かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-
2013.6.07 update.
杏林大学医学部付属病院に長年勤務し、その後、公立病院勤務を経て2007年にひとづくり工房esucoとして起業。現在、ナースファシリテーターとして看護協会、病院での研修セミナー講師、看護部門の業務改善プロジェクトや人材育成についてコンサルティングを実施。生き生きと看護師が語る「語り場づくりファシリテーター」として、看護師への支援活動を行っている。
うらりんより「esuco(ゑすこ)とは,ふるさと出雲弁で「いい感じ」という意味です。医療にかかわる一人ひとりの方が,活き活きワクワク仕事を続けられるような支援をイメージして名づけました」
●前回のおさらい
前回は,ファシリテーションスキルを現場の看護マネジメントに活かす視点から,ファシリテーター型リーダーシップについてお伝えしました。ファシリテーター型リーダーシップとは,中立の立場を取りながら,チームで取り組むプロセスを大切にし,参加しやすい場をつくり,ゴールを共有し,参加者の主体性を引き出すリーダーシップスタイルです。
合わせてお伝えしておきたいことは,これまでの多様なリーダーシップのありかたを否定するものではなく,組織の状況やめざすゴールに即して,さまざまなリーダーシップの取り方がある,ファシリテーター型リーダーシップもそのなかの1つであることを再確認しておきたいと思います。マネジャーまたはリーダーとして,あるいはスタッフとしても,取れる(取るべき)リーダーシップのスタイルは異なってきますし,その環境によってしなやかにスタイルを選択することが重要なポイントになってきます。
さて,今回は「ファシリテーションが創る」,あるいは「ファシリテーションによって生まれる」風土についてお伝えしたいと思います。
●あらためて,「ファシリテーションって何?」
またまたおさらいになりますが,合意形成や組織の活性化などにおいて有用なスキルとされている「ファシリテーションって,何?」ということから始めます。ファシリテートという言葉には,「容易にする」「促進する」といった意味があります。ファシリテーション(facilitation)とは,「(容易な,促進された)状態」を表し,ファシリテーターとはその状態を創る人なのだとお伝えしてきました。
ファシリテーターとは,前に立って話し合いを進行する役割をとることはもちろんですが,たとえばもやもやした場面では,ここはそもそもどういう場なのかと一旦ディスカッションを止めて再確認したり,違う視点で問いを出したり,声にならない声を出しやすくする人だということもお伝えしました。
●多様なファシリテーター…進行役,書き手,代弁者,雑用係
このファシリテーターという役割は,マネジャーやリーダーだけのものではありません。参加者全員が務めることができる役割なのです。
スタッフナースでもいろいろな会議の場で進行役を務めることがあると思いますが,「進行役」としてのファシリテーターはわかりやすいですね。分かりやすく場を進めたり,まとめたりしていきます。
また,話し合いのプロセスを,参加者に分かりやすく,見える化するために,ホワイトボード上などに記録していく,「書き手」(書記)としてのファシリテーターもいます。この「書き手」はグラフィッカーと呼ばれます。グラフィッカーがいれば,とかく空中に飛んでいってしまいがちな言葉を,皆が見える場所に残しながら,話し合いを進めていくことができます。
また,その場に起こった疑問やちょっとした違和感を,代弁して伝えたり,質問をするファシリテーターもいます。その場に起こる雰囲気の変化をキャッチしたり,自分に起こる感覚を大切にしながら,進行役のファシリテーターに,場に起こっていることを参加者として伝える役割です。ちょっとした疑問や違和感を共有につなげるファシリテーターです。
時に,コーヒーやお茶を入れたり,場に必要そうな物品を用意したりする「雑用係」としてのファシリテーターの存在も必要になります。雑用係というネーミングではありますが,その場に起こっているプロセスや微妙な変化を感じ取って,適切に介入するには高度な認知力が必要になる役割です。
ここまで解説してきたように,前に立って場の進行を行う“見えやすい”役割だけがファシリテーターなのではありません。多様な角度,立ち位置から,ファシリテーターが話し合いなどのプロセスを促進していけるようになると,相互作用や変化が起こりやすい状態になると思いませんか。
このような状態を“ファシリタティブな状態”と呼びます。その状態が継続され,メンバーが体験を重ねていくことで,職場に“ファシリタティブな文化”が根づいていくのです。こうした文化が醸成されると,全員の力でプロセスが動いていることを体感することができ,全員が何かを(たとえ,同質ではなくても)手に入れられたという実感を味わえるからです。
ここで大切なのは,誰かに何かをさせられて起こってくる体感なのではなく,自分たちが相互に何かをし合うことで,プロセスが変化したという実感なのです。
「主体的に参加した」という実感は,メンバー自身にチームで協働したという手応えを残します。たとえ結果的に失敗だったと他部門などから評価されたとしても,失敗に打ちのめされず,次はどう取り組めばよいのかという切り返しが早くできるようになります。他者から失敗と評価された結果も,一時的な結果であり,さらに大きな何かに向かううえでのプロセスの一部であると,チームメンバーの文脈に組み込むことができるからです。
このように日々の業務やプロジェクトなどのプロセスにおいて,それぞれが自分の役割と自覚して参加することを繰り返すことで,「自分で判断して―実施して―振り返る」プロセスにつながるのです。つまり,ファシリタティブな場や文化の醸成こそが,スタッフが自律的に動けるようになるための実践的な学びの場づくりになるわけです。
職場内のファシリテーターを育て,ファシリテーターが育つことでファシリタティブな活動が増え,それが螺旋のように繰り返されることで強化され,自律提案型組織がつくられる,というわけです。
組織全体でファシリテーションを取り入れることを考えるとき,前に立ち,わかりやすいかたちでファシリテートする「進行役」モデルのファシリテーターを養成することが,まず最初のステップになります。しかしこれは,ファシリテーションを組織に取りこむ最初のステップにすぎません。
次の段階としては,活動を進行役にだけとどめるのではなく,いろいろな立ち位置でファシリテーター心(ファシリタティブな視点)がもてるように仕掛けていくと,参加者ファシリテーターを増やす事につながり,ファシリタティブな場が増える事で組織全体の風土がかわります。
変化に即応できる恊働の場には,そういうファシリタティブな風土が必要だと考えています。
本日は,大きなスパンで「場をつくる」という見地から,ファシリタティブな風土を創ると言う事をお伝えしました。
次回は,「学び合いとファシリテーション」という視点でお伝えしようと思っています。
ではでは,またね。