背景には,QOLやQODD(Quality of Death/ Dying)に対する関心の高まりがありました3)。2012年の調査において,がん患者が亡くなった場所は,総合病院(56%),ホスピス(7%),在宅(25%),老人ホームやナーシングホーム(12%)となっています4)。一方,わが国では年間36万人ががんで亡くなっていますが,病院(緩和ケア病棟を含む)が9割であり,在宅は1割弱であり,患者が望む自宅での看取りにはほど遠い現状があります。

 

■日英のデイホスピスの活動の実際
英国では1975年に,Sheffield St Luke’s Hospiceでデイホスピスが始まり,緩和ケア施設とGP,病院を橋渡しする役割を果たしています5)。Tebbtは「デイホスピスとは,自宅療養している患者と家族に対して,専門職によるさまざまなセラピーを提供し,心身のQOLの向上を図る専門的・技術的なサービスである」と定義しています6)。デイホスピスは在宅ケアに次ぐ新たなコンセプトとして「通所型」ホスピスが誕生し,専門的緩和ケアサービスの重要な一部となりました7)(図2)。
一方,わが国ではがんサバイバーの増加に伴い,2004年に広島県緩和ケア支援センターにデイホスピスが設置されたのが始まりです。その後,がん患者や家族の交流の場として,街のコミュニティサロン,地域がんサロン,がん診療連携拠点病院の院内がんサロン,PCU併設型サロン,キャンパス型サロンと活動の輪が広がっています8) 。地域包括ケアシステムの進展に伴い,このデイホスピスの量的・質的活動の充実がいまわが国に求められています。

 

次回は,ホスピス「ドロシーハウス」における緩和デイケア,家族ケアについてご紹介します。

 

図2 緩和ケアのサービス利用率
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*誤:カナダ(黄色)「地域緩和ケアチーム」→「ホスピス・緩和ケア病棟」

 

◎引用・参考文献
1)Hospice & Palliative Care Directory United Kingdom and Ireland 2012-2013
2)St .Christopher’s Annual Review 1998.
3)Irene Higginson :Clinical Audit in Palliative care. Radcliffe. Medical Press p8-15 1993
4)D. Clark: The Future for Palliative Care Issues of Policy and Practice. Open University press,6-12. 1997.
5)Hearn,J., Myers, K.: Palliative Day Care in Practice. Oxford University Press,2001.
6)Tebbit, P., Eve and Smith A. M.: Hospice and Palliative Care in the UK 1994-5, including a summary of trends 1990-5. Palliative Medicine,11(1),31-43,1997.
7)Faulkner,A.,Higginson, L., Egerton, H., Power, M., Sykes, N. and Wilkes ,E.: Hospice day care: a qualitative study. Trent Palliative Care Centre and Help the Hospice Sheffield,1993.
8)阿部まゆみほか:がんサバイバーを支える 緩和デイケア・サロン.青海社,38-44,2015.
 

 

第153回国治研セミナー「地域包括緩和ケアを成功させるエッセンスを学ぶ」のお知らせ
 
記事で紹介されている「ドロシーハウス」の医師と看護師が東京と大阪にやってきます! 英国バース郊外で “医療・看護・介護をシームレスにつなぐ”地域包括緩和ケアを展開している実践者たちです。
日々の実践の中から抽出された地域包括緩和ケアのエッセンスを聞く、またとないチャンスです。ぜひご参加ください。
 
【東京】2015年9月19日(土)20日(日)日本教育会館 
【大阪】2015年9月22日(火・祝)23日(水・祝)新梅田研修センター
【講師】
Tricia Needham (トリシア ニードハム)先生
(ドロシーハウス ホスピス 医師)
Wayne de Leeuw (ウェイン デュ リュウ)先生
(ドロシーハウス ホスピス 看護師)
コーディネーター:阿部まゆみ 先生
(名古屋大学大学院医学系研究科看護学専攻・がんプロフェッショナル養成基盤推進プラン特任准教授/看護師)
 
 
お申し込み・プログラム詳細はこちらから。

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