かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-
2014.3.31 update.
高知医療再生機構 企画戦略担当特任医師,仁生会細木病院 内科/臨床研修担当
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【書評】
よりよい現場づくりに燃える若手医師にもぜひ薦めたい
『ナースマネジャーのための問題解決術』
◉看護師向けの本に,名著あり
6年目の医師である筆者がこの本を読んで最初に思ったことを,失礼を承知で申し上げるならば,なぜこの本を「ナースマネジャーのための」と限定してしまったのか,ということだ。編集者を小一時間ほど問いつめたい気分だ。率直な感想を言えば「僕(医師)も読者対象に混ぜろ」ということである。
研修医時代に,超デキル外科のレジデントの先生から「看護師さん向けの本に名著あり」と教えられた。本質を理解し無駄を削ぎ落とさないとわかりやすい本というのは書けないからだそうだ。この本はまさにその言葉に該当する1冊であろう。
表紙も一見控えめな感じで '気' を殺しているから,よほどの手練かスカウターを装着してる人でもなければスルーしてしまうかもしれない。
◉こんなあなたに,この本を薦めたい
しかし,この本の学びを現場で発揮できる人はナースマネジャーに限らないと確信する。次のような人にも効果テキメンなのではないか。
①good practiceをやれている自負はあるのだけれど,それをどう伝えたり広めたりしたらいいか分からない若手ドクター
②グループワークがまとまらなすぎて困っている医療系学生
③投書箱や患者満足度調査などをやってはみたものの,うまく活用できている自信が全く持てない医療現場の各担当者
④研修も頑張ったし,医療スキルはそこそこ自信あるんだけど,なんだか周囲との関係性がうまくいってないドクター
⑤“会議のための会議”にうんざりしている全人類
◉マネジメントは40代の仕事?!
さて,あらためてなぜ僕ら若手医師にマネジメントが必要なのかを問うてみたい。
そもそも,ほとんどの人が「マネジメントなんて40代の仕事じゃない?」と思っていることが日本の医療機関のマズイところだと思う。
実際の臨床現場で僕ら若手医師を悩ますのは,診断などの医学的なことよりも,組織や人間関係も含めた社会的な問題の方が多いのではないかと思う。よりよい環境をつくるために,現場における「マネジメント」の守備範囲は,思っていたよりもずっと広かった。
だからこそ,逆に伸びしろの期待できる分野であるとも思うし,昨今MBAに興味を持つ若手医師や学生が増えていることはそれを裏付けている。
繁盛しているレストランには,サービスの質を最大限に発揮するため,現場のノウハウと人の動かし方を熟知したホール責任者が存在する。医療現場にもそのような存在が必要なのである。
以前,尊敬する先生から「マネジメントはtrainable(訓練可能)なスキルである」と教わった。であるならば,僕ら若手医師がそのノウハウをできるだけ早く学ぶべきであろう。
◉マネジメントは訓練可能なスキル
多くの場面でプレイング・マネジャーとしての働きを求められる我々医師にとって,本書はまぎれもなく至高の1冊である。医療に特化した現場のマネジャー対象で,しかも病院や診療所の経営者向けではない本というのは僕の知る限りほとんど存在しなかった。現場での「あるある」が詰まっているからこそ,「これなら僕らでもやれるかも!」という気持ちにさせてくれる。
筆者は,2013年度の冬に本書の共著者である鐘江氏の所属先,聖路加国際病院で研修を行った。実際に病院の中を見て感じたことは「やるべきことを,しかるべきプロセスで,きっちりやっている」ということ,そして「意思決定の速さ」に驚かされた。
同院で経営企画を担う鐘江氏が執筆したこの本を通して,聖路加国際病院という組織の意思決定の速さの秘訣を見た。また同院で実践されている「しかるべきプロセス」をガッチリ押さえられることが本書の魅力だと思う。同時に,それは「聖路加だからできる」ということではないのだということも, 本書を通じて分かったことだ。
◉マネジャーに必須のスキルが学べる1冊
マネジャーになるような優秀な人たちは,当然仕事がデキる。問題に対して何をすればいいのかも大まかには分かるのだろう。
しかし,マネジャーのあなただけが解決策を知っていてメンバーに指示を出したとしても,多分チームはうまくいかない。なぜならば,あなたにだけ見えている文脈やノウハウを,メンバーの誰にでも分かる言葉に落とし込んで共有しなければ,他のメンバーには何のためにそれをするのか伝わらないからだ。
しばしば忙しい医療関係者は「言語化」や「共有」の過程を面倒がってサボってしまいがちだ。そこからミスコミュニケーションが積み重なってチームワークが発揮できず,もっと面倒臭いことになってしまう。
この本には,僕らがニガテとする「言語化」とか「共有」を含め,問題解決のプロセスを着実にすすめていくための生粋のノウハウがある。本気で,無駄が無い。
バックグラウンドが異なる専門職ばかりで,放っておいたらすぐに仲が悪くなりがちな「病院」という組織において,僕らのような小回りの効く若手医師がこの本に書かれているメソッドを習得したら結構イイ線いくんじゃないかなあ―—そのような妄想を抱かせてくれる良書である。興味を持った方は読書用,保存用,歓送迎会等のビンゴ大会の景品用と最低3冊は購入することをお勧めする。
ロジカルに考え、データに基づいて判断する。師長・主任の必修スキル!
師長・主任の仕事は、現場で生じる様々な問題に対し、ロジカルに考え、データに基づいて判断し、対処していくこと。本書では、問題解決術のツールや考え方を、現場の師長・主任のために7つのステップにまとめた。ロジックツリーやMECEを活用した論理的思考法からデータ分析まで、豊富な図解で誰もが実践に活かせる問題解決術を身につけることができる本。