かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-
2013.9.11 update.
『訪問看護と介護』2013年2月号から、作家の田口ランディさんの連載「地域のなかの看取り図」が始まりました。父母・義父母の死に、それぞれ「病院」「ホスピス」「在宅」で立ち合い看取ってきた田口さんは今、「老い」について、「死」について、そして「看取り」について何を感じているのか? 本誌掲載に1か月遅れて、かんかん!にも特別分載します。毎月第1-3水曜日にUP予定。いちはやく全部読みたい方はゼヒに本誌で!
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→『訪問看護と看護』関連記事
・【対談】「病院の世紀」から「地域包括ケア」の時代へ(猪飼周平さん×太田秀樹さん)を無料で特別公開中!
ある日、父は、いきなり抗精神剤のようなものを点滴されて、まるで廃人のようになってしまいました。徘徊をするのを防ぐためだと言われても納得できず、抗議しましたが聞き入れてもらえませんでした。
「お父さん、すっかりおとなしくなっちゃったねえ」
と、フィリピン人の介護人がため息をつきました。
「こうしてみんな病院で殺されちゃうのよね……」と。
この病院で、私のなかにだんだん「人間として生きる」ってどういうことか、という疑問がわいてきました。
人間として……というよりも、父が父として生きる……というべきかもしれません。それは、どういうことか、父に代わって考えることができるのは「娘である私だけだ」と、やっと自覚できたのです。それが、父の家族である私の役目なんだ……と。
多くの人がお見舞いに来て、父の変化を見て「気が狂ってしまったようだ」「お気の毒に」「ボケちゃってかわいそう」などなど、勝手なコメントをしていきました。父の兄弟もそうでした。たまに会う人は、父の変化にがく然とし、違う人間になってしまったと思うようでした。そりゃあ、顔を忘れていたり、見えないものが見えたり、今ここがどこなのかわからなくなってしまうのだから「変だな」と思うのもしょうがありません。
父は、そういう相手の対応にとても敏感でした。自分をないがしろにしている相手のことは、すぐわかるようでした。
そうなんです。父はもともと神経質で、とても勘の鋭い人でした。その父の性格や能力は失われないのです。だから父は、相手の顔を忘れていても、相手が自分をどう見ているか……はちゃんとわかるのです。その人が帰ったあと、父は「なんだ、あいつはずいぶん太ったな」とか、「口数の多い奴だ」などと短いコメントをするのですが、その言葉に父の相手に対するちょっとした不愉快さが現われていて、しかも実に的確なので、感心したものでした。
そんな父を、薬でおとなしくさせてしまう病院には不信感をもちました。
ここにいたら、このまま死んでしまう。そう思いました。
二度と退院もできない。このまま、廃人のまま死んでしまう。
「みんなそうよ。そのうち家族も見放して、ひっそり死んでいくのよ」
と、フィリピン人の介護人は父の涎を拭きながらつぶやきました。日本人ではないせいか、この人の言うことは率直で容赦ないのです。それがかえって私には心地よかった。思ったことをすぐしゃべってしまうこの人には、裏表がありません。
「あの人は、ちょっと口が悪いけれど悪気はないから」
派遣会社の女社長は、そう言っていました。ズケズケ言うから、トラブルも多いそうです。でも仕事は真面目で手を抜かないし、なにより、父に人間として接してくれました。ときどき、ボケた父と口論などもしており、父は彼女のことを母の妹だと思っているようでした。母には女きょうだいがたくさんいたので、そのうちの1人が手伝いに来ていると思い込んでいたのです。彼女は父が精神科病院に転院したあと、二度ほど電話をかけてきて様子を気にしてくれました。
「こちらに転院して、正気に戻ったんだよ」
と報告すると、
「よかったね。お父さんは強いよ。まだまだ生きるよ」
そう励ましてくれました。
いよいよ高まる在宅医療・地域ケアのニーズに応える、訪問看護・介護の質・量ともの向上を目指す月刊誌です。「特集」は現場のニーズが高いテーマを、日々の実践に役立つモノから経営的な視点まで。「巻頭インタビュー」「特別記事」では、広い視野・新たな視点を提供。「研究・調査/実践・事例報告」の他、現場発の声を多く掲載。職種の壁を越えた執筆陣で、“他職種連携”を育みます。楽しく役立つ「連載」も充実。
8月号の特集は「来たれ! 新卒訪問看護師!−千葉県訪問看護実践センター事業の試み」。「新卒に、訪問看護師は無理」。本当にそうなのでしょうか? 意外とそうでもないようです。実際に立派に務めを果たす3人の新卒訪問看護師の座談会には説得力が。もちろん、それにはステーション他のバックアップが必要です。行政・県看護協会・大学が公的・組織的に人材育成を支えた“地域連携型人材育成”に学びます。